■ EIGRPの特徴
まだまだルーティングプロトコルの話は続く。
今回からはEIGRPだ。
えんはんすど あいじーあーるぴー、ですよね。
そうだ。Enhancedは「高める」「増やす」の意味がある。つまり高機能版IGRPと思ってもらえばいい。
へへぇ、高機能版なんですか。どんな風に高機能なんですか?
まぁ、それを今から説明していくわけだ。いくつか特徴を説明しよう。
まずIGRPがそうであったようにEIGRPもCisco独自のルーティングプロトコルである、という点だ。
独自仕様のルーティングプロトコルなんですよね。
Ciscoルータ以外では使えないというなんとも思い切ったプロトコルという。
CCNPではシスコ認定資格というぐらいだから、独自仕様だろうがなんだろうが設問の対象になる。
ともかく、次の特徴は、もとからマルチプロトコルルーティングプロトコルとして作られている、という点だ。
まるちぷろとこるるーてぃんぐぷろとこる?
ルーティング対象プロトコルが複数あるって奴ですよね。それって特別なんです?
うむ。OSPFはIPしか対象にしていないし、RIPはIP用のIP-RIPとIPX用のIPX-RIPがある。
だが、EIGRPはIP、IPX、AppleTalkを対象として作られている。
ははぁ。
でももうIPXもAppleTalkもいいじゃないですか。そろそろレガシープロトコルと呼ばれる頃合ですよ。
まあそう言うな。まだ使ってるところだってきっとある。
そして、ディスタンスベクタを基本とした拡張ディスタンスベクタ型ルーティングを行うという点だ。
また、えんはんすど、ですか。
うむ。
そうだな、ディスタンスベクタを基本にリンクステートの良い所を加えたプロトコルとでも考えてくれるといい。
そういえば、別名ハイブリッドルーティングだって3分間ネットワーキング第32回で言ってましたっけ。
■ 拡張ディスタンスベクタ
で、博士。どんなプロトコルなんですか?
そうだな。EIGRPの話をする前に、もう1度ディスタンスベクタとリンクステートの話をまとめておいた方がいいだろう。
ネット君。ディスタンスベクタの利点と欠点は?
ディスタンスベクタの利点と欠点?
え〜っと。簡単で明快。だけどコンバージェンスに時間がかかるってところですか。
うむ、ちょっとまとめすぎだが間違ってはいない。
一方のリンクステートの場合はどうだね、ネット君?
コンバージェンスが早いし、帯域もあまり使わないけど。
高性能ルータでなければやってられない。
ふむ、なかなか面白くまとめるな。ネット君にこんな才能があったとは。
えへへ。
ま、あまり役に立ちそうにない技能だがな。
ともかく、欠点と利点をまとめて表にしてみよう。
ディスタンスベクタ | リンクステート | |
---|---|---|
コンバージェンス | 遅い | 早い |
ルータの必要スペック | 低い | 高い |
アップデートの頻度 | 定期的 | イベントトリガ |
アップデートの帯域幅 | 大きい | 小さい |
[TableRT11-01:ルーティング方式の違い]
主要な欠点と利点を並べるとこうなるな。
ん〜っと。つまりディスタンスベクタとリンクステートのいい所をとると。
コンバージェンスが早く、必要スペックが低く、アップデートはイベントトリガ、帯域をあまり使わない?
そうだ、それが拡張ディスタンスベクタ、EIGRPの特徴だ。
なんか、いい所ばっかりですね。
伊達にハイブリッドと呼ばれていないわけだよ。
簡単に言うと、アップデートはリンクステート、計算はディスタンスベクタだ。
アップデートがリンクステートってことは。
変更部分のみをイベントトリガして、フラッディングするってことですか?
■ EIGRPのアップデート
変更時に変更部分のみをアップデートで送るが、フラッディングはしない。
隣接ルータのみに送る。
隣接ルータのみに送るっていうことは、隣接ルータがさらに隣接に送って…、ってことですか?
それってディスタンスベクタの方式ですよね。
そうだ。だから拡張ディスタンスベクタだ。
でもそれじゃあ、コンバージェンスが遅くなりませんか?
確かに一気にフラッディングするOSPFに比べれば遅くもなるが。
ディスタンスベクタが遅い理由は、定期アップデートとホールドダウンタイムにある。
定期アップデートと、ホールドダウンタイム?
