引窓 アンサンブルの良さ 2004.7.8

2日、江戸川総合文化センターで公文協歌舞伎東コースを見てきました。

主な配役
南与兵衛
南方十字兵衛
吉右衛門
お幸 東蔵
お早 芝雀
濡髪長五郎 歌昇

「引窓」のあらすじはこちらをご覧ください。

巡業が始まって3日目の公演だったにもかかわらず、全員のアンサンブルが良くて見ごたえのある舞台でした。

吉右衛門の南与兵衛は濡髪を演じた歌昇よりだいぶ背が高いので、見た目のバランスが悪いのではと思っていたのです。しかし濡髪と手を取りあうときは低い姿勢をとり、濡髪が立っているときは決して並んで立たないという配慮が徹底していて、バランスの悪さを上手くカバーしていましたので、その点はほとんど気になりませんでした。

吉右衛門はこの役を、先日見たばかりの「吃又」の又平よりずっとのびやかに気持ちよく演じているように見えました。母のお幸から「濡髪の人相書きを売ってほしい」と言われて、不思議に思いながらもお尋ね者の濡髪が義母の息子だったことにはっと気がつき、ポンとひざを打ってから見せる「他人行儀な母へのやりきれない表情」が、なんともいえず感じが出ていました。

「おおかた河内へ越える抜け道は、狐川を左に取り、右へわたって山越しに、サ右へ渡って山越しに〜、あぁいや、めったにそうは参りますまい」とさりげなく濡衣に逃げ道を教えるところも、さすが吉右衛門と思わせる名調子。

「夜のうちなら南方十字兵衛」と時代にはり、「朝になったら元のとおり八幡の町人」とがらっと変わって世話にくだけるところも上手い台詞回しで聞かせました。最後に門口の柱に背をもたせかけ上をむいて涙をこらえていた様子も印象に残りました。いかにも人柄の良さを感じさせる吉右衛門の南方十字兵衛でした。

母お幸はとても重要な役だと思いますが、東蔵は思い切ってつっこんで演じていたので芝居が大いに盛り上がりました。ただ張った声がいつも同じ調子なのがちょっと気になったのと、濡髪の前髪を剃る所に情感があまり感じられなかったように思えました。

お早の芝雀は、もと遊女という前身が仄かに見える色気のある女房で、「侍の女房ならば馬にのって・・・」とというところもとってつけたようなところが無くて自然で良かったとおもいました。与兵衛との掛け合いもいかにも相思相愛の仲の良い夫婦というところが見えました。

濡髪の歌昇はなかなか貫禄があって相撲取りになっても違和感がありませんでした。けれども声が若い感じで与兵衛の弟に見えました。やはり濡髪よりも長吉のほうがぴったりじゃないかしらと思ったら、去年国立劇場では長吉を演じています。

歌昇の濡髪は「与兵衛のほうをひそかに伺っている」というのではなく、ぼ〜っと外を眺めている時、与兵衛に手水鉢に映った姿を見つけられるというふうに演じていました。筵で顔を隠しながら花道を去っていくところは逃亡者の必死な感じが出ていて、良かったです。

余談ですが、このお芝居の中心になっている「引窓」が泉鏡花の「婦系図」のお蔦と主税の愛の巣にも登場していたのをこの間放送された通しのビデオで発見しました。引窓は明治時代の東京の家にも存在していたわけです。

このほかは魁春襲名の口上幕と、忠臣蔵の「落人」でした。魁春のお軽、梅玉の勘平は憂いのあるしっとりとした感じで良いコンビだったと思います。お軽の衣装が紫と白の矢羽模様にオレンジ色とグリーンで梅と紅葉の刺繍がしてあるという珍しいもので、私は初めて見ました。

この日の大向こう

大向こうの会の方が2名ほどみえていました。一般の方はほとんど声を掛けられなかったようですが、襲名披露公演としてはもうちょっとにぎやかだと良かったのになぁと思いました。

二階席には大勢の小学生が見に来ていましたが、お話にすっかり引き込まれたようで静かに観劇していました。

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