■ OSI
さて、今回からもルーティングプロトコルの話だ。
OSPF、EIGRP、BGP4、と続いて4つ目ですね。
うむ。これにRIPv1、RIPv2、IGRPを含めれば現行のルーティングプロトコルのほぼすべてが出揃ったことになる。
ははぁ。
で、今回のは…いんてぐれーてっどいずいずですか?
インテグレーテッドはいいが、後ろはアイエス・アイエスかアイエストゥアイエスと読んでくれ。
あいえす・あいえす、ですね。
で、Integrated、ってあれですよね、ISDNの「I」ですよね。
そうだ。「統合」という意味になる。
「統合IS-IS」? 何を「統合」してるんです?
ふむ。それを説明するには、OSIの話からしなければならん。
OSI? 3分間第5回のOSI参照モデルですか?
まぁ、OSI参照モデルのOSIなのだが。
OSI参照モデルとは何だね、ネット君?
う〜ん。いまさらOSI参照モデルの説明をさせられるとは思いませんでしたよ。
OSI参照モデルとは異ベンダー間の相互接続を行うためのモデルですよね。
そうだ。OSI[Open System Interconnection]開放型システム間接続、異なるシステムを接続するためのモデルだ。すべてのベンダはこのモデルを基盤にすることにより、オープンな接続を可能とする。
ですよね。
それでだ、ネット君。ISO御大がわざわざ作って概念のモデルだけというのは片手落ちという気がせんかね?
え?
そういわれれば、そうですけど。概念以外ってことは、他に具体的なものがあるってことですか?
うむ。OSIプロトコル・スイートが存在する。
おーえすあいぷろとこる・すいーと?
OSIにプロトコルがあるんですか?
■ OSIプロトコル
ある。
もちろん、OSIの名前を持つのでわかるとおり、異ベンダ間を接続する標準プロトコルとして開発されたものだ。
は、ははぁ。
それはTCP/IPプロトコルスイートとは別物なんですね。
もちろん、まったくの別物だ。
細かい説明は省くが、以下のようなスタックになっている。
OSI参照モデル | OSIプロトコル |
---|---|
レイヤ7:アプリケーション層 | VTP・MHS・FTAM・CMIP |
レイヤ6:プレゼンテーション層 | プレゼンテーションサービス/プレゼンテーションプロトコル |
レイヤ5:セション層 | セッションサービス/セッションプロトコル |
レイヤ4:トランスポート層 | TP |
レイヤ3:ネットワーク層 | CMNS/CONP・CLNS/CLNP ES-IS・IS-IS |
レイヤ2:データリンク層 | IEEE802.2・802.3・802.5 FDDI・X.25 |
レイヤ1:物理層 |
[TableRT23-01:OSIプロトコル・スイート]
はわわわわ。
どうした、ネット君。
まったく知らなければ、想像もつかないような英略語が大量に…。
そうだな。いままではすべてTCP/IPプロトコル・スイートでの話だったからな。
まったく別のプロトコル体系の話になる。
で、ですよね。こりゃまいっちゃうな。
ネット君がまいっているのはいつもの事だが、さすがにOSIプロトコルを詳細に説明するつもりはない。
あ、そうなんですか。そりゃほっとします。
だが、そのいくつかはもちろん説明する。
まず、OSIプロトコルを説明する前に、OSIプロトコル独特の用語を知ってもらう必要がある。
独特の用語。
まず、「ドメイン」と「エリア」。
簡単に言えば、ドメインとはASだ。
自律システム。
「共通の管理ポリシーで運用されるネットワーク」でしたよね。それをOSIプロトコルではドメインという、と。
うむ。そのドメインはエリアで分割される。エリアは論理的なグループだ。
なんか、OSPFのエリアみたいですね。
そうだな、OSPFのエリアで考えるのが一番簡単かもな。
このエリアは「バックボーン」で相互接続される。
バックボーン。OSPFのエリア0ですね。
違う。
OSPFのエリア0、つまりバックボーンエリアと、OSIプロトコルでのバックボーンは異なる。
[FigureRT23-01:OSPFのバックボーン(エリア)]
すべてのエリアを相互接続するエリア。これがOSPFのバックボーンエリアだ。
だが、OSIプロトコルでのバックボーンは。
[FigureRT23-02:OSIのバックボーン]
赤のルータと赤のリンクが示す、エリアを相互接続するラインとでもいうべきものだ。特定のエリアを指すものではない。
は〜、すべてのエリアを接続するエリア、ではなく。すべてのエリアを接続するルートって感じですかね。
そうだ。まさしく「背骨」だな。
それと、「ES」と「IS」。
いーえすとあいえす?
