伊達の十役 海老蔵大健闘 2010.1.16 W265

13日演舞場で新春花形歌舞伎夜の部を見てきました。

主な配役
足利頼兼
仁木弾正
赤松満祐
土手の道哲
政岡

傾城・高尾太夫
絹川与右衛門
細川勝元
荒獅子男之助
海老蔵
八汐
祐念上人
右近
渡辺外記左衛門 市蔵
渡辺民部之助 獅童
松島 春猿
沖の井 門之助
京潟姫 笑也
山中鹿之助 弘太郎
大江図幸鬼面 猿弥
栄御前
三浦屋女房
笑三郎

「慙紅葉汗顔見勢」(はじもみじあせのかおみせ)-「伊達の十役」のあらすじ
発端 
稲村ヶ崎の場

ここは稲村ヶ崎。雨にぬれた獄門台には、天下を覆そうとして処刑された赤松満祐の髑髏が野晒にされていた。そこへ足利家の重臣・仁木弾正がやってきて、助という百姓に殺された時のまま、髑髏の目につきささっている鎌を哀れに思い、抜いてやる。

すると満祐の亡霊があらわれ、弾正こそは満祐の息子で自らの大望をわが子に託そうと呼び寄せたのだと告げる。満祐は赤松の家に伝わる旧鼠の術の一巻を弾正にさずけて、子の年子の月子の日子の刻に生まれた男子の生血が自分の命を奪った古鎌にかかった時は術がやぶれると警告し、姿を消す。

自分が満祐の子だったことを知った弾正は、術を使っておびただしい鼠を呼びだし、父の無念を晴らし大望を成就することを決意する。

傍らのお堂の中でこの様子の一部始終を、足利家につかえていた絹川与右衛門が聞いていた。与右衛門は腰元・累との不義のために手討ちになるところを渡辺民部之助に助けられ、故郷へ帰るところだった。旧鼠の術を破ることができる子の揃った生まれの与右衛門は、弾正を捕えそこなうが、鎌は与右衛門の手に入る。

序幕
鎌倉花水橋の場

弾正は足利家の当主頼兼の叔父、大江鬼貫(おおえおにつら)と結託してお家のっとりを企てる。まず頼兼を放蕩にふけらせ、後継ぎの鶴千代毒殺をたくらむ悪者一味は、毒薬を医師宗益に調合させたうえで、宗益を殺そうとする。

逃げる宗益を突然現れた道哲と名乗る坊主が殺して毒薬を奪い、一味に加えてくれと頼む。

頼兼は大磯の廓の遊女・高尾太夫にいれあげて、伽羅の下駄をはいて毎晩通いつめていた。弾正一味の黒田官蔵らはこれを襲って亡き者にしようとするが、頼兼はこれを簡単にやっつけて大磯へと向かう。

大磯廓三浦屋之場
頼兼は弾正から高尾太夫の身請けの金二千両が届けられたと聞いて、それが自らを陥れようとする計略とも気がつかず喜ぶ。そこへ頼兼へ意見しようと、忠臣渡辺民部之助が腰元の累に案内されて訪ねてくる。実は累は高尾太夫とは実の姉妹だったのだ。だがすでに弾正らによって身請けの金が支払われたと知った民部之助は、遅かったと悔やむ。

そこへ戻ってきた高尾太夫へ、やってきた大江鬼貫が頼兼の身請けを断って自分のところへ来いと言いだす。頼兼は「高尾太夫の身請けを許す」という将軍家からのお墨付きを出して鬼貫を退ける。しかしそれもこれも全て頼兼を失脚させるために仕組まれた罠だった。

民部之助のもとへ与右衛門が現れ、弾正の素性と悪事の企みを知らせ、手に入れた鎌を見せる。そして命にかえて主家に尽くすことを誓い、帰参を願う。だが高尾太夫がすでに身請けされるときまったことを知った与右衛門は、不憫ながら騒動の元である高尾太夫を討とうと決意し、奥へ入って行く。

