弥作の鎌腹 小芝居の面白さ 2003.2.28

28日、日本劇場で行われた「歌舞伎フォーラム公演」を見に行きました。

「弥作の鎌腹」のあらすじ
百姓の弥作の弟、和助は萱野家に養子にいって武士となり、浅野家に仕えていた。しかし浅野家はおとりつぶしとなり、和助は浪人の身となっている。

弥作は以前、年貢が払えなかった時、郷士の七太夫に助けてもらった事があり、恩義を感じている。その七太夫が和助に縁談を持ってきた。隣村の代官の娘が和助を見初め、婿養子にと言う話だった。

弥作は浪人中の弟には願っても無い話だとこの話を本人に相談しないで承諾した。ところが弥作の家にやってきた和助はこの話を聞き、断ってくれと言う。しかし弥作が聞き入れないのでいた仕方なく、主君の仇討ちの計画がある事を打ち明ける。

弥作は七太夫のうちへ縁談を断りに行く。しかし七太夫が聞いてくれないので、とうとう仇討ちのことをしゃべってしまう。実は七太夫はこの縁談の結納金100両をネコババしようとしていたので、逆に縁談を承知しなければ仇討ちのことをお上に訴えると弥作を威す。

悄然として弥作はうちへ帰るが、弟には何も話さず旅立たせる。その時村人に頼まれていた、芝居に使う切腹の作法を和助に聞いて紙にしるす。

和助がたった後、七太夫が弥作の家へ乗り込んでくる。和助が既にいないことを知って、七太夫は訴えるために飛び出していく。切羽詰った弥作は鉄砲で七太夫を撃ち殺す。

そして、さっき聞いた切腹の作法どおり、鎌で腹を切って自害する。

「歌舞伎フォーラム」とは、いつもは脇役を演じている若手の役者さんたちが主役を演じる公演で、私もこれまで江戸東京博物館ホールでの公演の方には何回か行った事があります。これを見た後は、脇役の方達の顔が認識出来、親しみがもてるようになるので今回はだれがでるのかなと楽しみなのです。

まず「雨の五郎」の顔をこしらえるところを又之助が見せ、その隣で着物を着た女性のお客さんに筋隈の化粧をして押隈をとりました。又之助は衣装もつけてみせ「雨の五郎」を少し踊ってから、押隈をしてそのお客さんにプレゼントしていました。

さて「弥作の鎌腹」ですが、最初の内「小芝居復活」と銘打った割には、とりたてて何もなく、来る事もなかったかなと思っていました。 ところが橘三郎が演じる弥作が七太夫(又之助)を鉄砲で撃ち殺し、切腹しようとするところでパッチリと目が醒めてしまいました。

弥作はまず、仏壇の前においておいた切腹の作法を書いた紙を見て、ゆっくりと莚(むしろ)を部屋の中央にしきます。それから角に置くシキミを探しますがあるはずもないので、自分がさっき畑から抜いてきた大根をシキミの代わりにポンポンと置きます。

それからその辺にあった四角いお盆が何かを三方の代わりにして、上に鎌を載せて持ち、それから莚の真ん中に座って、いらなくなったお盆を後ろへ放り投げます。それから肌脱ぎになって、鎌で腹を切ろうとするのですがどうしても切れません。

それで戸口の柱に鎌を縛り付けて、それにぶつかって行こうとするのですが、それもやはり直前に身をかわしてしまいます。勇気の出ない自分を情けなく思って鎌を振っているうちにすべってころび、その弾みに鎌が腹に刺さってしまいます。

そこへ国矢の演じる和助と弥作の女房(徳江)が帰ってくると、弥作は「痛い、痛い」と転げまわっています。 もうどうしようもなく、和助は弥作の首をはねることを承知するのです。

この切腹の場面は「仮名手本忠臣蔵」の判官切腹のパロデイなのです。もともとこの「矢作の鎌腹」は忠臣蔵の千崎弥五郎の兄弥作が、仇討ちの計画を庄屋の七太夫にもらしたため、七太夫を鉄砲で殺し自分も腹を切るという話。「義士外伝」といわれ講談や浪花節で有名になった演目なのだそうです。

「仮名手本忠臣蔵」以外の赤穂浪士ものを「忠臣蔵外伝」とか「義士外伝」と呼び、「いろは仮名四十七訓」の六段目にあたるのがこの作品です。

ところで江戸時代、幕府公認の大芝居の四座以外は、仮小屋しか認められていなかった小芝居も、明治に入ると本建築が認められ各所に劇場が出来て盛んになりました。その後大芝居の役者が小芝居に出たりしてますます全盛を誇りましたが、大正中期に映画にだんだん押されるようになって衰退したそうです。

というわけでこの芝居は大衆演劇の要素を大いに持っているわけです。これから、この人物は死ぬなと判っていても、場内は笑いの連続、にもかかわらずその笑いを誘う演技が一つもあざとく感じられませんでした。橘三郎はこの辺が良かったと思います。

なるほどこれが小芝居の面白さというものなのかと納得しました。小芝居の小屋が沢山あった頃は若い役者さん達が大きな役を勉強する場があったんですが、今ではこの「歌舞伎フォーラム」がその役目を果たしているのだそうです。

その後、「日高川」という安珍清姫の清姫が出てくる踊りを扇乃丞が清姫を、船頭を緑三郎が、人形ぶりで踊りました。扇乃丞の人形ぶりがなかなか見事でした。最後に蛇になって湖をわたる清姫が舞台中央に下りてきたブランコに乗って少し高い位置で極まって幕になるのが、珍しかったです。

この日の大向う

この日は、数人の方が声を掛けていらっしゃいました。
「弥作の鎌腹」の時に、いつもツケが打ち終るちょっと前に声を掛ける方がいらっしゃいましたが、もう少し待って掛ければいいのになと思いました。

踊りの「日高川」になってから、とても良い感じの掛け声が清姫を演じた扇乃丞に掛かりました。渋い「大店のご隠居」タイプの声で絶妙のタイミングで掛かり、「上手い!」と思って聞いていました。

歌舞伎座でもなかなか上手い掛け声は聞けないのに、ここで聞けるとは思いませんでした。この歌舞伎フォーラムは珍しい演目をやるので、意外と歌舞伎通が集まるのかも知れません。

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