変形性関節症について

名古屋市立大学医学部教授・松井宣夫先生の公開セミナーより
(リウマチ・関節炎情報センターより)


1.はじめに
2.変形性関節症のメカニズム
3.リスクファクター
4.慢性関節リウマチとの鑑別診断
5.治療法
6.おわりに


1.はじめに
人間は一生のうちに数え切れないほど関節を動かします。
関節が繰り返し動かされると、関節と関節の間にある軟骨は、次第にすり減って磨耗していきます。
また一方で磨耗していくのと同時に、部分的に再生(増殖)します。
磨耗、増殖と変形が同時に起こってきて関節がスムーズに動かなくなったり、痛くなったりします。これが「変形性関節症」です。
「変形性関節症」は壮年期以降に発症する慢性関節疾患の中では最も頻度の高い疾患であり、脊椎や四肢関節に多く見られます。
年をとれば、当然関節の摩耗は進みますので、65歳以上の人には、かなりの高頻度で発症する、
すなわち誰でも発症する可能性のある疾患が「変形性関節症(OA)」なのです。
加齢だけでなく、関節が繰り返し動かされるという点においては、職業やスポーツもその要因となります。
体重が重い場合には関節に負担がかかりやすく、肥満もその要因となります。
また「変形性関節症」は関節が痛くなるということで、慢性関節リウマチと間違えられやすく鑑別が難しい疾患です。
誤診を避け、早期に適切な治療を受けるためにも専門医に診せることが重要ですが、外科的、内科的な両面から診断し、
適切な診断を下し、治療していくための医療機関側の体制も、全国的に十分整っているとはいえないのが現状です。
誰でも患者になる可能性のある「変形性関節症」ですが、恐れるのではなく、そのメカニズムを理解し適切な治療法を行なうことが重要です。

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2.変形性関節症のメカニズム
<関節軟骨がすり減るのが原因>
関節が繰り返し動かされることにより関節と関節の間にある軟骨は、車のエンジンと同じように次第にすり減って摩耗します。
そして、増殖と変形が同時に起こります。「変形性関節症」の変形性という言葉はここから来ています。
すなわち、すり減った部分が修復の起点となって関節軟骨が増殖する、摩耗と増殖が混在する状態が変形性関節症と呼ばれるもので、
関節軟骨の病気であるといえます。
「変形性関節症」は「変形性関節炎」と呼ばれることもあります。これは、滑膜炎がともなうことに由来しているのですが、
一般的には、「変形性関節症」といわれています。

<20歳を過ぎると老化が始まる関節>
変形性関節症は前述のように軟骨の病気です。関節軟骨は骨に加わった負荷を吸収し、自由な動きを関節にもたらす機能を持っており、
正常な軟骨にはプロテオグリカン重合体がコラーゲンの網目構造に取り囲まれています。
関節軟骨はクッションの役割をしますので、水分が非常に重要です。
コラーゲン分子には約30%の水分が含まれており、プロテオグリカンには70%程度含まれているといわれていますが、
夜と昼で身長が違うといったことで分かるように、水分は荷重によって移動します。コラーゲンの分子は、伸ばすほうの圧力に強く、
プロテオグリカンは圧縮される圧力に強いのが特長です。
人間は20歳を過ぎると老化が始まり、それ以降加齢と共に、コラーゲン分子もプロテオグリカンも少なくなってきます。
また、その中の水分も減ってきます。すると円滑な関節運動が難しくなり、その結果、関節軟骨が摩耗しやすくなり、壊れやすくなります。
具体的には加齢が進行している関節軟骨内では、プロテオグリカンの数が減り、屈折・圧縮に対して弱くなり、また潤滑も悪くなり、
なめらかな動きが出来なくなります。コラーゲンも水分が減ってくるとバラバラになってきて、表面の軟骨細胞が死んで、数も減ってきます。
そして関節軟骨に亀裂が入ってぱさぱさと繊維化が進みます。
重度の症状では、軟骨がほとんど無くなり、骨が丸出しになって、象牙のような状態になります。
加えて、動物の細胞には必ず修復過程が起きます。
そのため非荷重部には、コラーゲンの再生などにより骨局が形成され変形が起こってきます。
この時、滑膜炎が起こってくることもしばしばですが、常に軟骨の変化が先導します。

