俊寛 花道の型 2004.7.24

18日、大阪松竹座の昼の部をみてきました。

主な配役
俊寛僧都 仁左衛門
海女・千鳥 時蔵
丹波少将成経 秀太郎
平判官康頼 翫雀
瀬尾太郎兼康 段四郎
丹左衛門尉基康 我當

「俊寛」のあらすじはこちらをご覧ください。

普通だと島に一人取り残された俊寛が船を追いかけて花道へ出て行こうとすると、花道七三のあたりで押し寄せてくる波(浪布)に、舞台へと追い返されるのですが、今回は以前に同じ松竹座で一度見たことがあるスッポンを使った珍しい型で演じられました。

前回見たときはアッという間の出来事で呆然としてしまいましたが、今回は前もって花道の浪布が本舞台まで来ているのに気がついたので、あの型が演じられるのではと、注目していたのです。

前回はたしか胸までスッポンに入って手を振って叫んでいたといういた記憶がありますが、今回は一瞬ですが完全に頭まで浪布の中に入ってしまい、「おぼれそうになるまで無我夢中で船を追っかけた」ということがはっきりと表現されていたと思います。

前はやはりこの型は全体の中でちょっと突出してしまっているように感じ、ケレンに属する型なのかなと思ったですが、今回仁左衛門はこの型に合わせて全体の色調をいつもより色濃く演じていたようです。

最初のうちは花道の演出があの型だとは知らずに見ていたわけですが、仁左衛門の演技がいつもとは微妙に違っていて、アクを感じさせました。もともと役に対して深い解釈をする役者さんで、文句のつけようのない素晴らしい演技なのですが、それがほんの少しずつオーバーに感じられたのです。

しかし最後にこの型を見た後では、この型に合わせて全体を考えたのではと納得がいきました。そしてこれが、いわゆる上方風というものなのかなとも感じました。

4年前初めて仁左衛門の俊寛を見たとき、「うわぁ、こんなおじいさんを演じてほしくないなぁ」と思ったのですが、今月見た俊寛はかえって若くなっていて、俊寛の実年齢(37歳没)に近くなっているようで面白く思いました。

最後の岩の上で遠ざかっていく船を呆然と見つめる俊寛は、わずかに微笑みを浮かべていました。

ちなみに今回スッポンを使った型は初日から演じられたということで、前回が中日以降だけだったのと比べても意気込みが違ったように思います。

瀬尾の段四郎は敵役としては憎にくしさがちょっと足りなかったですが、新鮮味がありました。少将の秀太郎は女形のイメージが強くて、声も同じですからどうしても女性に見えてしまいます。時蔵の千鳥は綺麗でしたが、田舎娘と言う感じとは違いました。

そのほかは「松廼羽衣」(まつのはごろも)、襲名披露の口上幕と「与話情浮名横櫛」(よわなさけうきなのよこぐし)。

「羽衣」はついこの間金丸座で見たばかりだったので、比べてみるのも面白かったです。今回の羽衣は紫色の薄い生地に金色の鳳凰の羽の模様で、着替えて出てきた時蔵の天女は下げ髪にして金の鳳凰の冠をかぶっていました。

天女が舞いながら天に昇っていく最後のところでは本舞台上での宙乗りを見せる演出もありますが、今回は低くて横に幅のある松の植え込みが真ん中にすえられていて、その中のなだらかな坂を上手から下手へ、途中で折り返して今度は上手にと段々登っていくうちに松があおり返しで雲に変わっていくという大道具を使っての珍しい演出でした。

漁夫の権十郎が、天女が天に昇っていく間にスッポンから消えるというのも初めて見ました。

さて「見染の場」と「源氏店」。与三郎の海老蔵はつっころばし風の若旦那を演じようとがんばっていましたが、これはかなり違和感がありました。羽織落としも花道で酔っ払いに突き当たられて羽織の紐が切られたあと、羽織がショールをはおったような格好で妙に窮屈そうになってしまい、ここはなかなか難しいところなのだと感じました。

見染の場のお富の菊之助は、とてもやくざのお妾さんには見えず、武家の若奥様のようで、「上意討ち」を思い出してしまいました。引っ込む時の「良い、景色だねぇ」という時代に張り世話に落とす台詞も間が今一良くなくて、大向うの掛け声も上手くきまりませんでした。鳶頭金五郎の菊五郎は襲名公演ならではのご馳走で、いかにも江戸っ子といった粋な風情でした。

「源氏店」では海老蔵が十一代目を意識した台詞廻しをするのではと期待しましたが、だいぶ違っていて、時々地がでてしまうところもあり、世話物は大変なんだなぁと思います。今はまだ自分のスタイルを模索しているところなのでしょう。しかし一度で良いから十一代目そっくりにやってみてもらいたいものだと思ってしまいました。

菊之助のお富はみずみずしくて、この場はなかなか雰囲気がありました。長台詞も散文的でなかったのは、良かったと思いました。ちなみにお富が使っていた手ぬぐいの柄は「三筋に寿の字蝙蝠」でした。

蝙蝠安の市蔵は、過去に團十郎と新之助の与三郎で二回安を勤めているようですが、胡散臭い感じが抜群でそのくせ憎めない愛嬌があり、蝙蝠安にぴったりでした。

この日の大向こう

この日は会の方は4人見えていて、地元の大向こうの会の方たちがいらしていたそうです。

口上で海老蔵が「父團十郎が休演いたしまして、申し訳ありません」といったら、「親孝行してよ」と一階三列目から声が掛かってちょっと驚きましたが、昔からの成田屋のご贔屓なのかなと思いました。口上には一般の方も沢山声を掛けていらっしゃいました。

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