累はその様子を見ていて、自らの臍の緒がきを取りだして民部之助に見せる。なんと、累と高尾太夫の父は赤松満祐を討った百姓の助だったのだ。民部之助はその悪縁に驚く。

三浦屋奥座敷の場
屋形船に見立てた奥座敷では、与右衛門が高尾太夫に討ちかかり、高尾太夫は恨みを残して死ぬ。その怨霊は与右衛門を悩ませる。来合わせた道哲は与右衛門が落とした鎌を拾い、高尾太夫が着ていた打ち掛けを鬼貫に届ける。

二幕目
滑川宝蔵寺土橋堤の場

頼兼の許婚・京潟姫(みやがたひめ)は弾正一味の企みを知り頼兼の下屋敷へ向かう途中、悪人たちに襲われるが、民部之助と累に助けられる。ここへ与右衛門と道哲が現れ、民部之助は鎌を取りかえすが、累はその鎌で足にけがを負う。

すると高尾太夫の亡霊があらわれ、累に乗り移り、累の顔の半分が醜く崩れる。京潟姫と与右衛門の仲を疑って嫉妬する累は、京潟姫に鎌で襲いかかる。与右衛門は累から鎌をうばって、やむなく累を殺す。

累に鎌で刺された京潟姫は、持っていたお家の重宝の名鏡のおかげで助かる。人が来る気配がするので、与右衛門と京潟姫は川につないであった小舟に隠れる。やってきた頼兼、弾正、民部之助、道哲、沖の井などが暗闇の中で探り合ううちに、鎌は再び道哲の手に渡ってしまう。だが弾正が若君毒殺を依頼した手紙を川へおとし、これを与右衛門が拾う。

三幕目
足利家奥殿の場

いに頼兼の放蕩は将軍家の咎めをうけ、頼兼は隠居。家督を相続した鶴千代を弾正たちは毒殺しようとねらっている。これに気付いた鶴千代の乳母政岡は食事はすべて自分で作り、わが子の千松に「若君の命を守るためには毒であっても食べるように」と言い聞かせる。

鶴千代と千松がひもじい思いをこらえて過ごしているところへ管領山名持豊の妻・栄御前が鶴千代の見舞いにやってくる。弾正の妹・八汐、局の沖の井、松島などもこれを出迎えるために現れ、政岡は千松に言いつけを守るように言ってさがらせる。

栄御前は見舞いにと菓子を持参するが、お腹をすかせている鶴千代はつい手をだそうとするのを、政岡がとめる。しかしその様子を栄御前に見とがめられて政岡は窮地におちいる。

その時千松が奥から走り出て、菓子を食べ残りを蹴散らす。たちまち千松は毒に苦しみ始めるが、悪者一味の八汐が短刀で千松の喉をつく。苦しむ千松を前に政岡はただ鶴千代をかばうばかりで泣く様子もない。

ついに千松は息絶える。すると栄御前は政岡に内密の話があると言いだす。二人きりになると、栄御前は「わが子が殺されるのを見ても、動じないところを見ると千松と鶴千代をとりかえ子しておいたのだろう」と満足気に話かける。そしてお家のっとりに加担する一味の連判状を見せて、仲間になるように誘う。そのまま連判状を政岡に預けて、栄御前は帰っていく。

一人になった政岡は声を上げて泣き千松の死を嘆き、その忠義をほめる。だがその様子を見た八汐は政岡に襲いかかる。その八汐を返りうちした政岡のふところから、鼠が連判状を咥えて逃げる。

床下の場
床下には悪者一味の讒言で遠ざけられた忠臣・荒獅子男之助が不審な動きはないかと見張っていた。男之助は連判状を咥えて逃げる鼠を見つけて、鉄扇でその額を打つ。

だが鼠は逃げ去ってしまう。その鼠こそ、仁木弾正が妖術を使って化けた姿だったのだ。弾正はあざけりの笑いを浮かべて、ゆうゆうとその場を立ち去る。

四幕目
山名館奥書院の場
足利家の忠臣で国家老の渡辺外記左衛門はお家のっとりをたくらむ悪人たちを管領山名持豊へ訴え出る。しかしその場に大江鬼貫が顔を出す。持豊は以前から悪人一味と手を組んでいたので、悪事が残らず書かれた訴えの願書をとりあげようとする。

