暗闇の丑松 生世話の雰囲気 2006.6.12

4日、歌舞伎座夜の部をみてきました。

主な配役
丑松 幸四郎
お米 福助
母・お熊 鐵之助
四郎兵衛 段四郎
女房・お今 秀太郎

「暗闇の丑松」のあらすじ
序幕
浅草鳥越の二階
浅草鳥越に住むお熊は、娘のお米を妾奉公に出す約束を取り付けていた。だがお米は料理人の丑松と関係が出来たため、妾奉公はいやだと断る。とうとう奉公先を追われた二人は、今ではお熊の家の二階にころがりこんでいる。

今日も丑松の留守を幸い、お熊はなんとかお米に妾奉公を承知させようと、折檻している。お熊は呼んでおいた浪人潮止当四郎に、丑松が帰ってきたら殺すように頼む。ところが丑松は当四郎を返り討ちにし、様子を見に下におりてきたお熊も手にかけてしまう。

お米に二人を殺したことを打ち明けた丑松は自首しようとするが、お米はひとまず丑松の兄貴分・本所の四郎兵衛を頼ろうと言う。すでに表には人だかりがしているので、二人は屋根づたいに落ちのびる。

二幕目
板橋杉屋見世
一年後の激しく雨の降る夜、ここ板橋の杉屋に丑松がやってくる。女郎の世話を頼んだ丑松は二階へとあがる。その後へ料理人の祐次が出刃包丁を片手に、建具屋の熊吉を追ってこの見世に飛び込んでくる。

二階引付部屋
元の見世
逃げた熊吉を捜そうと部屋へかけこんできた祐次の顔を見た丑松は、それが知り合いの料理人・祐次だと知って驚く。祐次は再会を喜び、熊吉とも仲なおりして酒をくみかわし二人は立ち去る。

そこへ丑松の今夜の相手をするお清という女郎が姿を見せる。その女を見た丑松は肝をつぶす。それは四郎兵衛のところへいるはずのお米だった。

「お米をよびよせようと思ったが、四郎兵衛に止められ、だが思い切れなくて、つかまる危険をおかして江戸へまいもどった」と語る丑松は、こんな女を信じた自分がばかだったとお米を責める。

初めはうつむくばかりで何も話そうとしないお米だったが、ぽつりぽつりとこうなった事情を語り始める。四郎兵衛はお米に丑松の居所さえ知らそうとせず、丑松には他に女ができたと嘘を聞かせ、力ずくでお米をものにし、丑松のために金がいるとお米をだまして女郎に売り飛ばしたのだと話すお米。

だが、丑松は四郎兵衛を兄貴とも思って慕っているので、お米の言うことを信じようとしない。妓夫が酒を運んでくると、お米は酒の酌をしてほしいと丑松に頼む。丑松が酒をついでやるとそれを飲み干し、お米はあとを振り返りながら部屋を出て行く。

しかし妓夫からお米が語ったとおり、お米は四郎兵衛にだまされて売り飛ばされてきたのだと聞かされ、丑松は驚愕する。その時、きゅうにあたりが騒がしくなり、お米が裏の銀杏の木で首をくくったことが伝わる。丑松はお米を信じなかったことを悔い、四郎兵衛に復讐を誓う。

しばらくして「丑松がお米のお尋ね者の亭主だ」と悟った妓夫の知らせで岡っ引きがやってくるが、すでに丑松はだれにも知られないように杉屋を後にしていた。

大詰
本所相生町四郎兵衛の家
ここ四郎兵衛の家にも、朝から岡っ引きが丑松を捜しにやってくるが、四郎兵衛の弟子の料理人たちが知らないというと帰っていく。

そうするうちに四郎兵衛と女房のお今が起きてくる。お今は四郎兵衛と関係を持ったお米を許そうとせず、女郎屋へ売られたのも身からでたサビだと思っている。

そこへ板橋の杉屋から使いがやってきて、お米が死んだことを知らされた二人は驚くが、縁もゆかりもないからと遺骸を引き取ろうとはせず、使いを返す。

それでも丑松が仕返しにくるのではと恐れながら、四郎兵衛は朝風呂へ出かける。そのあとに現れた丑松に、助かりたい一心のお今は女房を寝取られたのだから仕返しに私をと色目を使うが、丑松は匕首でお今を刺し殺す。

