伊勢音頭 仁左衛門の当たり役 2006.4.20

15日と20日に歌舞伎座夜の部を見てきました。

主な配役
福岡貢(みつぎ) 仁左衛門
万野 福助
万次郎 松江
お紺 時蔵
お鹿 東蔵
板前・喜助 梅玉
お岸 勘太郎
北六実は岩次 團蔵
岩次実は北六 芦燕

伊勢音頭恋寝刃(いせおんどこいのねたば)のあらすじ
第一場 伊勢古市油屋店先の場
阿波蜂須賀家の家老の今井九郎衛門の嫡男・万次郎は、紛失したお家の重宝名刀・青江下坂を捜していたが、いったんは刀を手にしたのに、遊女・お岸にいれあげ遊ぶ金を工面するために、再び青江下坂を質入れしてしまう。

その上、お家のっとりの一味・徳島岩次たちにだまされて刀の折紙(鑑定書)まですりかえられてしまう。そんな万次郎のために、今田家の家来筋にあたる伊勢の御師(おんし)・福岡貢は青江下坂と折紙を取り戻そうと奔走している。

ここは伊勢古町の廓・油屋。万策つきた万次郎がお岸に貢の様子をたずねようとやってくる。お岸には会えたものの、仲居の千野が二人の逢瀬を邪魔するので、お岸は万次郎に大林寺で待つように言う。

その後から貢も万次郎を捜して、油屋へやってくる。ようやく青江下坂を手に入れた貢は、お岸から事情を聞き一刻も早く万次郎に刀を手渡そうと大林寺へ行こうとするが、「入れ違いになるから」と引き止められ、油屋で待つことにする。

貢が一人で待っているところへ現れたのが、仲居の万野。貢は万野に恋人である遊女・お紺にあわせてほしいと頼むが、今日は阿波のお客と一緒に出かけているとにべもなく断られる。そして替り妓を呼ばないのなら帰ってくれといわれて、貢はしかたなく替り妓を頼む。すると万野は態度を一変させ、機嫌がよくなり刀を預かろうと言う。

しかし大切な青江下坂を、めったに人に預けたりはできないので、貢が渡すのを渋っていると板前の喜助が自分が預かろうと申し出る。実は喜助は貢の家来筋にあたり、ひそかに貢が廓に入り浸っているのを心配していたと意見する。それを聞いて貢は喜助に「今さしている刀こそ青江下坂だ」と打ち明ける。

ところがその話はお家のっとり一味の一人、北六に聞かれていた。だれもいなくなるのをみすまして、北六は貢の刀と自分の刀の中身をすり替える。だがこの様子を見ていた喜助は、貢が帰るときに本物の青江下坂を渡せばよいとそのままにしておく。

そこへ替り妓として呼ばれたお鹿が出てくる。お鹿は貢から恋文を貰ったというが、貢には全く覚えがない。これを聞いてお鹿が泣き出すと、いないはずのお紺や岩次ら一行が奥から出てくる。お紺は自分の代わりにお鹿を呼んだ貢をなじる。

貢が「万野が勝手にお鹿を呼んだのだ」というのを聞いて、お鹿は貢の無心に応えて櫛笄まで売って金を貢いだのにその言い方はあんまりだとなじって、証拠の手紙を見せる。だが、それは貢の筆跡ではない。仲立ちは万野だというので、貢は万野を呼ぶ。

だが万野は、貢がお鹿から金を借りたのは間違いないと断言し、かえって悪態をつく始末。これを見ていたお紺は「金が必要なら、なんで自分に頼まなかったのか」と貢を責める。その上「昔から侍はきらいだった」と、貢に愛想つかしをする。貢は本来は侍で、近いうちに侍に戻ることになっているのだ。

満座の中で恥をかかされた貢は怒りをこらえて、喜助から刀を受け取り油屋を出て行く。北六と岩次の二人は貢に愛想づかししたお紺をほめ、実は北六が岩次で、岩次が北六だったことを明かす。北六はお紺が見たがっている折紙をお紺に預ける。