<O脚が変形性関節症を引き起こす>
加齢現象は、関節軟骨だけでなく足の形にも現れます。
人間が生まれた時は通常、外反いわゆるX脚ですが、加齢と共にだんだんO脚になってきます。
このメカニズムは、はっきり分かっていませんが、日本人の膝は内反膝が多く、変形性変化を起こしやすいといわれています。
普通体重は、膝の内側と外側で、均等に受けるのですが、O脚になると膝が外側を向くので、体重が膝の内側にかかるようになります。
そのため、内側の軟骨がすり減り、少なくなり、これが進むと、象牙のようにかちかちになってしまいます。
レントゲンで見た場合、内側の関節の隙間が非常に狭くなっているのが分かります。(ローバーサイン)
この症状としては、関節を動かすとコツコツという軋轢音がし、痛いので膝が伸びなくなってきます。
また膝の可動域に制限が出てきます。また、腫れる、熱発、滑膜炎が起こり水がたまるといった症状も起こってきます。

<女性の発症頻度は、男性の10倍>
変型性関節症の発生部位の頻度としては、40/50歳代から、膝、肘、股関節といった部位に多く発症します。
続いて、背骨や肩といった体重負担のかかりやすい関節に部位に多く発症します。
OAは、関節軟骨がすり減るのが原因ですので、頻繁に動かす関節、荷重がかかる関節に。多発するといえます。
しかし、一方で非荷重関節の母指CM関節やDIP関節、PIP関節、肩鎖関節、烏口関節、肘関節にも多く発生します。
また、女性は、男性の10倍の頻度で発症すると言われていわれており、
閉経後のホルモン分泌異常などに関係があるとされていますが、原因ははっきりしていません。

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3.リスクファクター
リスクファクターについては、下記の6つが挙げられます。
 ● 肥満
 ● 加齢
 ● 遺伝的な素因
 ● 職業
 ● スポーツ
 ● 外傷→私ことナースのおばちゃんはこれ!

肥満
メカニカル・ストレスの増大が、軟骨の老化、変性に影響を与えるので、中でも肥満は大きな敵です。
普通の人でも高い所から飛び降りたりして急激な衝撃が加わると、膝関節などに、3倍から4倍の力がかかってきます。
これが肥満の人になると一層余分な力が関節に加わり、OAの大きな原因となります。
関節への負荷を軽くするのが一番の対策で、減量が最も効果的ですが、体重を一気に減らすのはなかなか難しく、
即時的に関節にかかる負担を軽減させるために、杖の使用などが重要になってきます。
しかし、杖を勧めても使いたがらない患者さんは多く、納得して、使ってもらうのは大変なのが実状です。

加齢
前述しましたが、加齢により、コラーゲン、プロテオグリカン、水分が変性してくるのは避けようがなく、
65歳以上の人に高頻度に発症するのは当然ともいえます。年には、勝てないといったところです。

遺伝的な素因
また、女性に多いのもOAの大きな特長で、これは、閉経後のホルモンの関係が関節軟骨の老化を増長させているといわれています。

職業
職業などによる、関節軟骨へのストレス増大も大きなリスクになります。
デスクワークの人に比べると、肉体労働者のほうにリスクが高く、航夫では、肩、股関節、膝に、しゃがむ姿勢の多い溶接工は膝に、
農業従事者は股関節に、発症しやすいという調査結果もあります。
生活様式に連動して負荷のかかりやすい、荷重関節に疾患が多いということがいえます。
スポーツ:スポーツにおいても同様のことがいえ、若くても関節に無理な負荷がかかる運動は、OAを発症しやすくします。
特に膝の屈伸運動が多いスポーツに、OAが多いようです。
一方、長距離ランナーでは、一般の人と発症頻度に差がなかったという結果もありますが、マラソン選手に太っている人は
あまりいないのでこれについてはなんともいません。

