将門 亀治郎の会 2009.8.7 W251

7日、第七回「亀治郎の会」の夜の部を見てきました。

主な配役
滝夜叉姫 亀治郎
光圀 段四郎

「忍夜恋曲者」(しのびよるこいはくせもの)―「将門」(まさかど)のあらすじ
これまで
―939年、関東を掌握した平将門は下総の国猿島に御所を作り、親皇を名乗って即位し独立国を築くが、翌年平貞盛・藤原秀郷の軍に敗れ滅亡する。将門が滅亡したあと、娘の滝夜叉姫は肉芝仙から蝦蟇の妖術をならい、亡父の恨みをはらそうと機会を伺っている。―

源頼信から将門の残党詮議の命を受けた大宅太郎光圀は、妖怪変化が住みついているという噂のある、将門の内裏だった相馬の古御所へ忍びこむ。そこに姿を現したのは、傾城如月と名乗る女。女は光圀に色仕掛けで取り入ろうとするが、光圀が将門の最期を物語ると女はなぜかはらはらと涙をこぼす。

これを怪しんだ光圀が女を問い詰めるとはたして女は将門の遺児・滝夜叉姫だった。蝦蟇の妖術を使う姫は古御所の屋根に上り、御所はみるまに破壊される。

毎回意欲的な試みで楽しませてくれる「亀治郎の会」。今回は3演目すべて常磐津が主となる舞踊劇という演目だてでした。しかも3つめに何をやるのかは、お楽しみとされていて最後まで伏せられ、筋書きも「その部分は終わるまで見ないでください」と注意されて手渡されました。(この筋書きも毎回趣向をこらした素敵なものです。)

そんなわけで、真夏でもあることだし、何か見たことがないような怪談ものでもやるのかしらなどとワクワクしながら想像をめぐらせていました。しかし真っ暗な中揚げ幕から面明かりをもった黒衣がすっぽんの方へ小走りに走っていった時、「これは将門だな」と、ひょうしぬけしてしまったほどでした。

しかし、この「将門」は普通の将門とは違う「亀治郎バージョンの将門」だったんです。(*^_^*)

最初の部分はあまり目立ったものはなかったですが、着ている内掛けが白地に落ち葉の模様でふきの部分に蜘蛛の巣の模様といういつもとは違うもの。これがどうにも似合っていなくて終盤になって脱ぐまでボッテリとしたドテラのようなものを着ているという感じでした。

しかし光圀とのやりとりの台詞廻しにはこくがあって素晴らしく、さすがだと思わせました。このぼってりとした内掛けをぬぐと胴抜きになって、ようやくすっきりと身軽になった亀治郎。

最後は屋根の上で巨大な蟇蛙を従えて絵面の見得で終わりになるのかと思いきや、屋台崩しになって現れたのはなんと大きな蟇蛙とそれに後からつかまえられた光圀、一匹と一人による宙乗りで舞台の上空をさまよった末、蝦蟇が光圀を屋根に落とし空宙と屋根の上でひっぱりの見得になったところで、幕がひかれました。

これでもう終わりかと席を立とうとした時、すっぽんから大きな蟇蛙が登場。捕り手と華麗な立ち廻りを演じたあと、花道の付け根で赤い幕をたてて蟇蛙の中からあらわれたのは、颯爽としたいでたちの滝夜叉姫。

姫は花道七三で平家の赤旗を身体に巻きつけて立役さながらのツケ入りの大見得をしたかと思えば、最後は女らしくきめ、勇ましく赤い長袴で飛び六方を二度ばかりして見せたかと思うと、恥ずかしそうに小走りで揚げ幕に入っていきました。

この最後の部分は六代目歌右衛門の滝夜叉や猿之助の金幣猿嶋郡などを参考にして創ったそうですが、引っ込みの大きさ、いかにも歌舞伎らしい華のある面白さは、亀治郎の力量を示していると思いました。段四郎の光圀はとても若々しく、亀治郎の滝夜叉をひきたてていました。

この日の最初はまず「お夏狂乱」。坪内逍遥が新舞踊運動の一環として創作したもので、最近全くみることがない踊りですが、夕焼けの野原の舞台に花道をさまよいでてきたお夏の亀治郎は、すばらしく風情があってうつくしかったです。

気が狂ったお夏が里の子供たちにからかわれ、彼らと一緒に踊るところも良かったですし、酔っ払い馬士の亀鶴を相手に踊るところも変化があって面白かったです。亀鶴もひょうきんな踊りがにあっていました。しっとりとした情緒、どこか懐かしい詩情あふれる踊りでした。

次の「身替座禅」では、亀治郎が滑稽な持ち味を存分に発揮し、客席は笑いの渦につつまれていました。しかし奥方にうるさくまとわりつかれて「迷惑いたす」という台詞などは、もうちょっと工夫があってもよいのではと思いましたし、花子になったり自分になったりしながら仕方噺をするところでは、すばやく回って変身!という感じではなく、そのあたりの面白さは今ひとつでした。

奥方玉の井の亀三郎は特におかしな顔に作ってはいず、綺麗でとりすました顔にドスのきいた声がなかなか効果的でした。

「奥州安達原」で袖萩と貞任の二役を演じた回などと比べて、踊り三種はちょっと物足りないじゃないかと思ったりもしましたが、終わってみれば3つの踊りそれぞれに亀治郎の生き生きとした魅力が発揮された、満足できる楽しい舞台でした。また舞台の寸法に無理がなく、小劇場での公演を選択した意図がわかるような気がしました。

この日の大向こう

会の方も5人見えていました。その方たちすべてが下手の同じ場所に固まっていたのは、主催者がわの配慮が足りないなぁと思いました。上手とふたつに分けた方がずっと効果的ですし、またやりやすかっただろうと思います。

踊りだということもあって、ほとんど大向こうさんが過不足なくかけていらしたので、一般の方の声はあまり聞こえませんでしたが、「お夏狂乱」の花道の出でまだどなたも掛けていない時、七三で(清十郎を象徴している)菅笠に気がついて戻り、手でふれようとするお夏に、真っ先に声を掛けられたのは女性の方で、女性特有の高い声ではありましたが、なかなか気合いが入った思いっきりの良い声だったと思います。

亀治郎の会演目メモ
「お夏狂乱」―亀治郎、亀鶴、
「身替座禅」―亀治郎、亀三郎、亀鶴
「将門」―亀治郎、段四郎

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