さっきのプロトコル・スタックに出てきた「ES-IS」「IS-IS」のESとISですか?
うむ。ESはルーティング機能をもたないノードをあらわす。つまりESはホストマシンだ。
一方、ISはルーティング機器、つまりルータを指す。
[FigureRT23-03:ESとIS]
「ホスト」と「ルータ」をESとISって言うんですね。了解です。
■ OSIレイヤ3プロトコル
異ベンダー間の相互接続を行うために重要なのは、TCP/IPでIPが重要な役割を果たしているのでわかるとおり、レイヤ3のプロトコルだ。
インターネットワーク。ネットワーク間接続ですね。
OSIプロトコルでは、レイヤ3は2つのサービスがそれを行う。
CMNSとCLNSだ。
こねくしょん-もーど、と、こねくしょんれす?
コネクション型とコネクションレス型?
そうだ。
順番にいこう、CMNSはコネクション型サービスを上位レイヤに提供する。
レイヤ3でコネクション型って、いまいち想像がつきませんけど。
レイヤ4でコネクション型ってならわかるんですけど。
何故だ? 例えばPPPはレイヤ2プロトコルだが、コネクション型だぞ?
PPPの上位がコネクションレス型のIPであったとしても、PPPはレイヤ2でコネクション型サービスを行う。それと同じだ。
うぅ〜ん。なんとなくわかるようなわからないような。
PPPはエンドノードでコネクションを確立してから、データ交換をする。CMNSはレイヤ3だからエンドシステムでコネクションを確立してから、データ交換をする。TP4はエンドアプリケーションでコネクションを確立してから、データ交換をする。OSIモデルとカプセル化を忘れるな。
[FigureRT23-04:レイヤ間接続]
レイヤの独立、ですか。わかったような。
よしよし。
CMNSはCONPというプロトコルを使って、レイヤ3でデータを転送する。
うぅ? サービスとプロトコル?
TCP/IPでは「コネクションレス型インターネットワークデータ転送サービス」を上位レイヤに提供するのために「IP」を使う。
それと同じように、CMNSというサービスを上位レイヤに提供するために、CONPがある、と思えばいい。
なるほど。
もう一方のCLNSはコネクションレス型サービスを上位レイヤに提供する。
CLNSはCLNPを使ってレイヤ3でデータを転送する。
レイヤ3のコネクションレス型プロトコル。IPみたいなものですね。
そうだ。CLNPはIPと同じと覚えておくといい。
ベストエフォート型配信を行う、エラー訂正はレイヤ4で行う、などなど。
ははぁ。確かにIPと同じですねぇ。
■ ルーティング
さてさて。レイヤ3の最重要の機能といえば、ルーティングだが。
CMNSとCLNSでは、ルーティングの仕様が異なる。
へ? サービスによってルーティングが違うのですか?
そうだ。CMNS、つまりCONPを使ったデータ転送の場合。
CONPはX.25PLPが基礎となっており、ルーティングはX.25の機能を使う。
えっくすにじゅうご。
たしか、フレームリレーの元になった規格でしたよね。
そうだ。X.25とフレームリレーについてはいずれ話そう。
本題は、CLNS/CLNPでのルーティングだ。
IPと同じようなプロトコルの場合、ですね。
うむ。IPと同様にルーティングプロトコルを使用する。
ここで使用するのが、IS-ISとES-ISの2つのルーティングプロトコルだ。
あぁ、やっとでてきましたね。IS-IS。いんたーめでぃえいとしすてむ、とぅ、いんたーめでぃえいとしすてむ。
ISはルータだから、ルータ to ルータ?
