勧進帳 新・海老蔵誕生! 2004.5.7 

4日、歌舞伎座夜の部を見てきました。

主な配役
弁慶 團十郎

富樫

海老蔵
義経
菊五郎

勧進帳」のあらすじはこちらをご覧ください。

 

場内に入ると生成に大きな伊勢海老の頭部分と触覚を大胆に描いた襲名の引幕が、目に飛び込んできます。これは團十郎が描いたもので、配りものの扇子にも使われている図柄ですが、素朴ですが勢いがあって、なにより父親の大きな愛情を感じさせ、多くの人から期待されている新・海老蔵の船出にふさわしいものに思えました。

口上の引幕は豪快な荒磯の図柄のものに変えられ、これもなかなか素敵でした。クリックすると大きな画像が見られます。

 

海老蔵の富樫、まず出てきたところは颯爽かつ堂々としていて、涼やかなまなざしが申し分ない富樫です。名乗りの時の居所は下手から3分の1ほどのところで、その後もワキとして慎み深く演じていたのには好感が持てました。

しかし問答では、富樫が弁慶に詰め寄っていくところで、あごをちょっと出すようにするところがけんか腰に見えて、全体の中で破調でした。弁慶の方は落ち着き払っているので、ますます一人相撲をとっているように見えてしまいます。

近頃若い役者さんたちを見ていると、フレーズの最後の音に苦労している方が多いように思われます。海老蔵もちょっと押しこむようにして、ぶつっと切るという独特の癖があり、彼の場合はいかにも堂々としているので既に個性になりかけていますが、こういうところでは気になります。すばらしい声と素質の持ち主ですから、ここで固まらずに一層研究を続けていただきたいと思います。

弁慶が一瞬の躊躇の後、義経を散々にうちすえるのを見て、富樫はこれが本物の義経主従だと悟り、その上で関所を通ることを許可するところでは、富樫は「判官殿にもなき人を・・・」から既に憂いの表情になり、さらにはまさに泣かんばかりの顔になって、その上最後の泣きあげをして引っ込むのが、海老蔵のやり方です。判りやすい反面、あまり早くから肚がわかってしまうのはつまらないんじゃないかと思いました。泣き上げの一瞬で富樫の肚をわからせることも出来るからです。

一昨年南座で見た仁左衛門の富樫は最後の泣き上げまでほとんど感情を露わにはしていませんでしたが、十二分に気持ちは理解できました。

弁慶の團十郎は、勧進帳を読み上げる声が朗々と響き、ビリビリと共鳴しているのが聞こえるほどで、よくここまで発声の修行なさったものだと感心しました。呂の声も時々思い切って低い音を使うのが非常に効果的です。團十郎の弁慶はますます円熟味を加え、1時間10分を全くあきさせることなく、最後まで面白く見せてくれました。

お酒を飲むところはユーモアたっぷりで團十郎の持ち味が生きていて、もはや緩急自由自在といった感じさえしました。幕外の引っ込みでは富樫への感謝の気持ちも十分に見て取れましたが、ちょっと疲れていたのか、飛び六方には力強さがありませんでした。

それから花道七三でツケの打ち上げに合わせて右手を下から上に持っていくところの振るような手の動きには、かなり独自のこだわりがあるようですが、あの手に個性を表現しなくても、今の團十郎の弁慶には独特の風格があるのにと思います。

義経の菊五郎の「いかに弁慶」の第一声、今回はかすれたりせず順調でした。

成田屋の襲名につき物の「にらみ」では海老蔵がハッと気合を入れる声に思わず背筋がゾクッとしてしまいました。にらんだ姿は美しく極まっていて、襲名が待たれていた海老蔵がこれからどんな役者になっていくのか、本当に楽しみです。

他には「碁太平記白石噺」、体調をくずした雀右衛門の代わりに時蔵が傾城宮城野を演じましたが、以前に比べ体の線がずっと柔らかになってきているなぁと感じます。富十郎が揚屋の主人惣六を口跡あざやかに演じました。

この場に鐵之助、歌江、吉之丞というベテランの女形三人が登場して、廓の雰囲気を醸し出していたのが印象的でした。

菊之助の宮城野の妹・信夫(しのぶ)はお国訛りが面白い変わった役どころでしたが、最後の「魚屋宗五郎」で演じたおなぎは後光がさしているように美しく見えました。宗五郎を演じた三津五郎はセリフのテンポがよく、だんだん酔っていくところもなかなか見事でしたが、磯部の屋敷に殴りこんだ時、酒乱の狂気が感じられなかったです。

この日の大向こう

期待の襲名ということで、会の方も10名ほどいらしていたそうです。口上幕には数え切れないほどの声が掛かっていましたが、拍手も盛大でしたので、かき消されていました。

勧進帳が終わったら、かなり帰ってしまわれたのか、それまでとは違う方の声が目だっていました。魚屋宗五郎の「こういうわけだ、聞いてくれい」に「まってました!」と2〜3人の方が声を掛けられ、女性の方も掛けられたようです。

この「まってました!」という掛け声ですが、「まってましたぁ〜」と掛けるより、頭のほうを溜めて「まっってましたッ!」と尻尾を伸ばさないほうがずっと粋だし、締まると思います。

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