闊達の筆致・水彩画家・萩原 実
日本水彩画会の委員をつとめ、日展にも出品していた。師は石井柏亭。
美術教師(旧制上田中学、上野学園女子高校等)の傍らただひたすら自分の画境を深めることに熱中し、絵を売ることにも名を売ることにも意を払わなかった。都内での個展もごく晩年の一回のみ。そのため死後30余年に至るもなお無名のままである。
晩年に至りついた独自の画境には「闊達」の一語が良く当てはまる。力強くのびのびとした筆致。明朗な色彩。大胆動的でしかも隙の無い構図。
彼は水彩画に油画に匹敵する強い表現性を持たせるため、紙の上に水性ペイントで地塗りをしさらに縦横に櫛目を入れて、その上にガッシュをも交えた濃い色彩を加えていくといった冒険をあえてしている。遺作展の来観者が一様に「これが水彩画か」とおどろいたものだ。おかげでいまだにその作品は鮮度を失わない。
死後残された作品はほぼ1000点に近い。このまま無名で朽ちさせるのはいかにも惜しい作品群である。
ここに晩年の彼の画境を伝える作品の一部を紹介する。
なお娘、葉子についても簡単な紹介を付けておきます。
日本水彩画会出品作の前で(1943年頃)
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略歴は作品の下
萩原 実 略歴
1901:愛知県に生まれる
1922:岡崎師範卒
1924:愛知県安城高等女学校教諭
1930:長野県上田中学校教諭
石井柏亭に師事
日本水彩展に入選、以後継続
1937:第一回一水会展に入選、以後継続
1939:日本水彩画会賞、会員推挙
1940:起源600年祝典記念賞
1941:上京し上野高等女学校教諭
1945:一水会会員推挙
愛知県額田町に疎開、当地の小学校教諭
1958:上京し上野学園高校教諭
1959:日本水彩画会委員
1970:11月死去
萩原実の娘。日本水彩画会会員。
1936年信州上田で生まれ、1960年女子美術大学日本画科卒。在学中の教授は片岡球子。
卒業後指導を受けた画家は中村正義、近藤孔明、佐藤多持。1970年吉田敦彦と結婚。二児の母。
付:萩原葉子
以上の作品は全て(下描きにはアクリル絵の具を用いているが)日本画の画材を用い、パネル張りの和紙(麻紙)に描かれている。