髪結新三 初夏の芝居 2005.5.15

11日、歌舞伎座昼の部を見てきました。

主な配役
新三 勘三郎
忠七
大家
三津五郎
弥太五郎源七 富十郎
お熊 菊之助
後家お常 秀太郎

「髪結新三」本名題「梅雨小袖昔八丈」(つゆこそでむかしはちじょう)のあらすじはこちらをご覧下さい。

「髪結新三」(かみゆいしんざ)は江戸時代の初夏の風物が描かれている、世話物の中でも私の最も好きなお芝居です。特に今回は三津五郎が忠七と大家の二役を演じるということでとても楽しみにしていました。

まずお熊を演じた菊之助がとても美しく、この役を演じる役者さんが魅力的でないとこのお芝居はひきたたないなぁとつくづく思いました。車力善八の姪、お菊を演じた小山三もいかにも年若い娘らしく見えました。

忠七はベテランの女形が演じることが多いですが、立役の三津五郎の忠七は江戸の和事を冴えた台詞廻しで気持良く演じていて新鮮でした。

お熊に「さぞお喜びでございましょう」というところで、すねたようにつと顔を背けるところが、三津五郎流かなと思いましたし、永代橋の場で花道から新三と相合傘で出てきた忠七が、手拭を頭にのせていたのも初めて見ました。

ことに橋の上で最初の本釣で欄干を背にして極まるところが素敵でした。けれど新三に下駄でけられるところでは二人の位置が上手くかみ合わず三津五郎がわざわざ蹴られに行ったようなおかしな感じがしました。

鰹売りの源左衛門の「カッツォ!カッツォ〜イ!」と江戸っ子らしい威勢の良い売り声が聞こえるあたりがこの芝居で一番さわやかなところで、初夏の風が通り過ぎたような気分。勝奴の染五郎も小悪党の感じがでていたように思います。

ところで三津五郎は大家になるとなぜかテンポが重くなり、丁々発止という感じが薄かったようです。勘三郎の新三は出からいかにも目つきがするどい悪といった感じで、最初からこんなに肚を見せてしまって良いのかと思いました。その後は傘尽くしの名台詞にも以前見た時のような生きのよさが見られなかったのは残念です。

新三はたしかに悪いやつだけれども、格好よくて憎めない愛嬌がある男。そういう新三を勘三郎に演じてもらいたいと思いました。

富十郎の源七は忠七を助けてやる時、風音がして「あやうく提灯の火をもっていかれるところだったよ」チョーン!というせっかくの見せ場がきりっとせず、新三うちでのやりとりには、プロンプターがついていて台詞になんともいえない間があいてしまい、こちらもかけあいの面白みが出ませんでした。最後は勘三郎と富十郎の切り口上で終わりました。

最初の演目は菅原伝授手習鑑の「車引」で勘太郎、七之助の兄弟が梅王丸、桜丸を演じました。今回桜丸は今月設置されている仮花道から登場したのですが、やはり綺麗です。去年の浅草歌舞伎で勘太郎の梅王丸を見たときは、顔が小さく見えましたが、今回は歌舞伎座の舞台に負けない大きく、堂々として見えた梅王丸でした。

だんだん激昂してくると声を無理やり張るのが、ちょっと心配でしたが、見得も美しく、柝頭のこぶしを振り上げて思い切り身体をそらした見得は力強くて拍手喝采。桜丸の七之助は声も台詞廻しも良く、無駄のない良い舞台だったと思います。

今回勘三郎の部屋子になった鶴松こと清水大希が杉王丸を演じましたが、まだ声変わりもしていない子供とは思えないほどしっかりした台詞回しと間で、苦しい姿勢を保ったまま梅王たちの台詞の間中がんばっていたのは末たのもしいと思いました。

ところで陰から「待て、待て」と海老蔵の松王丸の声が掛かると、その深くてよく響く声の良さには聞きほれてしまいました。出てきたところも大変立派で良かったと思いますが、私はあの鬘はあまり海老蔵には似合わないように思いました。

この一幕は、若い人たちの力のぶつかり合いが気持ちよくさわやかな印象を残しました。ベテランの左團次の時平には存在感がありました。

「芋掘り長者」は「鰯売り」を思い出させる、楽しい舞踊劇ですが、三津五郎の踊りが短くてあまり見られなかったのが残念でした。以前踊った「大原女」などをじっくりもう一度見たいものだと思います。橋之助の踊りが立派でした。

その次に川尻清譚作「弥栄芝居賑」(いやさかえしばいのにぎわい)が上演されました。開場した中村座の前で座元の勘三郎や若太夫の勘太郎らが迎えるところへ、男伊達、女伊達に扮した役者たちがつぎつぎとお祝いにやってくるという華やかなお芝居。昭和59年に團菊祭で上演された時は江戸座という座にして上演されたそうです。

舞台には雀右衛門の茶屋女将や、富十郎の茶屋亭主、芝翫の名主女房が並び、両花道にずらっと綺羅星のごとく役者衆が勢ぞろいしたところはまさに壮観というほかはなく、菊五郎、玉三郎の風格ある格好の良さはさすがでした。

全部名前をあげると男伊達の方が舞台から順に菊五郎、三津五郎、橋之助、染五郎、松緑、海老蔵、獅童、弥十郎、左團次、梅玉の10人、女伊達の方が玉三郎、時蔵、福助、扇雀、孝太郎、菊之助、亀治郎、芝雀、魁春、秀太郎の10人。

海老蔵がひときわ目立ったのはもっともだと思いましたが、あまり歌舞伎に出ていない獅童がまけずおとらず素敵だったのには驚きました。顔といい、姿といい歌舞伎のなかにあっても光る役者だと思いました。ただ声は今一でした。

皆同じ格好同じ姿勢なので、男伊達の中で一人だけ右肩が下がっていた方がいたり、女伊達の中に着膨れしたような方がいたりしたのが気になりしました。孝太郎の小柄だけれどもきりっとした美しさが目をひきました。

3月4月と口上を見てきましたが、こういう形の口上は見ていても楽しくて、口上を述べない役者さんも舞台に勢ぞろいで華やかなことこの上なく、まさに眼福でした。

この日の大向こう

「車引」では中村屋のご贔屓と思われる方が、梅王丸と桜丸の出からバンバン掛けられ、笠をとるところで「まってやした!」と掛けられたのにはちょっとびっくり。

会の方も3人見えていて、いいところで掛かっていましたが、少し早めに、二度目のツケにぴったりとあうようにと掛けられたようでした。

新三においてきぼりにされた忠七が永代橋の橋の上で欄干に背中をもたれて本釣できまるところで、いっせいに「大和屋」と掛かりました。前に見たときには二回目三回目の本釣でも掛かって、掛かりすぎだと思ったのですが、この日はそういうことはなくて、すっきりとしていて良かったと思います。

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