神霊矢口渡 亀治郎の会 2005.8.17 | ||||||||||||
12日、国立小劇場で行われた「第四回亀治郎の会」を観ました。
「神霊矢口渡」(しんれいやぐちのわたし)のあらすじ ここへ義興の弟・新田義峯が妻の傾城うてなを伴って人目を忍んでおちのびてくる。うてなが癪をおこしたので、二人は傍らの家に一夜の宿を頼む。 頓兵衛の一人娘・お舟ははじめのうち宿を断るが、義峯に一目惚れしてしまい泊めることを承知する。連れは妹だと聞いたお舟は、義峯に恋心をうちあけけかき口説く。義峯は兄・義興の最後の様子を聞きだしたいがために、お舟を抱く。 ところが不思議な力によって二人は気を失いその場に倒れる。うてなはこれを見て、すぐに夫の所持する新田家の白旗のたたりだと気がつき、旗を掲げて拝むと二人は息を吹き返す。 これを見ていたのが頓兵衛の下男・六蔵。お尋ね者の義峯と気づいた六蔵はすぐにも奥の部屋へ踏み込もうとするのをお舟はなだめすかす。六蔵が自分に気があるのを知っていたお舟は、自分も六蔵にほれているように偽って、ひとまず頓兵衛を迎えに行かせる。お舟は思い悩んだ末に、奥の部屋へと入っていく。 竹やぶをかきわけてお舟の父親・頓兵衛が姿を現す。鍵のかかった我家へ裏から押し入り、暗闇の中を奥の一間にいる二人を殺そうと忍んでいく。床下から刀で突きさしてみると、声をあげて苦しんでいるのはなんと娘のお舟だった。 瀕死のお舟は頓兵衛に、非道なことはやめて改心してくれるように頼み、好きになった義峯から「兄を殺した頓兵衛とひとつでないことを証明すれば未来は一緒になろう」といわれたことを話す。 だが怒った頓兵衛はせせら笑い、たちふさがるお舟を情け容赦なく突き飛ばし、義峯たちを追って走り去る。お舟は合図の太鼓を打てば囲みが解かれることを思い出し、止めようとする六蔵を刺し殺し、最後の力を振り絞って太鼓をたたく。 一方海へこぎ出した頓兵衛は、天から飛んで来た新田家伝来の矢に、首を射抜かれて息絶える。 昨年までは京都春秋座で行われていたこの会ですが、今回初めて東京で3日間開かれ、この公演を期待していた人々で客席は満員でした。 1770年に初演された人形浄瑠璃「神霊矢口渡」の作者の福内鬼外とは江戸時代の蘭学者・科学者として知られる平賀源内。 まず暖簾を押し分けて出てきた亀治郎のお舟には、華と存在感がありました。大きな簪に振袖、赤に金の模様の半襟、黒の縁取りをしただらりの帯という姿は、父親が足利家からもらった報奨金による豊かな生活をあらわしているようで、興味深く思いました。 義峯に一目惚れしたところ、恋心を打ち明けるところ、義峯のために犠牲になろうと決心するところ、最後の断末魔でのたちまわりなどの節目節目で、くったくなく可愛らしいこの娘が刻々と色が変化するように変わっていくのは見事でした。 これまでいろいろな役に意欲的に挑戦してきた成果か、亀治郎のお舟には深い陰影が感じられました。声がともすれば高くなりすぎるのだけが気にはなりましたが、生き生きとした魅力あふれるお舟でまさにはまり役。 門之助の義峯、吉弥の傾城うてな、亀鶴の六蔵など周りのメンバーも役にぴったりで、葵太夫の義太夫など充実した陣容。本公演で演じられたとしても、充分満足のいくものだったと思います。 頓兵衛の段四郎が、竹やぶをガサガサいわせながら登場した時はゾクゾクと鳥肌がたつ感じがしました。けれどその後はお人柄か、極悪非道な人間という感じはちょっと薄かったです。 頓兵衛が壁を打ち破って家に押し入るところや、逃げた義峯たちを追って花道を入るところは時間をかけて念入りに演じられていましたが、その必要はあまりないように思いました。 幕間をはさんで新歌舞伎十八番の内より「船弁慶」が演じられました。このため後見などの裃の紋は全て三升。亀治郎の静と知盛の霊、最後まで緊張が途切れることなく軽快に踊っていました。普通見る能の足取りと違って、つま先はつけたままで、かかとを上げながら歩いていたのが印象に残っています。槍を担いでぐるぐる廻りながらの幕外の豪快な引っ込みには、引きつけられました。 亀治郎は素顔でみるとそう思わないのですが、この役では丸顔に見えました。ことに知盛の霊では恐ろしいというより可愛らしい感じがしてしまいましたが、隈取の加減かもしれません。 義経を演じたのは尾上右近で、まだ少年ながら静との別れの悲しみの情を、おどろくほど見事に表現していました。声がかすれたりはするのですが、これからどんな役者に成長するのか大変楽しみです。能の「船弁慶」では子方が義経演じるのですが、いかにも子供が演じているという感じで、右近の義経とは趣がかなり違っていました。 最後はカーテンコールがあり、花道をひっこんでいった亀治郎が舞台に登場。大拍手に包まれながら花道七三に行って、次々と出てくる共演者を迎えました。「船弁慶」で堂々たる弁慶を演じた愛之助に、ひときわ大きな拍手が沸き起こり、小劇場の観客が全員立ち上がってのラストでした。 |
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この日の大向こう | ||||||||||||
大向こうの会の方が3人いらしていて、良い声が掛かっていました。女の方もお二人ほど掛けておられました。 一番印象に残ったのはお舟がもの思いしながら、門口へ立つところ。出てきたとたんに女の方お二人が続けて声を掛けられましたが、しばらくしてから目立つきっかけもないように思えたのに、大向こうさんたちが揃って「澤潟屋」と声を掛けられたのは、さすがでした。 |
壁紙&ライン:「和風素材&歌舞伎It's just so so」