してやったりと一味の三人と万野がすり替えた刀を検めると、なんとそれは偽物で、貢が持って帰った方が本物だったと判る。いそいで喜助を呼び、貢を追わせるが、後から万野は喜助が貢の家来筋だったことを思い出し、自分もあとを追う。

しばらくすると刀の拵えが違うことに気がついた貢があわてて戻ってくる。そこへ万野も戻ってきて、刀を返せと迫る。挑発された貢が鞘に入った刀で万野を打つと、鞘が割れた刀は万野を切ってしまう。人殺しだと騒ぐ万野を貢は切り殺す。そして刀に魅入られたように、次々に現れるお鹿や北六、岩次たちを切り殺していく。

第二場 同奥庭の場
油屋の奥庭では、踊り子たちが揃って伊勢音頭を踊っている。そこへ血まみれの貢が切り込んでくる。もはや妖刀のとりことなった貢は殺しを止めることができない。

しかし貢が水を飲もうと刀から手を離したとき、お紺が駆け寄ってきて、折紙を渡す。愛想尽かしはこの折紙を手に入れるための偽りだったのだ。

貢はお紺に感謝するが、肝心の青江下坂を失ってしまったと切腹しようとした時、 喜助が駆け寄ってきて貢が持っている刀こそ、青江下坂だと教える。刀と折紙の両方を首尾よく取り戻した貢は、お紺とともに喜びあうのだった。

1796年に大阪で初演された近松徳三他作「伊勢音頭恋寝刃」は実際にあった事件をもとに、事件の翌々月(7月)上演された芝居で、こういうニュース性のある芝居は「際物(きわもの)芝居」と呼ばれました。実際の事件では殺したのは孫福斎(まごふくいつき)という医者で、主人公福岡貢(みつぎ)の名前はそれをもじってあるようです。

仁左衛門が演じる数々の役の中でも、声、容姿、持ち味が一番合っていると思うこの貢。すっきりとした姿に白い絣に黒の羽織が涼しげで、女たちが使っている団扇もあいまって初夏を感じさせる芝居です。

満座の中で罪をきせられ恥を忍びつつ「身不肖ながら福岡貢、女をだまして金とろうや、ばば馬鹿な」というあたりへむかって徐々に緊迫感を高めていく有様が見事で、「ぴんとこな」とはなるほどこういう役なのだと納得させます。

万野の嘘にかっとして刀に手をかけようとして、刀がないのに気がつき、立って両手を後ろの帯にかけて極まる見得は上方式ということですが、長身の仁左衛門に似合っています。奥庭で血まみれの凄惨な立ち廻りで見せるいろいろな形の見得は、残酷さを忘れてしまうほどのほれぼれする美しさ。

仁左衛門は奥庭の場に上方式の丸窓を破って出る型で登場し、そのままゆっくりとした音楽にのって斬りあいながら橋の上を下手に移動し、次に花道七三へ行ってから舞台中央へ戻りましたが、このやり方は華やかでありながらだれるということがなく、花道から出る型より優れていると思います。

今回は万野を初役で福助が演じましたが、顔をおおげさにしかめてみたり、地声でおどして客席を笑わせたりするのが仲居というよりは遣手のようでした。コクーン歌舞伎や野田歌舞伎では福助のこういう特異な個性が生きますが、普通の芝居の中では異物感が残りました。しかし最後に死ぬ時のえびぞりの美しさはさすが。

時蔵のお紺はおっとりとしていて遊女にしては少し品がよすぎたかなと思いますが綺麗で、縁切りをする本当の気持ちもかいま見えて良かったと思います。

滑稽なお鹿を演じた東蔵は額の刳りがただ丸くて(富士額になっていない)顔が大きく見える鬘をつけていたようでしたが、それ以外にはほっぺたを赤くしたり眉をさげたりしていなかったようです。「おかしかろ」というところでは「か」が高くて「ろ」がガクンと下がる言い方には、ちょっと違和感がありました。

