外郎売 團十郎復帰 2006.5.8 W145

5日、歌舞伎座昼の部をみてきました。

主な配役
外郎売(五郎) 團十郎
十郎 梅玉
大磯の虎 万次郎
化粧坂の少将 家橘
小林朝比奈 三津五郎
小林妹・舞鶴 時蔵
梶原景時 團蔵
梶原景高 権十郎
茶坊主・珍斎 市蔵
工藤祐経 菊五郎

「外郎売」(ういろううり)のあらすじ
ここは大磯の廓。源頼朝に冨士の巻狩の総奉行を命じられた工藤祐経は大任を前にして、束の間の休息をとっている。

そこへ外郎売の声が聞こえてきたので、祐経は座興に外郎売の言い立てを聞こうと思いつく。やってきた外郎売は小田原名物の妙薬・外郎の故事来歴や効能をおもしろおかしく語り始め、一服飲んでみせると見る間に舌がなめらかになって早口の言い立てを鮮やかにやってみせる。

この様子をみていた珍斎は、女を口説くのに役立てたいと早速一服買って飲んでみるが、さっぱり効き目があらわれない。そこで外郎売は「薬の効能を出すためにまじないの手を打とう」と言いかけるが、自ら言った「打つ」という言葉をきっかけに、外郎売はにわかに祐経に打ちかかろうとする。

これを化粧坂の少将が止め、なだめているところへ、曽我十郎祐成が駆けつけて、外郎売・実は五郎時致と一緒に祐経を討とうと迫る。

改めて兄弟は先年祐経に討たれた河津三郎の子として名乗りを上げる。祐経は兄弟の親を思う気持ちに打たれ、寸志の餞と言って、袱紗を投げ与える。中には冨士の狩場の絵図面が入っていた。

巻狩の総奉行を務め終わったら、潔く兄弟に討たれようという祐経の覚悟を受け入れ、兄弟は祐経は再会を約束するのだった。

歌舞伎十八番の内「外郎売」は1817年に、荒事だけでなく台詞術にも優れていたという二代目團十郎が「若緑勢曽我」(わかみどりいきおいそが)の中で自作の長台詞を披露し大当たりをとったのが初演とされています。大阪でこれが上演された時、客がこの台詞を先に言ってしまったので、二代目はこの長台詞を末尾からさかさに言って、観客の度肝をぬいたという有名な逸話があります。

今回の「外郎売」は当代團十郎が大病から二度目の再起を果たすという、待ちに待った公演。休日ということもあって満員の盛況で、揚幕の中から團十郎の声が聞こえてくると真っ先にその姿を見ようとのぞきこんだり、振り向く人たちの目が一斉に注がれました。

花道を登場した團十郎はちょっと顔がむくんでいるようでしたが、口跡はしっかりとしていて早口の言い立てもよどみなく、この狂言を自ら復活しだけあって、持ち前のおおらかな愛嬌がこの役にぴったりとはまっていました。

一昨年の六月海老蔵襲名公演に團十郎が演じる予定だったこの「外郎売」。この時は松緑が代役をつとめましたが、團十郎が演じたことによってようやく海老蔵襲名が完結したように思えました。。

海老蔵や勘三郎の襲名もあり、三年ぶりに再開された「團菊祭」。劇中の口上では團十郎は病気から復活できた喜びと感謝の気持ちを述べ、菊五郎は再び團十郎と一緒に團菊祭ができることを嬉しく思うと語っていました。

このお芝居には曽我の対面のパロディもあり、「対面」で小林朝比奈が五郎十郎を呼び出す台詞「急いでここへ、のたくりつんでろやい」というところを、この芝居では「急いでここへ」と言いかけると花魁たちが「きやしゃんせいなぁ」と台詞をとってしまうので三津五郎の小林がずっこけたりしていました。

余人にかえがたい團十郎のひさびさの舞台は本当に嬉しいものでしたが、来月のロンドン公演のために無理をしたのでは・・・というかすかな不安もぬぐいきれず、なにはさておきお身体を大切にしていただきたいものだと心から思いました。

昼の部の最初は祖父、父そして息子たちへと三世代に渡って受け継がれた「江戸の夕映」。幕末から維新へかけての動乱の世の中で、武士を捨てきれず理想を追って苦悩する旗本・本田小六(海老蔵)とさらりと武士を捨てて町人になって生きて行く堂前大吉(松緑)その恋人の芸者おりき(菊之助)といった名もない人々を描いた大仏次郎作の新歌舞伎です。

最初のころは気の小さそうな普通の若者だった小六(海老蔵)ですが、はずみで官軍の兵士を切り、函館まで行って戦いに参加したものの、敗れて江戸に舞い戻ってきた時のすさんだ目つきは人が違ったようなすごみをおびていました。

幕切れで許婚・お登勢(松也)と再開はするのですが、下手から舞台全体を照らす真っ赤な夕日の中にたたずむ大吉おりき夫婦の幸せそうな様子に比べて、小六とお登勢の行く末はとても楽観視できないような荒涼とした雰囲気が感じられました。

小六と大吉が再会する場面の、お互いに物思いしている無音の間はちょっと長すぎたように思います。

お登勢の父・松平掃部を演じた團蔵は今月昼の部では3演目に出演の大活躍。この他には渋い菊十郎の船頭が、印象に残りました。

次は松緑の船頭、右近の雷で舞踊「雷船頭」。松緑がすっきりした江戸前の粋な姿を堪能させてくれました。

最後が岡本綺堂作「権三と助十」。井戸替え(井戸の水を全部くみ出して掃除する行事)という江戸情緒豊かな夏の風物詩を取り入れたこの芝居では、長屋の暮らしを髣髴とさせる台詞の応酬がぽんぽんとすさまじく、権三の出からすでに誰かが台詞を間違えたのか、権三の菊五郎、助十の三津五郎、助八の権十郎が笑いをこらえるのに必死だったりして、全員が和気藹々と演じていました。

井戸替えに参加する人数も大変にぎやかなもので、綱を引いて上手から出てきた一行の先頭が花道の三分の二くらいまで届いていました。

牢死したはずの彦兵衛(田之助)が実は生きていたというところで、不自然な沈黙が・・・とおもったら「おめえの番だろ」と菊五郎が三津五郎に台詞を促したので、場内大爆笑。そこへ出てきた田之助に菊五郎が一言「せりふが短くてよかったね」。アクシデントとアドリブも演出のうちなのでしょうか。愉快に笑える「権三と助十」でした。

この日の大向こう

皆が待っていた團十郎さんの復活を祝って、たくさんの声が掛かっていましたが、会の方は3人ということでした。しかしながら暖かい盛大な拍手に掛け声もかき消されてしまって、よく聞こえなかったのは残念でした。

外郎売の言い立てが始まる「故事来歴」というところで「まってました!」と3人ほどの方が掛けていらっしゃいましたが、いかにもぴったりという感じでした。

歌舞伎5月昼の部演目メモ

●江戸の夕映え 海老蔵、松緑、菊之助、團蔵、松也、万次郎、
●雷船頭 松緑、右近
●外郎売 團十郎、菊五郎、三津五郎、時蔵、梅玉、團蔵
●権三と助十 菊五郎、三津五郎、時蔵、権十郎、左團次、


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