卅三間堂棟由来 魁春のはまり役・お柳 2003.7.24

24日、国立劇場の千穐楽を見てきました。

主な配役
お柳・実は柳の精 魁春
平太郎 信二郎
滝乃 歌江
進之蔵人家貞 十蔵
季仲 男女蔵

卅三間堂棟由来(さんじゅうさんげんどうむなぎのゆらい)のあらすじ
紀州熊野山中鷹狩の場
熊野山中、那智の滝にほど近いところに大きな柳の木がたっていて、その木陰に一軒の茶屋がある。そこへ白鷺を狙って鷹が飛んでくる。この鷹には足に鷹狩り用の紐がついていて、それが柳の枝にひっかかり、鷹は身動きできなくなってしまう。

この鷹を追ってやってきたのは鷹の飼い主、太宰帥季仲と家来の伊佐坂運内たち。なんとかして鷹を解き放とうとするが枝には届かずどうすることもできない。そこで柳を切り倒そうと村人を集めさせる。

そこへ熊野権現へ参詣へ行く途中の横曽根平太郎とその母・滝乃が通りかかり、「切り倒すのは柳の木が不憫だから、矢で木に引っかかっている紐を射ればよいだろう」と提案する。

季仲と運内は「そんな事ができるものか」と馬鹿にして取り合わないが、滝乃がぜひやらせてみてくれというので平太郎にやらせてみると、見事矢は紐に命中し鷹は無事に季仲の手に戻る。だが季仲と運内は「馬鹿にされた」と怒って去っていく。

その様子を見ていた茶屋の娘・お柳は、二人に柳を助けてくれた礼を言い、茶屋の中で休んでいくように誘う。そこへ恥をかかされたと恨みを持つ運内が、大勢の家来を連れて平太郎に仕返しにやってくる。

平太郎が戦っていると、不思議な事に柳の枝が垂れてきて、平太郎を覆い隠してしまう。運内たちは急に平太郎の姿が見えなくなったので気味が悪くなり、ちりぢりに逃げ出す。

お柳は平太郎が好きになり、自分からお嫁にしてくれないかと頼む。母の滝乃も賛成して、二人は一緒になり、この辺りに住む事にする。

横曽根平太郎住家の場
それから数年たち、平太郎とお柳は二人の間に生まれた緑丸という5歳の男の子と母の滝乃、家族四人で柳の木のほど近くに仲良く暮らしている。そこへ平太郎の父の友人、進之蔵人(しんのくらんど)が訪ねてくる。

白河法王がずっと悩まされている頭痛を直すため、夢のお告げであの柳の木を切り倒し、その枝にある法王の前世の髑髏を弔い、柳の木を建立される三十三間堂の棟木にすることになったというのだ。

それを聞いたお柳は愕然とする。実はお柳はこの世のものではなくあの柳の木の精。切り倒されてしまったら、死なねばならないのだ。残り少ない命と悟ったお柳は、それとなく平太郎に別れを告げる。

柳の木が切られる音が「コーン」と聞こえるたびにお柳は身もだえして苦しみ、驚き嘆く家族に「私はあの柳の木の精、木が切られてはもう生きていられませんが、緑丸ももう乳がなくても育つ年になりました」とその姿を消す。

しかし緑丸の必死で母を探す声に、再び姿を顕して平太郎に「ここに法王の前世の髑髏があります。これを差し出して横曽根家を再興してください。」と言って消えていく。

緑丸をせめて最後に一目母に会わせたいと、平太郎は緑丸を連れて都へと運ばれて行った柳の木の後を追う。

木遣音頭の場
柳の木は熊野街道を木遣音頭と共に引かれていくが、突然どんなに引いても動かなくなる。そこへ駆けつけた平太郎が「この柳は私の妻、この子の母親です。どうぞこの子に引かせてみてください」と頼む。

緑丸がたったひとりで引いてみると、あれほどびくともしなかった柳の木が動き出す。緑丸は「かか様」と木に取りすがって泣くのだった。

「親子で楽しむ歌舞伎教室」ということで、幼稚園から中学生くらいまでの子供づれがほとんどでしたが、恐れていたほどには騒がしくなかったです。会場係の女性が、ちょっと騒がしくなりかけると飛んでいって注意していました。

このお芝居の原作は1760年に書かれた「祇園女御九重錦」という人形浄瑠璃ですが、その三段目が好評だったので、単独で「三十三間堂棟由来」として文楽や歌舞伎で上演されるようになったそうです。

魁春のお柳は、今までやってきた全ての役の中でも一番魁春に合っている役ではないかと思ったほど良かったです。魁春は素顔のご本人は全くそんな感じではないのに、役になるとひっそりと寂しい感じがする人です。