初っ端に登場する万次郎の新・松江は一生懸命柔らかさを出そうとして、慣れないつっころばしに苦労していました。のっとり一味・岩次&北六の團蔵、芦燕は役にぴったりはまっていました。

奥庭で大勢で踊る「伊勢音頭」は、遊郭のはなやぎとけだるさ、夏の雰囲気をかもし出していました。全体的に仁左衛門の上方式せりふに皆のせりふが間が良くかみあっていて、最初ののんびりとした出だしから最後の凄惨な殺しの場への盛り上がりが自然に感じられました。

夜の部最初は吉右衛門の井伊直弼、魁春のお静の方で北条秀司作「井伊大老」。魁春初役のお静の方は驚くほど、うなじから肩への線が綺麗で、直弼をいちずに愛する女そのものでした。

けれども富十郎の禅師や吉右衛門の直弼が自由闊達にセリフをしゃべるのに比べると、八重垣姫が急に新歌舞伎に出てきたような固定化されたセリフまわしが、ちょっと不自然に思えました。吉右衛門の直弼は線が太く、包容力と温かみが感じられました。

口上には故人をしのんで幹部俳優がずらりと並びました。なかでも勘三郎襲名以来顔を見せなかった又五郎の元気な姿が見られたのが嬉しかったです。後ろの襖絵は全面をダイナミックに使った、故人の得意としていた京鹿子娘道成寺の桜と鐘と紅白の綱の絵で、上品でとても素敵でした。美術は後藤芳世。

口上の最後に松江の襲名披露が行われ、新・玉太郎を襲名する彩人君も下手から登場し、しっかりした可愛い口上で人気をさらっていました。今まで玉太郎は成駒屋でしたが、これからは加賀屋になるということです。(三代目までの歌右衛門の屋号は加賀屋で、歌右衛門が成駒屋になったのは四代目からです)

次が坂田藤十郎の江口の君、梅玉の西行法師で「時雨西行」。江口の里で時雨にあった西行がある遊女の家に雨宿りをさせてくれるように頼むが断られたので、歌を詠んで立ち去ろうとすると、遊女は気を変えて西行を中に招きいれる。話しているうちに西行が瞑想に入ると、遊女は普賢菩薩となって姿を現すというお話を、舞踊劇に仕立てたもの。

江口の君の頭がみたこともない独特の鬘で、大きなタボに長い簪を縦芯にしてまわりに髪の毛を巻きつけ上部が尖がった髷、前に二つ糸巻きくらいのものがついた面白いヘアスタイルに、すっかり気をとられてしまいました。藤十郎は、歌右衛門が歌舞伎座で一度演じてみたいと願っていたというこの踊りを、はんなりと踊っていました。

この日の大向こう

夜の部は口上があったので、たくさんの方が声を掛けていらっしゃいました。会の方も3人みえていました。

「伊勢音頭」で玉太郎改め新・松江さんの万次郎が花道から登場し、花道七三でせりふを言い終わった時、「六代目」とどっと声が掛かったのは襲名ならではのご祝儀でした。

六代目、九代目、十一代目については、過去の名優たちと強く結びついているため、安易に掛けるものではないという言い伝えもあります。しかしながら名優と同じ代数で呼んでも全くさしつかえないと思われるほどの優れた役者が出れば、この呪縛は自然消滅することでしょう。

20日も会の方は2人でしたが、15日にまして一般の方が大勢声を掛けられました。口上の幕が開いていく途中で、故人をしのぶかのように「大成駒!」と声が掛かり、幕が開き終わると長男の梅玉さんに「高砂屋」とすかさず掛かっていました。

四月歌舞伎座夜の部演目メモ

●井伊大老 吉右衛門、魁春、富十郎、歌江
●六世歌右衛門五年祭追善口上  
●時雨西行 藤十郎、梅玉
●伊勢音頭恋寝刃 仁左衛門、福助、時蔵、梅玉

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