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異界の窓
ある、昼下がり。
コンビニで買った、昼食のデザートの杏仁豆腐を食べているとき、不意に、口の中に痛みが走った。
「いったぁ〜」
またか、と思いながら、手鏡をふたつ使って覗いてみる。すると、頬の内側に、小さな穴が空いて、少し血が出ているのが見えた。どうやら、できものをスプーンで傷つけてしまったらしい。
いつも、睡眠不足が続いたりすると、口の中にできものができる。いつの間にか治っていたりするものの、できている間は歯磨きが大変だ。
まあ、そのほかには、生活に支障はない。どうせこれもすぐに直るだろう。そう思って、私は放っておくことにした。
しかし、今回のできものはなかなか直らない。できてから一ヶ月ほど経ってから、、歯磨きのあと、また手鏡をふたつ使って覗いてみる。
赤くはれたような、小さなくぼみ。
その中央に、ふと、何かありえない色が見えた気がした。
もう一度、よく見てみる。三角の、黄色い水玉……どうやら、凄く小さな帽子らしい。白い丸い顔が、その下に見える。
一瞬、目が合った気がした。そう思った途端に、ひょい、と穴の縁に消えてなくなる。
これは、どういうことなんだろう?
興味をひかれて、私は、大学の教授に訊いてみることにした。
「それは、あれだよ、妖精とか言われるものさ」
大塚博士は、何のためらいもなく言った。
「妖精と言っても、いろいろな種類がある。その妖精は、甘いものが好きな子ども妖精だね」
ああ、私が甘党だからやって来たのか。
でも、それなら何で、今になって見えたんだろう?
「今までも、何度もできものができてたのに……どうして今回だけ、見えたんでしょう?」
「今までと、何か違ったことはなかったかい?」
私のことばに、博士は腕を組み、そう尋ねる。
今までと、変わったこと……私は、しばらく考え込んで、思いついた。そういえば、大きめの鏡を二ヶ月ほど前に割って以来、手鏡ふたつを合わせて口の奥を見ていたんだ。
そう説明すると、博士は納得の表情でうなずいた。
「それでは、合わせ鏡で異世界が見えたんだろうね。まあ、何か害があるわけじゃないから、気にすることでもないよ」
大学から戻るついでに、私はコンビニでプリンを買った。
今度の日曜日には、少し遠出して大き目の鏡を買おう。できものがある間は、今までどおりデザートを食べてあげよう。妖精さんのためだもの、仕方がないよね。
ああ、最近、太ったかなあ。
※モノカキさんに30のお題「ドクター」回答