決闘!高田馬場 三谷初歌舞伎 2006.3.16

14日、渋谷パルコ劇場でパルコ歌舞伎「決闘!高田馬場」を見てきました。

主な配役
中山安兵衛
中津川祐見
染五郎
小野寺右京
堀部ホリ
村上庄左衛門
亀治郎
大工・又八
堀部弥兵衛
勘太郎
おウメ 萬次郎
にら蔵 高麗蔵
おもん 宗之助
洪庵先生 橘太郎
菅野六郎左衛門 錦吾

「決闘!高田馬場」のあらすじ
時は将軍綱吉のころ。江戸の町なかで町人の男が二人喧嘩をしている。一人の武士がそれをとめに入るが、大工の又八はほおっておいてくれという。そこに「けんか安兵衛」とあだ名のある、中山安兵衛が酔ってやってきてこの喧嘩を仲裁し、又八から仲裁料をもらってそばの酒屋に入っていく。

この光景を見ていた武士は安兵衛の幼馴染・小野寺右京だと名乗って、又八に事情を尋ねる。又八が言うには、浪人の安兵衛は喧嘩を仲裁することで糊口をしのいでいるが、最近は喧嘩がないので偽物の喧嘩をでっちあげ安兵衛に酒代をかせがせてやるのだとのこと。

酒屋から出てきた安兵衛に右京が話をしようとすると、中津川道場のものたちが安兵衛に襲い掛かる。だがしたたかに酔っている安兵衛は簡単に打ちのめされてしまう。

ちょうどそのころ、安兵衛の住む長屋に安兵衛の叔父、菅野六郎左衛門が訪ねてくる。同じ長屋の住人たちから安兵衛の今の暮らしのすさんだ様子を聞いて驚く六郎左衛門だが、なぜか皆が安兵衛に優しいのを不思議に思う。

すると口々に安兵衛に親切にされた話を語る。おウメは病気のときに優しく看病してもらったと語り、又八は果し合いに替わりにいってもらい、おもんとばくち好きのにら蔵は夫婦喧嘩の仲裁をしてもらい、自信をなくして死のうとした医者洪庵は安兵衛のお陰で死なずにすんだというのだ。

それをじっと聞いていた六郎左衛門は安兵衛にあてて一通の手紙を書き残して、帰っていく。

帰ってきた安兵衛は、六郎左衛門の手紙をどうせお説教だろうと、読もうはとしない。そこへ右京が訪ねてきて、安兵衛に今のような有様に変わったわけを問い詰めるが、返す言葉もなく安兵衛はうなだれる。

おウメに説得され、しぶしぶ叔父の手紙を読んだ安兵衛は、叔父が高田馬場で村上庄左衛門と決闘、しかも中津川道場の中津川祐見たちが相手方の加勢することを知り、あわてて助太刀に向かう。その後を長屋の連中も追いかける。

しかし安兵衛の態度に絶望していた大工又八は、中津川祐見の誘惑に乗って、安兵衛の行動を逐一知らせるという約束をしていた。中津川道場の追っ手が迫るなか、まずにら蔵が自ら追っ手を引きつけて、犠牲となる。

次に一行はお犬様大事の政策のために、増えた野犬の群れに襲われ、今度はおもんがこれを引きうけ後に残る。そして洪庵は川の深みにはまって姿を消す。後少しで高田馬場というところになって、安兵衛は急に戦う自信がなくなる。

すると又八は自分が安兵衛を裏切って中津川に内通していたことを打ち明け、皆を犠牲にしてまで助太刀にいく必要があったのかと安兵衛を罵倒する。それを聞いた安兵衛はかっとして又八を切り、襲ってきた中津川道場の門弟もことごとく切り捨てる。又八は、安兵衛にこうなってほしかったのだとつぶやき、微笑みながら死んでいく。

高田馬場では六郎左衛門が手傷を負いながらも、必死に戦っていた。安兵衛はようやく助太刀に間にあったのだ。

三谷幸喜の歌舞伎への初挑戦、パルコ歌舞伎「決闘!高田馬場」は2時間15分休みなしの通し上演でしたが、野田歌舞伎「研辰の討たれ」の初演の鮮烈さに負けないほど新鮮でした。

役者さん全員がいかにも楽しげに演じていたのも印象的で、野田歌舞伎と同じくせりふの量の多さもすさまじかったですが、稽古期間も充分にとったというだけあって、アンサンブルが非常によく2時間15分を全員力を合わせて駆け抜けたという感じです。

三谷幸喜監督の最新作映画「THE 有頂天ホテル」を見た時にも感じたことですが、この芝居を見た後にも何か心温まるものが残り、それが三谷の最大の魅力なのではと思います。

