|  | 序論
 「前ロール」とは、手書きの要約筆記の情報保障時に、事前に用意された話者の原稿内容を
 OHP専用のロールシート等に書いておく物をいいます。これを、話者の話に合わせ表示してゆく
 ことを、「前ロールを流す」といいます。
 また、この前ロールは、全文を伝えたい、事前の原稿をそのまま読む、氏名を正しい漢字表記
 で表示したいなど、より正しい情報を伝えたい場合などに使用します。
 
 
 ◆基本的な「前ロール」加工
 パソコン要約筆記で使う「前ロール」は事前の原稿等をテキストデータ化し、句読点や、文節で
 区切り、話し手の言葉のタイミングに合わせて、排出(表示)していくものです。
 
 例
 【本文】
 今日は、大変気温も高く、各地で桜が満開となり、見頃となっています。
 【前ロール】
 今日は
 大変気温も高く
 各地で、
 桜が満開となり、
 見頃となっています。
 
 この様に、長い文章を区切ったデータを準備し、話し手の言葉に合わせて排出し、文章を組み
 立てて表示します。
 
 ◆加工の注意点
 しかし、この区切り方にも、工夫が必要に成ります。
 理由として次の様なことがあるからです。
 1.加工した区切り方と話者の区切り方が違う
 例
 【話者の音声】
 今日は 大変  気温も高く 各地で  桜が  満開となり 見頃となっています。
 【加工文字】
 今日は 大変気温も高く   各地で  桜が満開となり   見頃となっています。
 // まだ言っていない言葉を出してしまったり、言い終わるまで文字を出せない //
 
 2.原稿と違う事を追加や削除してしまう
 例
 【話者の音声】
 今日は、   気温も高く 全国各地で  桜が満開となり 見頃となっています。
 【加工文字】
 今日は 大変気温も高く    各地で  桜が満開となり 見頃となっています。
 // 追加した言葉を省いてしまったたり、言っていない言葉を出してしまう //
 
 
 
        
          
            | 3.文字がずっと流れていて、読みにくい |  |  
            |  | 文字を読んでいるのに、次々に文字が加わり 読むのに疲れる。また、スクリーンに釘付けになり、
 話者や資料を見ることができない。
 目で文字を追うだけで、必要部分だけを読む、
 「流し読み」が行い難くなる。
 |  |  4.大会場の式典などの挨拶文では、ゆっくり正確に話す。
 大会場では、エコーが発生し、聞き取り難くなるため、短い文節に区切って、ゆっくり
 話します。
 例
 本日は ここ 福祉会館に おいて お忙しい中 多数の ご臨席者を 賜り…
 
 
 5.代読、解説文は感情や抑揚を入れないため、早口になります。
 例
 平成○年○月○日 埼玉県議会議長 ○○○ 本日はおめでとうございます
 
 この様な場合の事例については、 次の表のデータから 予測できると思います。
 
 
 ◆標準的な加工
 以上の事から、加工については、次のような考え方を元に加工をしています。
 1.細かく、加工する場合
 ・大会場の式典などの挨拶文
 ・本番に違う言葉や、追加をする恐れがある場合
 ・ゆっくりとした話し方をする場合
 ・前文を長く残しておきたい場合
 
 2.長目に加工する場合
 ・参考資料等、棒読みの原稿
 ・代読文章など、100%忠実に読む原稿
 ・組織、団体名、スローガンなどの固有(固定)単語
 ・字幕など、一括標記し、前文が残らない場合。
 
 ◆特殊な加工
 次のような場合は、特殊な加工をします。
 1.表示行数が極端に少ない場合
 画像合成などで利用する場合は、2,3行と表示できる行数・文字数が少なくなって
 しまいます。このため、「泣き別れ」が生じてしまうと、読む時間もかかり、さらに残像
 の文字数(情報量)も少なく成ってしまいます。
 
 
      事前に表示文字数を加味し、泣き別れがないように、漢字をひらがなに、ひらがなを
        
          
            | 例 | 表示文章 | 前ロール |  
            | 通常加工 | 今日は、大変お忙しい中、お集まりいただき、 まことにありがとうございます。お礼申し上げま
 す。
 | 今日は、 大変お忙しい中、
 お集まりいただき、
 まことに
 ありがとうございます。
 お礼申し上げます。
 |  
            | 特殊加工 | 今日は、大変お忙しい中、お集まりいただき、 真にありがとうございます。お礼申上げます。
 
 | 今日は、 大変お忙しい中、
 お集まりいただき、
 真に
 ありがとうございます。
 お礼申上げます。
 
 |  漢字にするなどして、「泣き別れ」がないように加工します。
 
 
 ◆排出タイミング
 前ロールの排出タイミングについては、いろいろと議論されるところですが、大きく3つに
 分類されると思います。
 
 1.音声と同時に排出する
 皆さん、おはようございます。
 ▲排出タイミング
 話者の第一声と同時に表示されますので、同時性があがり、聴覚障害者にとっては、一括
 して、情報を取り入れることができます。しかし、健聴者にとっては、話の内容が先に解って
 しまい、つまらないという意見が出てきます。また、話の内容が異なると、加筆、修正が
 出来無かったり、間違って、話す前に排出してしまうというミスが生じ易いです。
 映画字幕では、シーンに合わせる為、台詞の第一声と同時に表示します。出来るだけ表示
 している時間を長くする目的もあります。健聴者としては、台詞と同時でないと、気持ちが
 悪くなるという方も多いようです。
 
 
 2.話しの途中で排出する
 皆さん、おはようございます。
 ▲排出タイミング
 ある程度話しが始まり、文章の後半も大丈夫であろうと言う場合は、話しの途中で排出
 します。話し言葉より、読む時間の方がはやい為、途中から始まっても、最後まで読む
 事が出来ますし、「早合点」して先に出してしまうミスが防げます。
 おおよその現場ではこの方法を用いています。
 
 
 3.話し終わってから排出する
 皆さん、おはようございます。
 ▲排出タイミング
 「事前原稿を読んでいる」と思われたくない話者や、リアルタイム入力との排出タイミング
 を合わせるため、に有効です。また、内容を確認して排出できるので、突然の内容変更
 にも対応出来ます。
 反面、文字の排出まで時間がかかるので、同時性が損なわれてしまうという欠点が
 あります。さらに、健聴者にとっては「音声は出ているのにまだ文字が出ない」といらだち
 を感じる方も出てきます。
 
 
 排出タイミングは、聴覚障害者と健聴者、つまり、話者の話を聞こえる方と聴こえない方で
 とらえ方が大きく違っています。
 聴覚障害者にとっては、淡々とした講演会では、タイミングはそれほど気になりません。
 しかし、落語、漫才など、観客との笑い等の同時性を求めると、そのタイミングは重要に
 成ってきます。様々な現場と対象者の様子をみて、判断しましょう。
 
 
 
 |