怪談牡丹燈籠 円熟した二人 2007.10.6 W197

6日と12日に歌舞伎座夜の部を見てきました。

主な配役
伴蔵 仁左衛門
お峰 玉三郎
萩原新三郎 愛之助
お露 七之助
宮野部源次郎 錦之助
お国 吉弥
乳母・お米 吉之丞
飯島平左衛門 竹三郎
三遊亭円朝 
馬方久蔵
三津五郎

「怪談牡丹燈籠」のあらすじはこちらです。

三遊亭円朝の落語を三世河竹新七が1892年に劇化。今回上演されたのは、新劇のために大西信行が1974年に書き下ろしたもので、登場人物が絞られている所が主な違いで、円朝が時々登場して、話をするのも大西本だけの趣向です。

19年ぶりという仁左衛門の伴蔵と玉三郎のお峰のコンビ、玉三郎のお峰の最初の出は顔を茶色にぬった汚いつくりで、びっくりしました。心底幽霊を怖がっている伴蔵とのテンポの良いやりとりが抱腹絶倒で、怪談物にもかかわらず、涙がでるほど笑えました。幽霊からもらったお金を「ちゅうちゅうたこかいな」と言いながら夢中になって数えるお峰は傑作でした。

仁左衛門の伴蔵はおどおどと幽霊と取引したあげく、腰がぬけそうになりながらお札をはがしに行くところなど今まで一度もみたことがないような顔を見せ、この人の引き出しにはまだまだいろんな顔が入っているのだなと感じました。

毒婦・お国を演じた吉弥は、非人におちぶれた源次郎を気遣うところが良かったと思います。無駄な殺人をしたと後悔する源次郎に、こうやってあんたを私だけのものにできたんだから無駄じゃなかったとうそぶくお国には、凄みがありました。しかしお屋敷勤めをしただけあって上品で、「27歳だけど22〜3歳にしか見えない」という感じではなく大年増という感じでした。^^;

源次郎の信二郎は気が小さいくせにお国にそそのかされて悪事を働く情けない男を好演。醸し出す雰囲気に深みが出てきたと思いました。落語家円朝の三津五郎はさすがに間は良いですが、声が落語家の声とやっぱり違います。もう一役の馬方の方は楽しそうに見えました。

今回前回の上演と一番ちがっていたのは、大詰の場面でお峰を殺した伴蔵は、お峰が死んでしまったことにはっと気がつき頭をかきむしって後悔し、お峰を呼び戻そうとでもするかのようにお峰の名前を呼び続けるところで柝の頭。

伴蔵が本心では愛していたお峰を気が狂ったように殺してしまったのは、死人の祟りだったのだということなんでしょうが、二度見てもなんとなく物足りないなと感じました。

ここは大雨の降る中で殺したお峰による連理引きで不気味な念仏太鼓とともに伴蔵も川の中に引き込まれて死んでしまい、雨があがったあとには蛍が美しく飛んでいるという前回の演出の方がカタルシスが感じられ優れていたと思います。

今回もお峰が死んだ後に、ひそやかに念仏太鼓が聞こえていましたが、あまり効果はなかったです。どっちにしても本心から後悔してお峰とやりなおそうと決心したように見えた伴蔵が、刀まで周到に準備してお峰を誘い出し殺すというところはどうも納得できません。

準備して殺すというからには、伴蔵はお峰にはもう愛情を感じていなかったのではと思ってしまいます。「そこが芝居」なのかもしれませんが、矛盾を感じてしまうラストでした。原作の伴蔵は非情な男で、今回のラストでは違う話になってしまったように思いました。

絶品の幽霊・お米の吉之丞は今回さらにつっこんだ演技で大いに楽しませてくれました。新三郎の疑問をさらっとかわすところなどが上手いなぁと思いました。新三郎の愛之助はいつも気になる口跡のねばりがあまり気にならずすっきりと演じていました。それと今回使われた牡丹燈籠には上に花がついていなかったようでした。

夜の部の最後は三津五郎の「奴道成寺」。所化に巳之助、隼人、小吉、鶴松、などなどうら若い役者さんたちがずらっと並んで、華やかでした。。中でもひさしぶりに見た、少し背が高くなり顔もほっそりとなった右近(尾上)がしなやかに踊るのが目をひきました。

三津五郎は三つの面を神業的スピードで取り替えながら軽妙に楽しく踊りました。おもしろいと思ったのは最後に赤地に枝垂れ桜の衣装にぶっかえる前、白地に紅葉と火炎太鼓の着物になること。途中口上があり、玉三郎一門の玉雪と功一の名題昇進が披露されました。

この日の大向こう

幽霊のでてくるお芝居のためか、声も掛かるところが少なく絞られていて雰囲気にあっていました。会の方は6日が2人で12日が多い時で4人。

おおむね良い感じに掛かっていたのですが、かなり抵抗を感じたのは吉弥さんのお国がむごたらしい最期を遂げるところでした。源次郎の胸につきささった刀に串刺しになって海老ぞる吉弥さんに、6日12日両日とも場違いに明るい声が「みよしや」とすかさず掛かったのには本当にがっくり。一瞬でお芝居が薄っぺらくなってしまいました。(ーー;)

12日は一階席中央で男の方が三津五郎さんの円朝の出で「まってました」と掛けられ、「ん?大和屋のファンかな」と思いましたが、それからさらに二回「まってました」を掛けられたのにはいくらなんでも多すぎるんじゃないかと思いました。

基本的に一階席の特に前の方ではあまり声を掛けるものではないと聞いています。それでも一〜二度ならご愛嬌だと思いますが、ことに屋号以外の掛け声はビシッと一発決めてこそ映えるもので、何度も掛けるのは野暮というものでしょう。

10月歌舞伎座昼の部演目メモ

「怪談牡丹燈籠」 仁左衛門、玉三郎、愛之助、七之助、錦之助、吉弥、三津五郎、吉之丞、竹三郎、
「羽衣」 玉三郎、愛之助


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