小説
アフターコロナ
Episode 09 海老の見解
お? 来やがったね、この野郎。
なんだい、人間がどうしたって? そりゃあ、すごいのすごくないのって、おいらを食っちまうんだから。
てやんでい! このすっとこどっこい。
おいらの腹を見たことあるだろうってんだ。芋虫とか毛虫とかとおんなじで、足がいっぱいあるわ、細かい節になってるわで、気味が悪いし、食っちまおうなんて普通は思わねえ。
背中だってほら見てみろ。固い甲羅に覆われてるんだぜ。
おめぇ、セミ食おうと思うか? おいらはダンゴムシとか、アルマジロとか、食いてぇとは思やしねぇね。見るからまずそうだぜ。
こんなおいらを最初に食おうと思ったやつの顔が見てみてぇわ。
そうだろ、この野郎。べらぼうめぇ。
その上、エビは高級食材だそうだ。伊勢海老のお造りって知ってるか? うめえんだなあ、これが。頭とか尻尾とかが、くっついたまま皿の上に並べられるんだな、これが。まだ死にきれねえんで、時々ピクピク動いたりするんだ、この野郎。
寿しのネタとしても半端ねえ。最近じゃあ、甘えびとか生エビがうめぇんだ。
エビフライとか、エビの天ぷらとかも、そこらの普通の素材に比べると2倍以上の値段だぜ。
ぷりぷり? てやんでぃ! そういう手あかにまみれた言葉が嫌れぇなんだ。もっと五感で楽しめ。あたぼうよ、言葉じゃねぇんだ。
こんちきしょう。おめぇに銭やっから、うめえエビ料理でも楽しんで来い。
悔しいの悔しくないのって、人間が滅びちまったら、おいらのこと「うめぇうめぇ」って誰が言ってくれるんだい。こんちくちょう。泣けてくらぁ。