ホールドダウンタイムといえば、ルーティングループを防ぐために必要でしたよね。
うむ。
だが、EIGRPのパス計算のアルゴリズムはDUALというアルゴリズムでループが発生しない。
へへぇ。
なので、イベントトリガ時にディスタンスベクタのようにゆっくり運ばずに、あっという間に次から次へとわたることになる。
さらに、バックアップルートを保持している。
バックアップルート?
メインが駄目だった場合の、予備のルートですか?
そうだ。
トポロジによっては予備のルートを作れないが、ある場合はバックアップが即座に反映される。
即座に、って。
じゃあすぐコンバージェンスになるってことですか?
うむ。
これは先のサクセサの所で話そう。
さくせさ?
なんだろう?
まぁ待て、それは先で話すと言っているだろう。
ともかく、要約すると、変更分のみをイベントトリガアップデートするディスタンスベクタってところだな。
なるほど。
■ EIGRPのメトリック
EIGRPで使われるメトリックについても話しておこう。
帯域幅、遅延、信頼性、負荷、MTUの5つだ。
聞き覚えある…、というかもしかしてIGRPと同じですか?
よしよし、よく覚えていた。
ただしIGRPのメトリックはEIGRPの1/256とみなされる。
なるほど。
メトリックはK値という値を使って計算される。
これはデフォルトでは帯域幅と遅延のみを使ってメトリックを計算するようになっている。
あれ? じゃあ他の3つは?
他の3つをつかってもよい。ただし変更する際は同じネットワーク内では同じK値を使うこと。
違うK値を使うとどうなるんですか?
K値が異なるということは、物差しが違うということだ。
10mmを1cmとする物差しと、50mmを1cmとする物差しの2つで同じものを比較するのは無意味だ。
50mmのものが、5cmと1cmになっちゃいますものね。
そりゃ無理な話ですね。
うむ。
なので、K値が異なるルータとはネイバーになれない。
ははぁ。
って、またネイバーって言葉がでてくるんですか? OSPFみたいですね。
拡張ディスタンスベクタは、リンクステートの良い所を加えたディスタンスベクタといっただろう?
隣接関係を使ったルーティングプロトコルなのだよ。
ははぁ。
ということは、またこんにちはパケットですね。
こんにちはパケットだ。
まぁ、それは先で話そう。
■ ルート自動再配送
EIGRPの特徴をもう1つ話しておこう。
EIGRPは特定のルーティングプロトコルとの自動再配送が可能になっている。
自動再配送?
再配送って、違うルーティングプロトコルの情報を、そのルーティングプロトコルで流すってことですよね。
うむ。
通常は手動設定が必要なのだが、以下の場合のみEIGRPは設定しなくても再配送する。
- IGRP
- IPX-RIP
- AppleTalk RTMP
ただし、IGRPは同じAS番号でなければならない。
ふむふむ。
エンハンスドIGRPっていうだけあって、IGRPとは仲がいいんですね。
まぁ、そういうことだ。
さて今回はこれぐらいにしておこう。
了解です。
30分間ネットワーキングでした〜♪
- EIGRP
- [Enhanced Interior Gateway Routing Protocol]
- IPXーRIP
-
Novell-RIPとも言う。
IP-RIPはメトリックにホップしかつかわないが、IPX-RIPはホップとティックス(時間遅延)を使います。
- 拡張ディスタンスベクタ型ルーティング
- [Enhanced Distance-Vector Routing]
- ハイブリッドルーティング
-
[Hybrid Routing Protocol]
Hybridは混合、複合の意。
- DUAL
-
[Diffusing Update Algorithm]
拡散アップデートアルゴリズム。
- サクセサ
-
[Successor]
EIGRPでのパスを示す言葉。詳しくは後の回で。
- 1/256
- EIGRPはIGRPと同じ値からメトリックを出しますが、IGRPの256倍の精度で計算するのでIGRPのメトリック×256でEIGRPのメトリックと同等になります。
- RTMP
-
[Routing Table Maintenance Protocol]
RIPに似たディスタンスベクタ型のAppleTalk用ルーティングプロトコル。
RIP同様ホップカウントを使う。
- ハイパーネット君の今日のポイント
-
- EIGRPはシスコ独自の高機能なルーティングプロトコル。
- IP,IPX、AppleTalkを使えるマルチプロトコルルーティングである。
- 拡張ディスタンスベクタ型というルーティングプロトコルである。
- 基本はディスタンスベクタ。
- アップデートはリンクステートに近い形で行い、早いコンバージェンスが可能。
- 帯域幅、遅延、信頼性、負荷、MTUをメトリックとして使う。
- IGRP、IPX-RIP、AppleTalk-RTMPは自動再配送する