タットワ


 タットワは、インドのヨーガにおけるヤントラを西洋魔術に移植したものである。
 この5つのシンボルはインド哲学でも重要なものであり、やがて仏教にも取り込まれた。これは真言密教の瞑想でも重要なものともなり、いわゆる五輪塔として墓石等にもされ、われわれ日本人は身近にも見ることが出来る。

 このヤントラの西洋魔術への移植は、かなり強引だったと思わざるを得ない。
 実際そうした考えからか、海外の魔術師たちには、瞑想のシンボルにはタットワよりも、むしろ(「樹」と分りやすく照応した)タロットを中心にワークをすべきと考える人も多いらしい。
 にもかかわらず、これはGDの魔術師たちによって実践されたし、現在もなお、多くのGD系の魔術師たちによって愛用されているのも事実である。
 理由は簡単である。これらタットワの図形は、赤地に三角、空色の円形、銀の三日月と非常にシンプルで、視覚化が非常に容易であるからだ。

 この体系をGDに持ち込んだのはブロディ・イネスらしい。彼は神智学協会の熱心な活動家で、神智学協会のスコットランド支部の設立にも関わっている。
 GD文書の「東洋の学派のタットワ」は、実は神智学関係文書の「自然の精妙な諸力、あるいは呼吸の科学」を要約・翻訳したものであり、これを行ったのは、メイザースではなく、イネスらしい。
 また、イネスは1895年に神智学協会において、タットワに関する講義をおこなっており、その講義録は、「The Sorcerer and His Apprentice」(Gilbert編  Aquarian社)で見ることができる。

 タットワのシンボルは、5つから成る。
 アカシャ(エーテル)は黒あるいは藍色の卵型、ヴァユ(風)は空色の円、テジャス(火)は赤い正三角形、アパス(水)は銀色の三日月、プリティヴィ(土)は黄色の正方形である。
 魔術師はこれらの図形を紙に描き、数秒間凝視する。即座に白い紙のようなスクリーンを見れば、残像として同じ形の補色の像が見えるはずである。
 魔術師はこの像を視覚化する。それがゆっくりと巨大化し、自分の等身大以上の大きさにまで引き伸ばす。そして、それを「ドア」と見なして、自分がそれを通過する様をイメージするのである。
 そうすると、その「ドア」の向こう側に一種のヴィジョンを見ることができる。あるいは、異世界を幻視することが出来る。
 最初のうちは静止した画像しか見えないものが、いくつかの儀式や名前の振動を行うことによって、パスワーキング同様の異世界の幻視も可能となる。
 さらに慣れてくると、魔術師はこうしたシンボルを重ねた複雑な実験をも行うようになる。
 例えば、「エーテルの火」として、藍色の卵型の中に赤い三角形を描いたシンボルを使う。「火の水」として、赤い三角形の中に空色の円を描くと言った具合だ。
 この技術の要点を一言でいうなら、シンボルを残像の補色で視覚化し、それを扉として通過することによって、一種のヴィジョンを見ることにある。
 
 GDはこうしたヴィジョンを「アストラル的ヴィジョン」と「エーテル的ヴィジョン」と2種に大別した。前者は、通常のヴィジョンであり、映画を見るのごとき平面的なものである。後者は自分自身を幻視世界の内に入り込ませる三次元的なものであり、これはアストラル体投射の結果として起こる幻視とされた。
 すなわち、GDの魔術師たちは、タットワをスクライングとアストラル体投射の両方に用いていた。
 魔術師は第一段階においては、タットワのシンボルを一種の水晶球ないし魔法鏡と同様に使って、スクライングを行い、映像を見る。ここにおいて魔術師は、シンボルを視覚化し思念映像とする。次にカード上に、場面ないし風景を呼び起こし、この映像を具体化、発展させ明瞭に見えるようにする。
 あるいは、パスワーキング同様、シンボルを巨大化させて、そこに自分を飛び込ませ、アストラル体投射を行った。
 こうしたタットワを用いた瞑想は、「飛翔する巻物」等にも実例が紹介さている。
 ただ、こうしたヴィジョンは自己欺瞞の巣窟ともなりがちであり、GDではスクライングのヴィジョンを軽々しく信用するなと警告していたし、アストラル体投射にしてみても、五ぼう星の小儀礼や位階やホルスの合図等のサインや護身術を駆使して、虚偽と真実を厳に区別するように厳しく警告している。
 にも関わらず、多くの魔術師達が、こうしたヴィジョンを信じ込み、自己欺瞞の罠にはまってしまったらしい。GDの内部抗争、崩壊の原因がここにあったと考える魔術史家もいる。

 なお、このタットワは究めることによって、病気の霊的治療や未来予測、占い等にも応用することが出来た。
 私は、タットワを用いたプロの占い師に、占ってもらったことがあったが、なかなか良く的中していた(笑)。

 
「黄金の夜明け魔術全書 上・下」 I・リガルディ編 江口之降訳 国書刊行会
「高等魔術実践マニュアル」 朝松健著 学研