21世紀発行の回顧本
21世紀になり、バス趣味に二つの変化がありました。一つ目はバス趣味のメジャー化、二つ目は昔の記録などを掘り出す回顧本が発売され始めたことです。
バス趣味のメジャー化はWebの普及によるものと思われますが、回顧本についてはバスに限らず様々な分野で見られる現象です。これは、昔の記録を所有していた人が、年齢や地位などの変化で出版にこぎつけられるようになったことが大きな原因で、それを一つ目の変化であるバス趣味のメジャー化が後押しをしたものと思われます。
ここでは、古いバスを研究するための新しい資料として、21世紀になって発行されたバスの本を並べてみます。
満田新一郎ほか(2005)「昭和30年代バス黄金時代」
満田氏が生前に撮影していた昭和30年代のバスのカラー写真を没後に家族が発見し、三好好三氏、福川博英氏が解説をつけた160ページに及ぶ写真集。終戦間もないこの時代に、ポジフィルムでバスのカラー写真を全国で撮影していたということに驚きますが、そのフィルムに退色がなく、昨日撮影したかのような美しい発色なのにも驚きます。そしてまた、そんな古い時代のバスの1両1両に詳細な解説がついていることにも感服します。
時代背景からバス会社の系譜、バス車両のメーカーや型式など、過不足ない説明があるので、古いバスの一側面を知る貴重な資料になります。
満田新一郎ほか(2006)「続・昭和30年代バス黄金時代」
前作の続編として翌年に発行されたもの。構成や解説の基本は前作と同様で、北海道から沖縄まで北から順番にバスのカラー写真が並びます。満田氏は色とりどりで綺麗なバスに魅せられてカラー写真を撮影したそうですが、地域によって異なるバスのカラーを写真で楽しむこともできます。本作ではボンネットバスよりも箱型バスの方が目立ちますが、この時代の箱型バスの記録が少ない中で、本当に貴重な画像が目白押しです。新日国ボディがまだ当たり前に見られた時代でした。
満田新一郎ほか(2006)「昭和40年代バス浪漫時代」
3作目は昭和40年代になりました。基本構成は前2作と変わりませんが、目次に県名が入ったり、全3巻の総合索引がついていたりと、大量の写真、記事を検索するには助かる機能付です。昭和40年代に入ると、さすがに見覚えのあるカラーやスタイルが多くなりますが、それでも貴重な写真ばかりが相次いで出てきます。
この全3巻を見るだけで、この時代のバスについてかなりの知識がついてくる気がします。
河村かずふさ・鈴木文彦(2006)「思い出色のバス」
河村氏が1950〜60年代にかけて鉄道撮影の傍ら全国で撮影したバスのカラー写真に、鈴木氏が解説をつけたもので、上記の3部作と同様に、今までお目にかかれなかった時代の貴重な光景が次々と展開します。ただ、こちらはボンネットバス、キャブオーバーバス、センターアンダーフロアエンジンバスという車種別の記述になっており、若干専門知識のある人向けになっています。巻末近くには東京、大阪、京都のトロリーバスもあります。
河村かずふさ・鈴木文彦(2007)「思い出色のバス 2」
前作の翌年に発刊されたもので、こちらはリアエンジンバスを車種別に解説。路線車と観光車に分けています。同じく1950〜60年代の撮影。撮影者の解説文によると、やはりバスを撮影し始めたきっかけに、カラーバリエーションの楽しさがあった模様。
坂田哲彦(2010)「昭和30年代のバス」
全国の新聞社、バス事業者、バスメーカー、公的機関などから提供を受けた“バスが写っている写真”を集め、地域別に並べ、主に車両に関する解説文をつけたもの。メーカーや型式などは、判明しているものについては記載されています。報道写真や記録写真などで街並みや社会事象を撮影していると、そこにバスが写り込んでいるのは、バスが交通の主体だった昭和30年代にはよくあることです。こういう視点で写真を集めると、まだまだバスの本は作れるのではないかと思えます。写真はすべて白黒写真です。
巻末には、選択基準は分かりませんが、全国のバスのカラーリングが相当数作図されています。
なお、本書の解説文の中には、一部誤記があるようです。
佐藤信之(2010)「昭和のバス名車輌」
この本も、様々な機関からバスの写っている写真を集めてまとめられていますが、記載の基準はメーカー、型式順で、主要諸元やエンジン解説などもあり、「古いバスのカタログ」という趣旨で書かれた本だと思われます。従って、バスの型式やその全長・ホイールベース、エンジン型式などが事細かに書かれており、これまでの回顧本に見られた読み物的な要素は影を潜めます。なお、本書に関しても、誤記と思われる部分がいくつかあり、参照する際はユーザー責任で行うことが必要かもしれません。
飯沼信義(2012)「思い出バス120景」
幼少期から学生時代を長野県松本地域で過ごした著者が、当時の松本電鉄のボンネットバスが走る光景を絵として残し、そのうち120枚を1冊の本にまとめたもの。前書きに著者自身が書いている通り、絵とは言っても、ボンネットバスの描写は写実的で、写真並みの、否、写真以上の再現性を持って実物のディティールを今に伝えてくれます。
「クラタ・ボディ」のボンネットバスとか、初期リアエンジンバス日産「コロナ」とか、他の書籍で詳しい記述を見たことのないような車種についても取り上げられています。
坂田哲彦(2013)「終末車輌」
ムックというタイプの本で、これはかなり変わった視点で書かれたもの。鉄道とバス両方を扱っていますが、廃車になった車両が活用されている様を、生き生きとした写真で解説しています。当サイトの「廃車体は生きている」にも掲載しているバスラーメンやバス食堂が次々と出てきて、飽きない内容です。Webでしか成立しないアングラな世界かと思っていましたが、時代は変わりつつあるようです。
赤木靖之(2013)「信州古バス見聞録」
1980年代末に当時中学生だった著者が撮影した長野県のバスのみをまとめた写真集。都会より遅いサイクルでの車両代替のため、この時代でもモノコックボディであったりバス窓であったりというバスが当たり前に走っていました。限定した地方や車種での書籍が成立するということは、バス趣味の認知度もかなり高まったということなのだと思います。鉄道で言えば「飯田線の旧型国電」のみで1冊作るという感覚でしょうか。
この本の執筆に当たり、現在の長野県も訪問しており、タイムスリップの一端を実感します。