相生町の湯釜前
松の湯の裏手、釜場では番頭の甚太郎がひっきりなしにお客に呼ばれて駆け回っている。丑松はその隙をついて男湯へ入りこみ、四郎兵衛をさし殺す。大騒ぎになった湯屋からやっとの思いで丑松は逃げていくのだった。

長谷川伸作「暗闇の丑松」は1934年(昭和九年)六代目菊五郎の丑松で初演されました。幸四郎の持ち味が屈折した丑松の心情とよくあっていたと思います。しかし最後の引っ込みの、首を前後に振る極めて技巧的な歩き方でそれまでの自然な雰囲気が変わってしまったように感じました。

なんといってもこの芝居の面白さは冒頭のお熊の家(階段と上げ蓋でしきられた二階)、板橋の女郎屋の内部の有様、最後の殺しの場となる湯屋などの臨場感たっぷりのリアルさで、ことに褌一つで休む間もなく男湯だろうが女湯だろうが駆け回る番頭の甚太郎(蝶十郎)が江戸時代にワープしたかのように、とても生き生きとして見えました。

また鐵之助の演じた継母・お隈の非情なことといったらなく、片膝をたてて座っていた様子からこの女は昔廓にいたのではないかという酷薄な雰囲気が感じ取れ好演でした。

福助の薄幸なお米は、最後に一度丑松の顔を見に戻ってくるところで、ちょっぴりお茶目な地が出てしまったと思いましたが、ひそかに死ぬ覚悟で下手の廊下を悄然と引っ込んでいく姿は、美しくかつ哀れでした。

四郎兵衛を演じた段四郎もドライな冷酷さがあってよかったですが、お今を演じた秀太郎の浴衣を胸を大きくあけた妖艶さ、夫の浮気に嫉妬する女の意地の悪さでねちねちとお米に対する逆恨みするところなどが実に見事でした。

これまた六代目菊五郎初演の新古演劇十種の内「身替座禅」は菊五郎の右京、仁左衛門の玉の井。菊五郎はこの役を完全に我が物としていながら、いやみなく愛嬌たっぷりに演じていました。

仁左衛門の奥方は鼻の穴の中を少し黒く塗っていましたが、南座の時ほどおおげさでなく、ほっとしました。仁左衛門の奥方は右京だと思い込んでいる太郎冠者からふすまをはぎとる前に、身だしなみをいそいそと整えたりするところで、右京が好きで会うのが嬉しくてたまらなくという可愛らしさが伝わってきました。

千枝の松也と小枝の梅枝も初々しくて綺麗でした。

「二人夕霧」は「廓文章」の後日譚ですが、伊左衛門を演じた梅玉の顔がこういうナンセンスなものを演じるにしては生まじめすぎて、ちょっと似合わないように思いました。翫雀が傾城買い指南所の弟子を思いっきりにぎやかに演じました。それと対比するとますます伊左衛門が暗く見えてしまったように思います。

筋書きのインタビューで梅玉は「梅玉を襲名した時から、上方のこういう系統の役をしなければいけないという使命感みたいなものを感じていました」と述べていますが、このところ植木屋、大経師と上方のお芝居を続けて演じるのは、やっぱり梅玉が上方ゆかりの名跡だからなのかと納得。最近上方のお芝居は東京でとりあげられることが少ないので、その意気込みはおおいに歓迎したいと思います。

時蔵の今の夕霧も花魁の華やかさがあって綺麗でしたが、元の夕霧を演じた魁春はしっとりとしたところがこの役にぴったりでこのところ急速に艶と美しさをましてきたように感じました。

この日の大向こう

最初からたくさんの声が掛かっていました。会の方は5人ほどだったそうです。「暗闇の丑松」には回数少なくしまった声が掛かって、すっきりしていました。

「身替座禅」になるとこの夜一番たくさん声が掛かり、右京が花子との情事を語るところでは「まってました」という声も掛かり、右京の花道の引っ込みに「七代目」という威勢の良い掛け声が極まっていました。

「二人夕霧」になると一般の方の声が増えて、いつも楽しげに声を掛けられる方も掛けていらっしゃいましたが、このお芝居はほとんどシャレのかたまりのようなものなので、そういう雰囲気には合っていたかなと思います。

歌舞伎座夜の部の演目メモ
●暗闇の丑松 幸四郎、福助、段四郎、秀太郎、染五郎、鐵之助、歌江
●身替座禅 菊五郎、仁左衛門、翫雀、松也、梅枝
●二人夕霧 梅玉、魁春、時蔵、秀太郎、團蔵、翫雀、門之助、松江

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