そう、ルータからルータへ、まさしくルーティングプロトコルだろう?
じゃあ、ES-ISは、ホスト to ルータ?
その通り。IS-ISはルータ間で、ES-ISはホストとルータ間のルーティングプロトコルだ。
[FigureRT23-05:IS-ISとES-IS]
IS-ISはわかります。
ES-ISはなんですか? ホストとルータ間のルーティングプロトコルってどういう意味です?
うぅむ、そうだな。
ES-ISが何かというと。ネット君、上の図のようなバス型トポロジの場合、ルータからホストへデータを転送するには何が必要だ?
え? イーサネットですか?
いやまぁ、確かにイーサネットは必要なのだが。
ブロードキャストマルチアクセスネットワーク下で、任意のホストへデータを届けたい。使うプロトコルは?
任意のホストへデータを届ける? イーサネットで?
それって普通に送れば届きません?
ブロードキャストマルチアクセスネットワークだぞ。
任意のホストに届けるためには、そのホストを特定するものが必要だろう? それはなんだ?
イーサネットならMACアドレスです。
うむ。では、そのMACアドレスを知るには?
ARPですよね。
よしよし、ARPにより任意のホストへ届けることが可能になる。
つまり、ARPとは任意のホストへ届けるための「経路」を作るプロトコルであると考えられないか?
[FigureRT23-06:ARPの役割]
宛先への経路ができる…。
そういう風に考えればルーティングプロトコルっぽいかもなぁ。
うむ。これがES-ISの役割だ。つまりES-ISはTCP/IPでいうとARPに相当するプロトコルだ、ということだな。
実際にはルーティングプロトコルとはやはり違うがな。
ですよね。
ちょっとレイヤ3についてをまとめてみよう。
種類 | プロトコル | サービス | ルーティング |
---|---|---|---|
コネクション型 | CONP | CMNS | X.25PLP |
コネクションレス型 | CLNP | CLNS | IS-IS (ルータ間) |
ES-IS (ホスト-ルータ間) |
[TableRT23-02:OSIプロトコルのサービスとルーティング]
こうなる。
今後説明していくのは、コネクションレス型の説明だ。
やはりIPと同じ役割だからですか?
うむ。Integrated IS-ISの説明だからな。
そうだ、博士。
まだIntegrated、何が「統合」なのか説明してもらってないです。
それはまた次回にしておこう。
うぅぅ。はぐらかされた。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- ISDN
-
[Integrated Services Digital Network]
統合サービス・ディジタル網。
- OSI
- [Open System Interconnection]
- ES
- [End System]
- IS
-
[Intermediate System]
Intermediateは「中間」の意味。
- CMNS
-
[Connection-Mode Network Service]
コネクション型ネットワークサービス。
- CLNS
-
[ConnectionLess Network Service]
コネクションレス型ネットワークサービス。
- TP4
-
[Transport Protocol class4]
OSIプロトコルのレイヤ4プロトコル。コネクション型。
- CONP
- [Connection-Oriented Network Protocol]
- CLNP
- [ConnectionLess Network Protocol]
- X.25 PLP
-
[X.25 Packet Layer Protocol]
X.25は公衆データ網におけるDTE(端末)とDCE(網終端)間のインターフェイスに関する ITU-T 標準。
レイヤ1〜3について規定している。X.25PLPはレイヤ3。
X.25は現在ではあまり使われていない。
- IS-IS
- [Intermediate System to Intermediate System]
- ES-IS
- [End System to Intermediate System]
- X.25の機能
- つまり、CONP/CMNSとはX.25が持つ機能やサービスをそのままレイヤ4以上に提供するためのプロトコル/サービスです。
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- ISOが作成したOSIにはモデルとプロトコルがある。
- OSIプロトコルは異ベンダ間を接続するための標準プロトコル。
- OSIプロトコルでは「ES」はホスト、「IS」はルータをしめす。
- IPと同様のコネクションレス型のサービスを提供するのがCLNS、プロトコルがCLNPである。
- CLNP/CLNSではルータ間を接続するIS-IS、ホスト-ルータ間を接続するES-ISの2つのルーティングプロトコルを使用する。