歌舞伎の見得、ツケ、柝なども取り入れられていました。下座音楽の方たちを舞台正面奥の高いところ、黒い紗の幕の後ろにすえて見せたのも面白い試みでした。

定刻になるとさりげなく音あわせのように始まった音楽は「パパパ・パパパ」と三連符が下座音楽としては珍しく「パルコ歌舞伎見参!」と言っていたように聞こえましたが、マイクで拾った音が割れてしまい不鮮明で歌詞がよく聞き取れなかったのはちょっと残念でした。せっかく小さな劇場でやるのですから、生の方がかえって良かったのではと思います。

場の転換などは小さい廻り舞台を全部見せて簡単な壁状のものを動かして行う、完全な居所がわりでした。例えば舞台中央、隙間のある建物のように四角く組まれたのは、長屋の入り口で客席側が長屋の中。四分の一ずつ舞台を回すと他人の長屋の中になるという仕掛などは歌舞伎としては奇抜な演出です。花道がないので役者の出や引っ込みには下手の客席の間の通路、途中から曲がって下手のドアも使われていました。

安兵衛と敵の中津川祐見二役を演じた染五郎はほとんど出ずっぱりの大活躍。身体能力がとても高い役者さんでコミカルにもシリアスにも自在に演じていましたが、可笑しい時に自分も笑ってしまわなければなおさら良かったと思います。

武士の右京と娘役のホリ、それともう一役を演じた亀治郎は立役を思いっきりよく演じたためか、娘役のときに声がかすれていましたが、右京の可笑しさは「十二夜」の当たり役・麻阿を思い出させました。亀治郎にはコメディのセンスがたっぷりとあるようです。それにしても亀治郎は立役を演じると、声は叔父猿之助、せりふの言い方や間は父段四郎にそっくりで、これが血というものかと感心しました。

時代なせりふ廻しも朗々と響きわたり、亀治郎の女形だけでなく時代物の立役もこれからもっと見てみたいと思いました。

又八の勘太郎はちょっとがんばりすぎと思えるくらいの力演でしたが、白髪で腰のまがった堀部弥兵衛にぱっと替わるのがとても上手く、また愛嬌のあるおじいさんで、遠い将来「沼津」の平作を演じる時が楽しみです。

一番驚いたのは萬次郎のおウメで、萬次郎がこういう新しい芝居に出るとは想像もしていなかったのですが、水を得た魚のように生き生きとおウメばあさんを演じていました。「ばあさん」と呼ばれるのを拒否する色気たっぷりのおばあさん。病気のウメを背負って安兵衛が医者に走る場面では、ウメの作り物の足の演技も愉快でした。

足といえば安兵衛が中津川道場の連中にやっつけられるところで、壁をぶちぬいて倒れこみ、足だけこちらへ見せていると思った染五郎が上手からおかまっぽい中津川祐見になって登場したのにはびっくり。いつのまに吹き替えと入れ替わったのか、全くわかりませんでした。この足が染五郎のものに戻るところも笑えました。

右京が安兵衛との少年時代の思い出を語る場面では、広げて持った布団を舞台にして染五郎にそっくりの細面で青髭の人形と亀治郎そっくりの丸顔にお団子鼻の人形をそれぞれ当人が持っての人形劇が素朴な雰囲気を出していました。生類哀れみの令のために増えた野犬の群れの中にプードルがいたのもご愛嬌。

大きな川を渡る場面では、低い位置に張られたワイヤーに段違いにつられた白い幕が水を表し、ツケ打ちもここでは水の底にいるという証拠に水中めがねとシュノーケルをつけていました。(^^♪この白い幕は大きいのと小さいのとあって上手へ下手へ全速力で移動し、幕が通りぬけたと思ったら、後に人物が残っていたりする演出には驚きました。筋書きによると、これはブレヒト幕というものだとか。

余談ですがこの日開演してまもなく、突然舞台天井のライトがショートしたのかバンという音とともに火花を散らして割れ、ガラスが下に落ちてきました。廻り舞台の上でしたので、芝居を中断せず黒衣が真っ暗な中で掃除していましたが、だれにも怪我がなくてなによりでした。

ともあれ、三谷幸喜の初歌舞伎は面白そうなことをたくさんつめこんだビックリ箱のようでありながら、終わったあとにほのぼのとしたものを残すという三谷独特の長所が生かされていて、大成功だったと思います。

この日の大向こう

お芝居の途中では声は全く掛かりませんでしたが、二度のカーテンコールでお一人だけ「澤瀉屋」と声を掛けた方がいらっしゃいました。

高田馬場へ安兵衛たちが駆けていくのにあわせて手拍子が起こっていました。勧進帳の飛び六方に手拍子が起こるのには同調できませんが、こういう新作の歌舞伎に自然発生する手拍子は素朴でよいと思いました。それにしても皆さん、手拍子に慣れっこという感じだったのには驚きました。

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