松嶋屋の芸と心 対談ー霊験亀山鉾 2002.10.17

10月15日に新宿住友ホールで「松嶋屋の芸と心」と題して仁左衛門さんと国立劇場の織田絋ニ(おりたこうじ)さんの対談がありました。今回の「霊験亀山鉾」についての裏話を聞くことが出来ましたので御報告します。

仁左衛門さんが初めて台本を読んだ時「役が悪くて困った」とおっしゃってました。これは長い狂言の一部を抜粋して上演する場合、取り出しようによってはいいところが全くないようになってしまう役もあり、今回の台本はそうだったと言うことです。

仁左衛門の演じる三役のうち水右衛門は出てくるなり毒殺はする、落とし穴は使う、女は惨殺するで、おまけに主役と言っても演どころがほとんどないんですね。その上八郎兵衛は隠亡(おんぼうー焼き場の番人)で格好からして冴えません。残りは卜庵という老人です。

歌舞伎の座頭役者というのは全体の演出を考えなくてはならない立場ですから、こういう主役の出てくる話をどうやってまとめたらいいか悩まれたそうです。その結果が今回の水右衛門になったわけですが、本当はもっとごつい感じだと思うとおっしゃっていました。

それと「おつま八郎兵衛」の世界が綯い交ぜになっているのですが、国立劇場のスタッフでさえ元の話を知らなくて「楽屋落ち」のセリフの意味が全くわからないので、別な言葉に替えたりしたのだとか。監修の奈河さんが「せめて御社(おしゃー批評家連中が観劇する日)だけは元のセリフでやって欲しい」とおっしゃったそうです。(*^_^*)

「焼き場の場」で本水(ほんみず)を使った立ち回りがありますが、水右衛門が入った棺おけが乗っている薪の束に、火がつけられることになったので、そのままでは焼け死んでしまうと急遽雨を降らせる事になったそうです。過去の上演では火がつけられたことは一度もなかったのにと、仁左衛門さんは笑いながら話していました。もちろん火は本物ではありませんが。水右衛門の着物の袖をちょっと焦がそうかという案もあったのだとか。

「丹波屋の場」で八郎兵衛が隠亡には見えないと批評されましたが、「丹波屋の場」はこのお芝居の中で唯一明るい場なので、あえて八郎兵衛を違うスタイルで出したそうです。

初日の演出を「ここが変」とか「この方が良い」とかいう理由でどんどん変えているそうで、ぜひもう一度見て欲しいということでした。どんどん変えるというのは上方のやり方のようです。上方は「多少の誇張はあってもリアルに」というのが根本の考え方と言う事でした。

ついでながら皆さんのアンケートに答えて「いつかやってみたい役」として「義経千本桜」の知盛をあげていらっしゃいました。「やって欲しい役」で多かった「夏祭り」の団七は「僕は痩せているから・・・」とあんまり気乗りしないご様子でした。びっくりしたのは観客の中のかなりの方が既に何回も「霊験亀山鉾」を見ていると言う事。それでも織田さんが「ぜひ霊験亀山鉾の再演を」と言った時、拍手は決して多いとは言えませんでした。^^; 

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