「大石妻子別れ」 存続の危機 2007.3.1 W179

22日、豊島公会堂で上演された歌舞伎フォーラム公演を見てきました。

主な配役
大石内蔵之助 又之助
妻・りく 京妙
母・千寿 歌女之丞
主税 左字郎
良助実は三平 瀧之
お梅 京珠

「碁盤太平記」―「大石妻子別れ」のあらすじ
内匠頭が無念の切腹をとげたあと、城を明け渡した大石内蔵之助は山科に長男・主税とともに移り住んだ。江戸の浪士たちは仇討をせかすが、内蔵之助はいっこうに動かず遊郭に入り浸り、碁をうって日を過ごしている。

妻のりくも、母・千寿もそんな内蔵之助を恥じ、千寿は亡き夫の位牌で内蔵之助を打ち据え、碁石を投げつける。しかし内蔵之助はだれの意見にも耳をかそうとはせず、妻や母を国に追い返そうとする。

この屋敷には吉良方の間者が二人入り込んでいる。その一人下男の良助が吉良からの手紙を読んでいるところを主税に見咎められると、もう一人の間者・女中のお梅が主税に切りかかる。ところが良助は主税をかばいお梅を刺し殺し、自分も重症を負う。

良助は実は浅野家家臣・萱野三左衛門の息子の三平。苦しみながら良助は、内蔵之助の放蕩を吉良方に報告して敵を油断させていたと語る。内蔵之助は全てを知っていて、萱野父子を仇討の仲間に加えることを約束する。

三平はそこにあった碁盤と碁石を使って吉良邸の図面を教え、息絶える。内蔵之助は仇討の時機が来たと主税とともに江戸へ旅立つ支度をする。一目母や祖母と会って別れを告げたいと願う主税の願いを許さない内蔵之助。だが暗闇の中で、親子・夫婦はさぐりあてた手を握って最後の別れを惜しむのだった。



小芝居復活をめざす「歌舞伎フォーラム」は、門閥外の役者さんによる歌舞伎公演で、大芝居では見られない演目がとりあげられたり、観客を舞台にあげての歌舞伎の音楽や小道具、衣装などの説明などが楽しめ、過去には掛け声がテーマとしてとりあげられたこともあります。

しかし次回公演のめどがたたず存続が危ぶまれているとのこと。たしか一昨年助成金を続けてもらえるよう署名運動をしたのに無駄だったのかと思いましたが、何とかこの公演を存続させ、珍しい演目の上演を続けていただきたいものだと願っています。

歌舞伎フォーラムの過去の上演作品で最も印象深かったのは「弥作の鎌腹」で、悲劇の中に滑稽な状況があれほど見事に溶け合っている作品もないと思いますが、これも大劇場では見られないもので、橘三郎の弥作が切腹しようと、しきみの替りに大根を並べていた場面が今でも目に浮かびます。

公演場所も、江戸東京博物館と日本橋劇場が主に使われてきましたが、日本橋劇場は水天宮の駅に近いうえ花道もすっぽんもある小芝居にはうってつけの劇場にもかかわらず、今一場所になじみがないためかあまり人が入らなかったのは惜しい気がします。それにひきかえ花道はないものの、江戸東京博物館の公演はいつも8割がた観客が入っているようでした。豊島公会堂での公演はこの一日だけでしたが、やはり7〜8割くらいの入りだったと思います。

今回「歌舞伎の美」でとりあげられたのは「見得と附打」で説明役は勘之丞。附打に女性が二人、見得には女性二人と男性一人が客席から舞台に上がって、附にあわせて見得をしていました。その途中で柝の説明があり、15分前の「二丁」5分前の「回り」開幕の「直し」など、打たれる柝につけられる説明はわかりやすくて良かったです。じつはちょっと遅刻してしまったので、おそらく30分前の「着到止め」の説明もあったのでしょう。こちらに柝について詳しく説明されています。

その後京妙と又之助の「俄獅子」。それから勘之丞の殿様、左字郎の太郎冠者、歌女之丞の醜女、京珠(きょうじゅ)の上臈で「釣女」。それぞれに似合った役で楽しめました。

最後が「大石妻子別れ」。赤穂浪士の仇討を題材にした近松門左衛門作の人形浄瑠璃「碁盤太平記」は、仇討から4年後の1706年に初演された、後の「仮名手本忠臣蔵」のさきがけとなる重要な作品だそうで「大石妻子別れ」はその一部。仮名手本忠臣蔵の九段目、山科閑居に似た場面です。

この中で歌女之丞が演じた内蔵助の母・千寿が大きな役割を果たしています。歌女之丞は武家の格式をただよわせ、夫の位牌で内蔵助を打ち据えたり、碁石を投げつけたりするところにも品がありました。

内蔵之助を演じた又之助は表情がちょっとオーバーなところが小芝居的と思えましたが、最後のあたりでは母や妻に卑怯者と誤解されたままでも仇討に赴こうとする内蔵助の苦しい胸の内を骨太く表現していました。

主税を演じた左字郎は、やはり表情を動かしすぎるのが少し気になり、父親・内蔵之助から顔を背けているところが多いと感じましたが、「釣女」の太郎冠者のひょうきんな味は師匠の左團次ゆずりでしょうか。りくの京妙は武家の奥方役にしてはちょっと色気がありすぎるように思えました。しかし舞踊「俄獅子」では粋な芸者姿がよく似合っていました。

この日の大向う
一般の方と歌舞伎フォーラムをお手伝いしていらっしゃる方たちが声をかけていらっしゃいました。一般の方たちはそれぞれのご贔屓の役者さんに、さかんに声を掛けていらしたようです。
歌舞伎フォーラム公演演目メモ
●「歌舞伎の美」―見得と附打 勘之丞
●「俄獅子」 京妙、又之助
●「釣女」 勘之丞、歌女之丞、左字郎、京珠
●「大石妻子別れ」 又之助、歌女之丞、京妙、左字郎

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