▼DOWN
子猫
今日は休日だった。別にすることも無いので、街に出て商店街や駅の辺りをブラブラしていた。本屋で立ち読みしたり、昼はコンビニでパンとジュースを買って公園で食べたり。天気がよく、噴水の水と木々の緑がさわやかな雰囲気を作っていた。
でも、そのままさわやかな気分で帰ることはできなかった。
帰り道、車が猛スピードで行き交う車道の隅に、ふさふさしたものが転がっていた。子猫の死体だった。元は白い毛並みだったのだろうが、汚れて灰色に染まっている。
猫の死体を見るのは、初めてじゃない。飼っていた猫が死んだこともあった。あの、意思の無い身体独特の重量感が嫌いだ。転がそうとすると、まるで石のようにごろんと転がるだろう。眠っていたって、生きているときは運動の方向に転がろうとするから、反動もない。死ねば、猫だけじゃない、人間だって『モノ』に過ぎないのか……。
子猫のそばを、意に介さず、車が駆け抜けていく。
誰も、猫のことなんて気にかけていない。
あの猫を抱きしめたい。抱き上げて、どこか静かなところに埋めて、墓を作りたい。でも、わたしにはそうする勇気が、行動力がない。
もし、そうすることができる人がいれば、その人は強い人だろう。
わたしは、歩道から横目で子猫の死体を見ながら、通り過ぎようとする。
もう考えなければ楽だろうと知っている。しかし、考えてしまう。そうしてしまう性質なのだ。
強い人になりたくない?
他人の目が気になるのか。いや、そんなことを気にする性格じゃないはずだ。それに、ここは他人の目が多いというわけでもないのに。
奇人変人と思われるのはむしろ本望のはずだろ。
ここで無視して、そうやって自分に失望しながら生きていくつもりか?
わたしは、立ち止まって引き返した。老人がこちらに向かってくるのが見えたが、気にしなかった。
その後、わたしが味わったのは、一種の満足感。
服は汚れたし、道行く人には変な目で見られたし、物理的・社会的には損をしただけかもしれないけど。
それでいいじゃないか。