渡海屋・大物浦 海老蔵初役の知盛 2008.5.19 W217

9日に歌舞伎座昼の部を観てきました。

主な配役
銀平実は知盛 海老蔵
お柳実は典侍の局 魁春
弁慶 團蔵
義経 友右衛門
入江丹蔵 市蔵
相模五郎 権十郎

「渡海屋・大物浦」のあらすじはこちらです。

昼の部の最初は「義経千本桜」より「渡海屋・大物浦」。

海老蔵が初役で演じた知盛には想像をうわまわる迫力と悲壮美があり、花道を出た瞬間から引き込まれました。矢を胸にうけた瀕死の状態をリアルに表現していて、吸う息がゼイゼイと最初から苦しげだったのには、これで最後まで通せるのかと危ぶみましたが、錦絵から抜け出たような姿で力強く終局までもっていったのは天晴れ。

前半の銀平は、口を横に開いて海老蔵独特の平たい声を出したり、白と銀の衣装を着て登場し知盛となってからの重みが足りないのがちょっと気になったものの、それを忘れさせてしまうほど鮮烈な海老蔵の碇知盛でした。

お柳実は典侍の局を演じた魁春は、天皇を抱いて海に飛び込もうとする時の「いかに、八大竜王・・」の台詞がもう少し毅然としていても良かったのではと思いました。前半と後半の演じ分も難しいですが、長袴をはいたまま幼い天皇を抱いて二重から降りたりもする大変な役だと思いました。

團蔵の弁慶は、はまり役。前半天皇をまたごうとして足がしびれるところもわざとらしさがなく、後半知盛の霊をなぐさめるかのようなほら貝の音にお芝居の余韻があり、平家滅亡の大きな一章が終わったというカタルシスを感じました。

次は三津五郎の「喜撰」。襲名の時にも踊った大和屋にとっては大事な役ですが、前回はお梶の玉三郎の硬質な透明感のある美しさと分離しているように感じました。今回お梶の時蔵とは相性がとてもよく、時蔵のおっとりとした持ち味が三津五郎の軽妙洒脱な喜撰に合っていて、楽しく見ました。

昼の部の最後は團十郎の「極付幡長兵衛」(あらすじ)。水野には菊五郎という、團菊祭らしい演目でした。團十郎の長兵衛はハラの大きさを感じさせ、殺されるとわかっているのになんで行かなくてはならないのかということを納得させてくれる長兵衛でした。女房のお時は藤十郎。口跡がいつもよりずっとさっぱりとしていて江戸の女になろうとしていました。

このお芝居の中で新七がとびっきり生きの良い舞台番・新吉の役で新十郎を襲名しました。先代新十郎と言えば、「市川宗家原本秘蔵:歌舞伎隈取」という本を著し貴重な資料を残した人。あまりたくさん押隈を取ったため亡くなった時に筋隈がボーッと顔に浮きでたというすさまじいエピソードが「秀十郎夜話」の中にあったのを思い出します。

このお芝居には子分の面々に松緑、海老蔵、松江、亀寿、亀鶴、松也がずらっと勢揃いし、威勢の良い台詞を聞かせました。長兵衛の幼い息子長松の玉太郎は、なかなか台詞がはっきりとしていて可愛らしく拍手をあびていました。

梅玉の唐犬権兵衛は分別がありすぎて、止めなかったら代わりに飛び出していってしまうような気迫が感じられませんでした。子分の一人、出尻清兵衛を三津五郎が演じましたが、滑稽味がほどよくこのお芝居の息抜きになっていました。

この日の大向う

この日の観客のマナーは残念ながらあまり良いとは言えませんでした。まず義経一行の幕外の引っ込みで、七三に役者さんたちがたくさんいるのに、年配の女性が花道の下をくぐって外に出て行ったのにはあきれはて、次いで弁慶が一人花道七三に残って鎮魂の気持ちをこめてほら貝を吹き鳴らす場面では、多分七三が見えないからだろうと思いますが、ガヤガヤと騒ぐ声にがっかりしました。(ーー;)

会の方は4人いらしてました。皆さん渋いお声のベテランの方たちで、良いところでかけらていれました。必死の力をふりしぼって義経に襲い掛かろうとする知盛の前に弁慶が現れ、二人で見得をするところは、見ているとツケは弁慶に合わせていて、弁慶がぐっときまった時、「成田屋」と声がかかる中で「三河屋」とキレの良い声が気持ちよくきまっていました。ツケ打ちは柴田さんでした。

知盛が入水する直前、碇を投げ捨てた反動で二三歩前に出て両手を合わせる柝の頭で、たくさんの声が掛かりましたが、女性の声がその大事な瞬間よりわずか前に掛かってはりつめた緊張がやぶられてしまったのは残念でした。皆さんが大事にしている間を尊重して声を掛けていただきたかったと思います。

5月歌舞伎座昼の部演目メモ
「渡海屋・大物浦」 海老蔵、魁春、友右衛門、團蔵、権十郎、市蔵、
「喜撰」 三津五郎、時蔵、
「極付伴随長兵衛」 團十郎、菊五郎、藤十郎、梅玉、三津五郎、彦三郎、

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