お柳という役は、何の罪もないのに法王の病気平癒のために生贄になる哀れな女性(実は柳の精)ですが、ひかえめで寂しげなところがまさにぴったり!平太郎との出会いのはにかみながらのやりとりも程よくて、この役にこれ以上あった役者は考えられないくらいです。

特にお柳が柳の木が切れらる音と共に苦しむところでは、お柳の苦しみとそれに耐えるけなげさに、涙があふれてきて止まりませんでした。

39年前に父歌右衛門によって演じられて以来、久しぶりの再演というお柳ですが、魁春にとって会心の演技だったのではないでしょうか。平太郎の信二郎も親孝行の優しい息子という感じがよく合っていました。

大道具もいろいろと面白い仕掛けがあり、柳の木が切られてお柳が姿を消すところでは、一回目は田楽返しで壁の中に、二回目は神棚の下に茣蓙のようなもをのの上にのったまま引っ張り込まれていきました。

「平太郎内の場」から「木遣音頭の場」へ居所替わりになる時、平太郎の家の濡れ縁がまず家の下に格納され、家がそのまままっすぐに奥へ引かれて、次に家の屋根がパタパタとあおりがえしで野山のけしきとなり、最後に家の門柱の一本がくまの街道の標識になったのですが、初めて見る面白いやり方でした。ちょっと「馬盗人」を思い出しました。

まず最初に登場するのが黒衣が差し金で使う白鷺と鷹だったり、お柳が柳の精の本性に戻る時引き抜いて捌きになったり、このお芝居は見た目もいろいろ変化があって楽しいのですが、そこだけ変に目立たないのか良いところです。

「吉野山」の逸見の藤太にそっくりな格好の運内が、鳥尽くしのせりふを言うのですがその中に、フラミンゴとかチキンとか横文字の言葉がはいっていたのはご愛嬌でした。

大詰めで柳の木の上にお柳の霊が宙のりで出てきますが、どうなっているのかと思った着物の裾が、だらっとたれていたのだけはいただけなかったです。雲かなんかで足元を隠せば良いのにとおもってしまいました。

それから「歌舞伎の見方」の男女蔵の解説は、次にやるこのお芝居を常に頭にいれての説明で、なかなか工夫があったと思います。
ですが舞台に上がってもらった女の子に「お姫様になろうね」と言って内掛けを着せようとしたら、「嫌!」と断られてしまうハプニングがあり、男女蔵のちょと困ってしまった様子が可笑しくもあり気の毒でもありました。

この日の大向う

「鷹狩の場」では、数人の方が掛け声を掛けていらっしゃいました。私は二階上手にいましたが、掛け声は全部下手から聞こえたようでした。

そこで次の「平太郎住家」の前の休憩で、三階上手に移動したら、ラッキーなことに大向うの田中さんにお会いしました。ご用があってたった今いらしたとのこと、早速ウォッチングさせていただきました。

それまでは掛け声にあんまり反応しなかった子供達が、田中さんがお掛けになるといっせいに声がした方向を振り返ったのには驚きました。やはり一般の方の掛ける声とは迫力が違うのでしょう。

休憩後は田中さんともうお一人が下手で、他は上手の方でお一人、合計三人で掛けられるだけになりさっきまで聞こえた声はどうしたのかと不思議に思いました。そうしたら平太郎が緑丸と共に切られた柳の木のあとを追って、花道に走り出てきた七三の見得で、たくさんの掛け声が一度に聞こえましたので、田中さんの掛け声に一般の方はちょっと引いてしまわれていたのかしらと思います。後でお聞きしましたらもう一人、会の方がいらしたそうです。

田中さんの掛け声を聞いていますと、やはりお柳の魁春さんへ一番多くかけていらっしゃいました。この芝居はお柳が主役の芝居なんだと改めて納得。お柳が登場する前には、進ノ蔵人の十蔵さんへもたっぷりと掛けていらっしゃいました。

お柳が死んだ後、大詰めで霊として登場した時には、声を掛けられませんでしたので、やっぱり霊には掛けないものかなと思ったら、幕切れ直前になったらバンバンかけていらっしゃいました。

ところでこの日田中さんは、魁春さんに三回、「二代目」とお掛けになりました。一回目はお酒の用意をして出てきてこれから大事な話を平太郎にしようとした時、二回目は引き抜いた時、三回目はその後濡れ縁に片足を落としてきまった時だったようです。いつもより多いなと思いましたが、千穐楽なのでご祝儀相場なのかもしれません。

田中さんがいらしたおかげで、有意義なウォッチングができましたこと、心からお礼申し上げます。

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