桜姫東文章 福助の桜姫 2005.6.18

15日、コクーン歌舞伎を見てきました。

主な配役
桜姫 福助
清玄&権助 橋之助
長浦 扇雀
残月 弥十郎
入間悪五郎
葛飾のお十
勘太郎
粟津七郎 七之助
松井源吾 源左衛門
松若 芝のぶ
口上役 あさひ7おゆき

「桜姫東文章」のあらすじはこちらをご覧下さい。

六回目を迎えるコクーン歌舞伎ですが、今回は勘三郎が不在であることと、去年の夏歌舞伎座で玉三郎が昼夜変則通し公演で演じたあの長い「桜姫東文章」を、休憩を入れてたった3時間35分に納めてしまうというので、期待といくらかの不安をもって見に行きました。会場はあいかわらずの人気で満員の盛況でした。

プロローグは短い間に複雑な関係を説明しようとするためか、講談師ならぬ「あさひななおゆき」という白髪のおかっば頭に裃を着た普通の演劇の役者さんが進行役をつとめました。

しかし筋を知っている私でも、よく判らないところがあったくらいなので、初めて見る方にとってはかなり難解だったのではと思います。特に桜姫の兄弟・松若が出てくるところ、これが何者かが判りづらかったです。

この芝のぶの松若と七之助の粟津三郎が傘をパラシュートがわりに高い回廊のような場所から並んで飛び降りるところでは、去年こんぴら歌舞伎で魁春の桜姫がやはり傘をかついで清水の舞台から飛び降りたことを思い出しました。(もっともこの時は実際には飛び降りたわけではありませんが)

「あさひ7おゆき」は時にサックスをふきながら奮闘していましたが、いわば平成中村座ニューヨーク公演の英語の説明のような感じがしました。

串田の演出の斬新さにはいつもびっくりさせられますが、今回はキャスターのついた桟敷のような台に役者が乗ったものを非人とか河童とか得たいのしれないものが引っ張ってどんどん場面を転換していました。

桜姫の福助は予想に反して、風鈴お姫よりもお姫様の方がずっとよく、「あてどなくぼんじゃりと」というのが理想の遊女といいますが、そういう不思議な感じのお姫様で、一風変わった魅力がありました。けれども声をこわしていてお姫様の高い声が完全にかすれてしまっていました。風鈴お姫になってからは声を低くしていましたが、台詞まわしが妙に現代風になってしまったのは残念でした。

福助の桜姫は最後がユニークでした。去年見た桜姫は、権助と自らの子供を殺した後、申し訳なさに自害しようとすると、あれは仇だったのだから死ぬには及ばないと、再びお姫様に返り咲いて大団円になるのですが、今回は他の皆は大団円のラストですが、桜姫はそんな光景と一人離れて満開の桜吹雪の中、殺した子供を引きずりながら狂女になってしまうのです。

現代人には理解しにくいお家第一のラストよりも、人間的なこの終わり方は共感を呼び、カーテンコールでは立ち上がって拍手している人も沢山いました。

橋之助の清玄と権助、権助が下手の客席から登場したところなどは、ほれぼれするほどかっこよかったです。けれど興奮してくるに従って、笑いながらしゃべり続けるような感じがへれば、もっといいのにと思いました。

清玄が殺される岩淵庵室の場などは、回り舞台ではなく家そのものが人が動くにつれてぐるぐると廻っていたのが面白かったです。清玄が寝ているところが、歌舞伎座で観た時はついたての後ろだったのが、今回は奥の一間だったのはこちらの方がよいように思いました。それから権助住処の場で歌舞伎座では出てきた清玄の幽霊がこちらでは登場しなかったのも個性的な演出でした。

勘太郎の赤ッ面の入間五郎がいつも見得をする時、右手を曲げて頭の後ろへやる格好をしたり、七之助の粟津三郎との立ち廻りでは、七之助が頭をぶっつけられて鼻血を出し鼻を押さえる格好で極まったり、この二人のやりとりは、とても快調でした。

心配していた勘三郎の不在にも関わらず、今回もまたなによりも役者さんたちが楽しそうに生き生きと演じていて、なかなか魅力あるコクーン歌舞伎だったと思います。

大詰めで桜姫が赤ん坊の胸倉を片手でつかんでだらんとぶら下げていましたので、原作どおり殺してしまったのだと思ったのですが、「殺そうか、殺すまいか」と悩んでいたのだということが後でわかりましたので、訂正いたします。

この日の大向こう

最初のうち、声を掛ける方は皆無でした。それで桜姫が権助に再会して釣鐘の入れ黒子を見せた時のツケ入りの見得で、どうにもがまんできなくなって「成駒屋!」と声を掛けました。けれど、躊躇したぶん遅れめだったかと反省しています。

しかしよく観察してみると見得はあるのですが、極まるとほとんど間をおかず次へいってしまうので、この感じはスーパー歌舞伎に似ていると思いました。

それでも前の方で一人女の方が福助さんにさかんに掛けていらっしゃいましたが、「なり」だけで「こまや」はちょっと聞き取れなかったです。

最後に狂女となった桜姫が高い台の上で海老ぞったところで、もう一度だけ「成駒屋」と声を掛けました。

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