吉原狐 人情噺 2006.8.16 W159

9日と15日、歌舞伎座納涼歌舞伎第二部をみてきました。

主な配役
芸者おきち 福助
芸者おせん 橋之助
誰ヶ袖花魁 孝太郎
三五郎 三津五郎
お杉 扇雀
札差・遠州屋 弥十郎
越後屋孫之助 信二郎

「吉原狐」(よしわらぎつね)のあらすじ
ここ吉原の中万字屋では、旗本・貝塚采女が札差の遠州屋の接待で誰ヶ袖花魁をはべらせて遊んでいる。すると誰ヶ袖を取られたと嫉妬した、材木商の越後屋孫之助が酔って匕首を手にさわぎを起こす。そこへ芸者・おえんが入ってきて、孫之助をなだめ匕首をとりあげてこの場をおさめる。

采女は呼んだはずの芸者・おきちがまだこないのかと尋ねる。おきちは売れっ子の芸者だがそそっかしく、この日も早合点して別な座敷に行ってしまったのだ。

落ち目の男を見ると狐がついたように惚れてしまうというので「吉原狐」というあだ名のあるおきちの噂話に花が咲くところへ、ようやくやってきたおきちは、また早とちりして、おえんが自分の悪口を言ったと思い込みくってかかる。

なんとか誤解も解け、采女が座敷を変えようと立ち上がると、誰ヶ袖がおきちに、来月年季が明けるのでおきちの父・三五郎のところへあいさつに行くと言う。それを聞いたおきちは、誰ヶ袖が三五郎と一緒になろうとしているのだと思い込んでしまう。

吉原で芸者屋を営むやもめの三五郎は思いやりのある人物で、皆に好かれている。実はこの家で下働きとして働いているお杉と良い仲になっている三五郎だが、娘のおきちに遠慮してそれを言い出すことが出来ないでいる。

この家へ、公金の使い込みが発覚して追われている采女が匿ってほしいとやってくる。落ちぶれた采女を見たおきちは、すっかり目の色が変わってしまい、匿うことを引き受ける。

そうこうするところへ年季の明けた誰ヶ袖花魁が三五郎に挨拶に来る。二人が良い仲だと思い込んでいるおきちは、それが早とちりだったと判ってがっかりする。それを見て三五郎はおきちに、お杉を後添えにもらいたいと話そうとするが、おきちは勝手にお杉が自分の腹違いの妹だと勘違いしてしまい、大喜び。

それから十日後、三五郎とお杉は相変わらずおきちに本当のことを話すことが出来ず、意気消沈している。そこへ帰ってきたおきちが、采女とはすっかり手が切れたと話していると、当の采女がまたおきちを頼ってやってくる。もう熱がさめてしまったおきちが悪態をつくと、采女は刀をふりまわして切りかかろうとする。

三五郎とお杉は身を呈しておきちをかばおうとし、そのどさくさに自分たちが愛しあっていることを打ち明けてしまう。ようやく真相に気づいたおきちは、二人を祝福する。やけになった采女は三人を刀で脅そうとするが、三五郎は自らの来し方を語り、順々と采女に意見する。これを聞いて、采女はすごすごと立ち去る。

一件落着して、おきちはいつものように三五郎と朝湯に出かける。黒助稲荷の前を通りかかった時、店がつぶれてやつれ果てた越後屋の孫之助と出会う。いつもの病が出そうになるおきちだが、もう男はこりごりと、晴れやかに湯へと向かうのだった。

昭和に36年に村上元三によって書かれたこの芝居は、おきちを十七代目勘三郎、三五郎を八代目幸四郎にあてはめて書かれたお芝居で、今回45年ぶりに再演されました。作者は「伊勢音頭」のお鹿や「夏祭」のお辰を見て、勘三郎が芸者で活躍する芝居を書きたいとた思ったとか。(筋書きより)この作品は江戸情緒たっぷりで、おかしさもある人情噺で、どうして今まで再演されなかったのかと不思議に感じました。

