忠臣蔵 顔合わせの妙 2002.10.9

今月の歌舞伎座昼の部と夜の部、「仮名手本忠臣蔵」を昼夜通しで見てきました。

主な配役
塩冶判官 鴈治郎
桃井若狭助 勘九郎
足利直義  勘太郎
鷺坂伴内   坂東吉弥
顔世御前   魁 春
高師直・大星由良之助 吉右衛門
お軽 玉三郎
平右衛門 團十郎

仮名手本忠臣蔵のあらすじ
足利義貞の饗応役を勤める塩冶判官(えんやはんがん)と桃井若狭之助(もものいわかさのすけ)は指導役の高師直(こうのもろのお)にいじめられる。若狭助の家老、加古川本蔵は師直に賄賂を贈り事なきを得る。

塩冶判官の妻、顔世御前(かおよごぜん)に横恋慕してはねつけられた師直は塩冶判官をいびりにかかり饗応役をとりあげる。堪忍袋の緒が切れた塩冶判官は殿中で師直に切りつけるが加古川本蔵に抱きとめられ額に傷をつけただけに終わる。(大序〜3段目)

切腹をさせられる塩冶判官は、国家老大星由良之助にあだ討ちをたのむ。(四段目)

主人の大事の時にお軽と逢引していた勘平は山崎に住むお軽の親のうちに落ち延びて猟師になっている。あだ討ちに必要なお金、100両を工面するためお軽は祇園に身を売ろうと考える。

その代金を父親与市兵衛が持って帰る途中、斧定九郎に襲われ殺される。金をとった定九郎を勘平が猪とまちがって鉄砲で撃つ。暗闇の中でその金を、勘平があだ討ちの資金にする為にとる。(五段目)

うちに帰った勘平は与市兵衛が死んだ事を知り、殺したのは自分だと誤解して切腹する。勘平の無実がわかりあだ討ちの連判状に署名し義士へ仲間入りを許される。(六段目)

お軽は勘平や父親が死んだ事を知らないまま、祇園で遊女になっている。由良之助も同じ茶屋であだ討ちの計画を知られない様遊んで暮らしている。お軽の兄、平右衛門があだ討ちに加わろうとやってきて、お軽は夫勘平の切腹を知る。

平右衛門はお軽が由良之助に届いた密書を盗み見た事を知り、由良之助に殺される前に自ら妹を切ってあだ討ちに加わろうとする。全てを知った由良之助はそれを止め、お軽と共にスパイの斧九太夫を成敗する。(七段目)

師直の屋敷に討ち入った浪士たちは本懐をとげあだ討ちを成就する。(十一段目)

今年は赤穂浪士が元禄15年(1702)12月に吉良邸に討ち入ってから300年目。
大序(だいじょ)の幕がゆっくりと開いて人形のようにじっとうつむいている役者達が見えてくると、忠臣蔵を見る喜びにワクワクしてしまいます。

今回の忠臣蔵、いくつか私なりの新しい発見がありました。吉右衛門の演じた師直はとても大きくて存在感があり、大序と三段目の主役は師直なのかもと思わせました。吉右衛門の師直は好色な面を強調して演じています。

色と金に貪欲な師直ですがなんとなく愛嬌があり、「役によっては敵役も又楽し」という感じでした。若狭助が退出しようとする時「早えわ」と阻止するくだりを丁寧にやった事が、師直の執念ぶかさをより印象付けました。2001年3月上演の時はここは省かれていたように思います。

勘九郎が勘平を演じましたが菊五郎とはまたちょっと違った感じで「30歳になるやならず」の勘平が最初はなんだか少年ぽく見えましたが、カドカドをきっちりときめて凛々しい勘平でした。

師直を演じた吉右衛門が七段目では由良之助を演じ、團十郎が足軽の平右衛門(へいえもん)にまわったのがそれぞれのキャラクターにピッタリ合って顔合わせの醍醐味を十分味わう事が出来ました。一番驚いたのは玉三郎のお軽。玉三郎は極めて美しいけれど、なんとなく硬質なものがあって他の役者となじまないと思っていたのですが、今回のお軽は存分に芝居をしてなおかつ團十郎との掛け合いの息も良くあっていて素晴らしい出来。團十郎も太い筆で一気に書いたような平右衛門がはまり役で、七段目では由良之助よりこちらのほうが断然あっています。

お軽は兄平右衛門に切りつけられ、驚いて逃げた門の外で「ああ、ビックリした」「急に切りかかるんだもの」など捨て台詞(アドリブ)をずっと言い続けていたりするところなどに、人間味が感じられました。光り輝くように美しく、そして可愛らしくもあり見事なお軽でした。これはやはり團十郎との顔合わせによるものではないかと私は思います。

玉三郎と組んだ仁左衛門、勘九郎、吉右衛門、それぞれ良いカップルだと思いますが、團十郎こそ玉三郎のよさを最大限引き出せる相手役なのかもしれません。昔海老玉でコンビを組んでいた事もあったのでしたね。同じお軽を演じてももし平右衛門を違う役者が演じていたら多分今回程血の通ったお軽は見られなかったのではないでしょうか。

この日の大向う

最初のうちは全くいないのかと思うほどだれも声をかけませんでした。そのうち徐々に掛かるようになりましたが大向うの会の方はほとんどいなかったようです。
四段目は「判官切腹」でとても厳粛な場なので、声を掛けられるところはほとんどありません。石堂右馬之丞が引き上げる時力弥に「お見送りは結構」と言った後揚幕の方に向き直り一歩踏み出す時と、由良之助が若い藩士をいさめて「まだ御料簡が若い、若い!」と言う二箇所くらいです。それと由良之助の花道の引っ込み。これらの時ほとんどの大向うが声を掛けた様です。


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