仇ゆめ 心温まる舞踊劇 2003.11.27

27日、江戸総合センターに「錦秋特別舞踊公演」を見に行きました。

主な配役

勘九郎
深雪太夫 波野久里子
揚屋の亭主 勘太郎
舞の師匠 七之助

「仇ゆめ」のあらすじ
壬生寺のそばに住む狸は京の島原の深雪太夫に岡惚れ。春のある日、なんとか思いをとげたいと太夫の舞の師匠に化けて廓へやってくる。

舞を教えているうちに、狸は太夫に想いを打ち明ける。ところが太夫のほうも師匠を想っていたので、大喜び。狸は早速三国一の嫁取りの支度をするといって帰っていく。

太夫は女房となって丸髷をゆう日を夢みる。そこへ本物の師匠がやってくる。甘えて目隠ししたりする太夫に師匠は「狐にでもつかれたか」とつれない。稽古に身が入らない太夫はついに師匠を怒らせてしまう。

揚屋の亭主が間に入ってなだめていると、そこへもう一人師匠がやって来たと言う知らせ。不思議に思って辺りを見ると、獣の足跡がたくさんついていたので、亭主は「これは壬生の狸の仕業だ」と気がつく。

ひとつからかってやろうということで、本物の踊りの師匠と亭主の二人は狸に踊りを習うが、珍妙な狸踊りで笑いをこらえるのに必死。

仇ゆめだったとがっかりの太夫もこわごわ連れ舞するが、狸は亭主がわざと匂わせる大好物の桑酒の匂いには堪らず、床にこぼれた酒までなめてしまう有様。

亭主から奪ったとっくりを飲み干すうちにとうとう尻尾がピョッコリ出てきてしまう。あわててごまかした狸が太夫を連れて行こうとすると、亭主は太夫の身請には千両箱がいるという。そこで狸は町に千両箱を買いに行く。

亭主は廓の若い者たちと先回りして、道に千両箱をえさにした罠をしかける。千両箱を買う事のできなかった狸はしょんぼりとその場を通りかかる。狸は千両箱を見つけるが、同時にそれが罠だということに気づく。

しかし千両箱をどうしても手に入れたい狸はそれを承知で取ろうとする。そうして狸は千両箱を手に入れたが、袋叩きにされてしまう。

かたや太夫のもとへは舞の師匠がやってきて、「実は前から太夫の気持ちを知っていたが、もうすぐ江戸へ帰らなくてはならないし、江戸には妻がまっているので気持ちにこたえることができない」と告白する。

二人は扇を交換し合って別れる。悲しみにくれる太夫の耳に「深雪太夫」と呼ぶ声が微かに聞こえる。

千両箱を背負って瀕死の狸が、最後に太夫の顔見たさにやってきたのだ。太夫は「「千両箱を持ってきたからには立派なお客さま」といって新婚所帯の真似事をしてやる。

狸は残る力を振り絞って太夫と連れ舞をし、とうとう太夫の膝に倒れこんで息絶える。太夫は優しく狸を抱いて、髪を直してやるのだった。

 

北条秀司作、舞踊劇「仇ゆめ」は昭和41年、西川鯉三郎がプロデュースした日生舞踊公演で初演されました。その時の勘三郎、鯉三郎、松緑、長谷川一夫という豪華なメンバーに当てはめて書かれた作品だそうです。

この日は「錦秋特別舞踊公演」の千穐楽ということで、会場は大入り満員の盛況。

今回勘九郎の姉、波野久里子が深雪太夫を踊りましたが、なかなか存在感があり、声も低めのハスキーヴォイスなので全く違和感はありませんでした。甥の七之助との色模様も、自然でよかったと思います。深雪太夫の着物がススキや秋の草花に月の模様で素敵でした。

狸の勘九郎はこういう愉快な愛嬌のある役はお手の物で、いかにも楽しそうに踊っていました。心臓がドキドキするところを、手を着物の胸の所に入れて様子を表したり、酔って尻尾が出てきてしまう所も同様にするのが愉快でした。手を狐手のように軽くこぶしをつくって踊る狸の踊りも傑作で、客席からは笑いがたえません。

着物の裾をぱっとめくると、見えるのは毛むくじゃらの狸の足だったりするのもおかしかったです。

しかし最後に千両箱を引きずりボロボロになりながら深雪太夫に一目会いにくるところでは、そのけなげな純情に思わず涙がこぼれました。

「この純情さは、なぜか勘九郎が演じた『末摘花』を思い起こさせるなぁ」と思ったら、やっぱり同じ北条秀司の作品でした。

もう一つの舞踊劇「累」は与右衛門を七之助、累を勘太郎が踊りました。連理引きで累に引き戻される七之助が見事でした。

勘太郎の累は足がびっこになった時に、それを強調しすぎたようで客席から笑いが起こっていましたが、最後の方は執念が感じられて良かったと思います。

この日の大向こう

最初の「累」にいかにも玄人っぽいさびの効いた大向こうさんの声と、普通の会話っぽい若い方の掛け声が掛かっていました。若い方の方の声はタイミングがちょっと早くて、いつも大向うさんの前に聞こえていたようです。

「これほど積極的にお掛けになるんだったら、もうちょっと気合を入れ、さびを効かせる工夫をなさってお掛けになったら、もっと良いのになぁ」と思いながら聞いておりました。

「仇ゆめ」には他の方も声を掛けられていました。「仇ゆめ」も「累」もまだ被り物をとらないうちに「中村屋」とお掛けになった方がいらっしゃいましたが、私はやっぱり顔が見えたときに掛けるほうが、華やかでいいんじゃないかと思いました。

「仇ゆめ」の中に「吉野山」の「女雛男雛」の振り(袖を胸の前で重ねた太夫の後ろに狸が両袖を広げて立つ)が二回出てきましたが、二回目に「ご両人」と掛かりました。

波野久里子さんには「波野」と声が掛かっていました。踊りの会では苗字の掛け声が掛かるものだそうです。

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