落ち目の男を見ると惚れてしまうおきゃんで早とちりな芸者おきちを演じた福助はこの役にぴったりで、嬉々として演じていました。ダメ男を見ると捨てて置けないという病がでると、鈴のような音が聞こえてきて、狐つきのようになったおきちの手が狐手になったりするのもご愛嬌。ただし15日に見た時は、福助は悲鳴のような高い声を多用していたようで、もうちょっと押さえめに演じたほうがよいように思いました。

珍しく女形を演じた橋之助の芸者おえんは、薄いグレーの着物から少し覗く赤い襦袢や帯あげが粋でなかなかの艶姿。女形になると声が父・芝翫に似ています。

おきちとおえんが言い合いをするところなどとても間が良く、渋い男前で娘を思う父親を演じた三津五郎、三五郎の恋人なのにおきちの早とちりから妹にされ、派手なピンクの着物に困惑顔のお杉を演じた扇雀、しっかりものの誰ヶ袖花魁の孝太郎、おちぶれて自暴自棄になる旗本・貝塚采女の染五郎、けんかっぱやい越後屋の信二郎など、アンサンブルがかもし出す雰囲気がよく、ほのぼのとしたお芝居でした。

芸者おてうを演じた小山三の、ベテランの女形らしい存在感が光っていました。

第二部の後半は踊りで、上「団子売」、中「玉屋」、下「駕屋」。「団子売」は義太夫で、扇雀の杵蔵に孝太郎のお臼は良いコンビでした。「玉屋」は清元で、染五郎のシャボン玉売り。

「駕屋」は常磐津で、駕籠かきを三津五郎、犬を小吉が踊りました。これは弁当を食べようとしている駕かきの弁当を犬が取ろうとするので、駕屋が犬に説教するという軽妙な踊り。

犬を踊った小吉が可愛らしく又上手いのにはびっくり。小吉君は現在9歳だそうですが、成長が大いに楽しみです。

三津五郎の駕屋が途中で着物を脱ぐと、全身まさに倶梨伽羅紋々に赤い褌姿。刺青がかっこいい江戸っ子の粋な姿を見せました。私は第一部の「たのきゅう」より、小品ながらこちらの方がずっと三津五郎自身の魅力をを引き出していたように思います。駕屋と犬、登場するのはたったそれだけなのに、豊かで立体的な世界が感じられる踊りでした。

 

9日は弥生会の会長が見え、三階の前の方では若い方がはりきって声を掛けていらっしゃいました。この方は感じの良いお声でしたが、大向こう修行中なのでしょうか、掛けどころと思われるところのほとんどで掛けられたのはいささか多すぎるようにも思いました。

「玉屋」の染五郎さんの花道の引っ込みに、渋く「染高麗」と声がかかり、ホーッ!と思いました。

15日は大向こうさんはゼロで、「吉原狐」にはほとんど声が掛かりませんでした。采女の染五郎さんの引っ込みで「高麗屋」と味のある声が一声かかっていました。

踊りになるとかなり掛け声も増え、「団子売」の柝の頭では「御両人」、「玉屋」のひっこみで「染高麗」とかかりました。

「駕屋」で駕篭のたれがポンと上がり、三津五郎さんが顔を見せたとき「まってました!十代目」と声が掛かり、三津五郎さんのお顔がぱっと輝いたように見え、掛け声の効果を感じました。達者な踊りで客席を沸かせた小吉君には幕切れの大きな拍手の中、かすかに「ちび大和!」という声が聞こえました。

歌舞伎座第二部の演目メモ
●「吉原狐」 福助、三津五郎、橋之助、扇雀、染五郎、孝太郎、信二郎
●「団子売」 扇雀、孝太郎
  「玉屋」 染五郎
  「駕屋」 三津五郎、小吉

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