#DOWN
人喰いのいる村(2)
次に、セティアは他の家々を見回してみる。ほかのどの村民の家も、村長の屋敷も、同じ造りになっていた。
(なるほど。おかしいね)
納得の声を聞きながら、セティアは門に向かっていた。門には、この村に入ったときに案内をしてくれた門番の男が立っている。彼は、魔女に気づくとびくりと肩を震わせた。
「あの……どちらへお出かけで? もうすぐ暗くなりますし、危ないですよ」
「夕食まで、ちょっと散歩に。すぐに戻ってきますよ」
荷物は、村長の屋敷に置いてある。それを置いたままどこかへいなくなったりしないだろう、と思ったのか、門番はそれ以上引きとめようとせず、門を開けた。
「さて……どこにいるのかな」
(村の中じゃないの?)
「それが、気配を感じないんだよ。やはり、下かな。外から気配を探ってみるか」
セティアは日が沈むまでの間、城壁の外を巡っていた。
夕食には、初めて屋敷に来た時と同じメンバーが顔をそろえていた。おそらくこの村で最も大きなテーブルの上には、採れたての農作物を使ったものを中心とする、それなりに豪勢な食事が並んでいた。
「では、いただきましょう」
村長のことばを合図に、夕食の時間を始める。村の女性陣を中心に調理したらしい料理は、素朴だが、それだけに洗練されている。旅人たちは、しばらくの間無言で食事を続けた。
「それで、村長さん」
スープでのどを潤してからそう切り出したのは、青年だった。シゼルの話では、リヴという名前のはずの、若い旅人である。
「我々に、頼みとはなんですか? 一晩の宿とこのおいしい食事の恩がありますし、少なくとも、わたしは大抵の依頼は引き受けますよ」
彼は穏やかに言い、厳しい表情をしている村長に目を向ける。
村長はひとつうなずくと、意を決したように口を開いた。
「実は……この村に、毎晩〈人喰い〉が来るんです」
「〈人喰い〉……?」
セティアの問いに、村長は大きくうなずいた。
「ええ。まだ死者は出ていませんが、意識を失うほどの重傷を負った者が二名、それに、家畜の被害も大きいです。城壁を造り、何とか持ちこたえてきましたが、相手は魔性の力を持つ者。侵入されるのも時間の問題でしょう。そこで、お二人に警備をお願いしたいのです」
「……警備だけでいいんですか」
退治して欲しい、と来るかと予定していたセティアは、少し意外そうな声を出す。
「かまいません。お礼はしますが、大した額ではありませんし……相手が村に入ってきたら、追い返していただければよいのです」
(ふうん……ただの見張りか)
セティアと旅人が交互に見回り、異常があれば屋敷に伝え、もう一方も起こす。今夜を乗り切れば、事前に近くの街で雇った傭兵たちが来てくれるのだという。
この村に泊まる以上、どうせ〈人喰い〉の襲撃があれば戦うことになるのだ。
「わかりました。引き受けましょう」
「同じく」
旅人たちは、依頼を快く引き受けた。セティアのほうは、青年のような笑顔で、とはいかなかったが。
夕食を終えると、早速、青年が作戦会議を持ちかけてくる。
「最初、どうします? どちらが見回りに出ますか?」
金髪碧眼の若者は、屈託のない笑みを浮かべて、廊下でそう問いかける。
「わたしは先に見回りのほうがいいですね。……ところで、あなたは」
最初から予定を決めていたように答え、セティアは、暗く見上げるような目で相手を見据えた。
「リヴ・ゼイアという名前ですか?」
相手は、一瞬キョトンとした後、驚きの表情を浮かべた。そして、それがすぐに、苦笑に変わる。
「ええ。お忍びで来ていますから、このことは内緒にしてくださいね、セティアさん」
彼のことばに、セティアは一瞬だけ眉をひそめてから、屋敷を出た。
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