そこへ同じ管領職の細川勝元がやってきて、鬼貫や弾正の悪事が書き連ねてある外記左衛門の願書に目を通し、鬼貫を追求し、悪人たちの肩を持つ持豊を故事をひいてたしなめる。そして改めて後日全員が顔を揃えたところで、裁きを下すと言い渡す。

問註所門前の場
それから数日がたち、ついにこの騒動の裁きが言い渡される日となったが、勝元は留守で持豊が裁きをくだそうとしていると知り、門の前では外記の息子民部之助が心配している。そこへ故郷へ帰っていた与右衛門が、弾正の悪事の証拠となる手紙を持ってきて、おりよく帰ってきた勝元へ直訴する。

禁じられている直訴だったが、勝元の温情で手紙は勝元の手に渡る。中の様子を探りに入っていった与右衛門と入れ替わりに道哲が鎌を弾正に届けにくる。民部之助が道哲と争っていると与右衛門が出てきて道哲を殺し、鎌を取り戻してまた中へ入っていく。そしてさきほどの手紙が決めてとなって、外記左衛門の訴えが勝訴する。

問註所白洲の場
鶴千代の家督相続も認められ、悪事が露見しやぶれかぶれの弾正は外記左衛門を油断させて切りつける。弾正は妖術で巨大な鼠に変身し、屋根の上に現れる。与右衛門が鎌を自らの腹に突き立て血を注ぐと、妖術が破れて弾正が大鼠の中から姿を現す。民部之助は鎌で弾正で切りかかり、瀕死の外記左衛門がとどめをさす。

ここへ勝元が出てきて、外記左衛門に鶴千代の家督相続を許すというお墨付を手渡し、足利家の騒動が無事に終息したことを祝うのだった。

大喜利所作事「垂帽子不器用娘」(ひらりぼうしざいしょのふつつか)
長谷寺鐘供養の場
騒動が収まったころ、足利家では命を落とした人々を弔うために長谷寺に鐘を奇進し、今日はその鐘の供養の日。そこへ京潟姫は非業の最期をとげた高尾太夫の打ち掛けを持ってやってくる。

霊水で濯いだうえ祐念上人の回向をうけ、高尾太夫と累のために祈りたいとの思いからだ。京潟姫が打掛けを濯ぐと、美しい娘が現れる。その娘と京潟姫がともに舞っていると、娘の顔に醜い痣が浮き出る。この娘こそ、太夫と累姉妹の亡霊だった。

亡霊は恨み事を言って鐘の中に姿を消す。気を失った京潟姫を祐念上人が助け起し祈ると、鐘の中から鬼となった亡霊が出てくる。暴れまわる鬼を、荒獅子男之助が駈けつけて押し戻すとそれは長谷寺の使いの大白蛇となって鐘にまきつくのだった。



四世鶴屋南北作「慙紅葉汗顔見勢」、通称「伊達の十役」は1815年7月に七代目團十郎が初演。この狂言には台本が現存していため、当代猿之助が初演の絵番付などわずかな資料を基に新しい台本を作り、昭和54年に復活上演しました。

大当たりしたこの狂言は、猿之助十八番に加えられましたが、猿之助が病気に倒れて以来11年上演がとだえていて、もう見られないのかと残念に思っていました。今回海老蔵が猿之助の指導をうけ初役で演じてくれたのは、歌舞伎ファンとして大変喜ばしいことです。

猿之助が平成11年に演じた「伊達の十役」を見た時の面白さ、仁木の宙乗りの幻想的な凄さははっきりと印象に残っています。雲に乗るようなと言われる仁木のひっこみを表した宙乗りはこれだけでもこの狂言を見たかいがあると思える場面です。

海老蔵は四十数回もの早替わりを見事にこなし、その一つ一つの顔もちゃんとさまになっていました。土橋堤の場などは、最後に小舟が花道に出ていって、七三で、絹川与右衛門となって顔を見せる、そのすばやさと言ったら本当にあっという間のことで、早替わりの楽しさを120%満喫させてくれました。

特によかったのは立役の細川勝元で、声の調子といい、姿の良さといい、悪者一味を追い詰める台詞の胸のすくような見事さと言い、気になる妙なイントネーションもなく、ほとんど完璧だと思いました。悪役の道哲もなかなか良く、自信をもって演じているように感じられました。和事味を感じさせる絹川与右衛門も良かったです。

仁木はなんといっても宙乗りの風格が素晴らしかったですし、序幕ではまだ自分の出生の秘密をしらない普通の青年として出てきて、だんだん悪の色が濃くなってくるのが面白く感じました。しかしこのごろいつも感じるのですが、見得の時シャーッというような声を出すのは艶消し。外記左衛門に足を扇でつつかれての片足の見得では海老蔵の運動能力の高さがいかんなく発揮され、その美しさにジワがきていました。

意外にもだめだったのが、足利頼兼。放蕩者の殿さまの感じを声を変えて出そうとしたのが、わざとらしくて良くなかったと思います。10種類もの声を出すことはしょせん無理なので、いかにも作ったという声にするより、心持ちだけ変えるようにしたほうが良かったのではと感じました。

荒獅子男之助はすぐに仁木に変身しなくてはならないためでしょう、隈を取った白塗りで板鬢の面白い拵えでした。

女形はなかなか綺麗でしたが、やはり台詞はこれからだと思いました。栄御前が立ち去った後を見つめる政岡の表情は、女形が演じる政岡と違って眼に恐ろしいほどの凄みがありました。この御殿の場では千松を演じた子役に拍手が集まり、鶴千代役の子がちょっとかわいそうではありました。

今回は猿之助が初めのころは演じていたものの、後に省略されるようになった大喜利所作事「垂帽子不器用娘」(ひらりぼうしざいしょのふつつか」が上演されました。この高尾太夫と累の合体霊が素晴らしく美しく、鬘のくりの関係かもしれませんが、可憐な美女に見えました。

鐘に入ってから鬼になって、立ち回りをしているうちにいつの間にか揚げ幕から荒獅子男之助として押し戻しで出てくる海老蔵。このフィナーレは豪華絢爛で、鬼は鐘に昇るのではなく、大蛇となって鐘に巻きつき、最後は綱の横へ巨大な釜首をもたげ、歌舞伎らしい色彩豊かな世界を見せてくれました。

八汐の右近はきっちりと演じていましたが、もう少しつっこんだ演技でも良かったように思いました。千松を嬲り殺しにしながら、手鏡を金づちのようにコンコンと使って千松の喉に短刀を突き立て、さらにそれを使って政岡がどういう反応をしているかどうか見るのは珍しいやり方。

市蔵の外記左衛門は田舎から出てきた忠義者の老国家老の感じをよく出していて、仁木との死闘は手に汗握るような迫力がありました。

よく知られた伊達騒動を題材とし、場を最高に生かす宙乗りがあり、人気絶頂の役者が男女十人を入れ替わり立ち替わり演じるこの魅力あふれるお芝居に、海老蔵が再び光をあてて見せてくれたことを本当に嬉しく思いました。

この日の大向こう

この日は大向こうさんはどなたもいらしていませんでしたが、上手に一人なかなかつぼを心得た方がいらして、ここぞというところで掛けていらしたので、さびしいという感じはしませんでした。

一階にだれに掛けているのかもはっきりしない合いの手のような声を頻繁に掛ける方がいらしていて、気になりました。一階で声を掛けるのは、最小限にするべきと思いますし、もそもそした声はお芝居へ集中する気持ちを著しく乱します。ぜひ三階から大きな声で掛けていただきたいものだと思いました。

大喜利所作事「垂帽子不器用娘」で、海老蔵さんが高尾と累の怨霊になって登場すると「大成田屋」という声が聞こえましたが、ちょっとこれはないな~と思いました。^^;「大」をつけるなら「屋」はいらないだろうし、團十郎さんにならともかく、海老蔵さんの奮闘を讃えるなら何か別の掛け声があるだろうと思いました。

新橋演舞場夜の部の演目メモ
「伊達の十役」-海老蔵、右近、門之助、獅童、市蔵、笑也、猿弥、笑三郎、春猿、弘太郎、寿猿

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