外傷
外傷もOAのリスクファクターになってきます。半月板損傷から、OAが発生するのが多いことは有名ですし、
靭帯の断裂により関節が非常に不安定になることで、発症する場合もあります。
関節軟骨は不安定性に非常に弱く、外傷も大きな敵といえます。


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4.慢性関節リウマチとの鑑別診断
間違えやすい変形性関節症と慢性関節リウマチの診断

<慢性関節リウマチは、免疫の病気>
変形性関節症(OA)と慢性関節リウマチ(RA)は、どちらも関節が痛くなるという点で共通しているため、
間違えられやすいと言われています。またOAの症状である、ヘバーデン結節(DIP腫脹)やブシャール結節(PIP関節)などは、
RAの症状であるボタンホール変型に非常に類似しており、診断時に間違えることがあります。

しかし、間違えやすいと言っても、変形性関節症と慢性関節リウマチにはその過程に大きな相違点があります。
RAは膠原病のひとつに分類される免疫性の疾患で、滑膜炎が先に起こりそれにより
関節軟骨あるいは骨が壊れていくという過程をとります。
前述したようにOAは、関節をくるんでいる関節軟骨の摩耗と増殖により引き起こされる関節軟骨の病気です。
OAは関節軟骨の摩耗と増殖変性があり、RAは関節がとけると表現することができます。
指だけを見せられた場合、RAとOAの判断は、簡単にはできません。
どのように鑑別するかと言うと、RAは、貧血などをともなう免疫性の全身病なので、リウマトイド因子など検査所見に異常がでます。
しかしOAは、臨床検査上はほとんど大きな変化がなく、こういった点が、リウマチとの鑑別診断において非常に参考になるといえます。
また、レントゲンを撮ることも大きな判断材料になります。
RAの場合は、関節が破壊されている変化がほとんどであり、OAは、骨局ができて増殖性の変化であるので、
レントゲンをみれば間違いなく判明するといえます。

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5.治療法
<保存的治療〜リスクファクターを軽減するのが基本>
「変形性関節症」の治療には、外科的と保存的があります。
まず保存的療法ですが、リスクファクターを軽減するための減量、運動療法、理学療法、薬物療法(抗炎症剤の投与)、
温熱(炎症が強いときは冷やす)などがあります。
膝のOAにおいては、大腿四等筋を鍛えることが非常に大切で、負荷をかけて伸ばす運動などが効果的です。
ゴムを使った抵抗運動など自分の家で十分にできる運動で腿の前面にある大腿四等筋を鍛えることにより、
膝に水がたまっていた人が良くなったりすることは多々あり、エクササイズはとても重要です。

また、関節の動きをなめらかにするためにヒアルロン酸を関節に注入するといった方法もとられます。

<NSAIDの副作用に注意>
薬物療法では、痛みをとるためにNSAID(非ステロイド性消炎鎮痛剤)投与が多く用いられます。
胃腸障害がなくて痛みがある場合は、比較的強いNSAIDを使用しますが、症状が良くなってきたら、
できるだけ経口投与はやめるようにします。
胃腸障害がある場合は、胃腸薬や外用剤の併用を行い、また坐薬の使用などもしますが、副作用が無くなるわけではありません。
どちらにしても、NSAIDを使用する際には、副作用に十分注意する必要があります。
OAの治療においては、まず痛みをとるということが大切ですが、COX・という酵素が痛みと重要な関係にあります。
ただし、COX・という酵素が胃や腎臓、血流に関して非常に大切な役割を果たしており、
NSAIDは、このCOX・とCOX・の両方に作用してしまうため、胃腸障害などの副作用につながるのです。
最近では、選択的にCOX・にだけ作用する薬も出てきており、こういったものを使うと胃腸障害もほとんど起こらないようです。
OA患者、特に老人では、痛みが不眠の原因になったり、鬱状態を引き起こすので、何とか痛みを軽減することが大切になり、
副作用がなるべく少ない薬を処方が必要となります。

<外科的治療は最終治療>
変形性関節症の患者さんが、薬物療法や理学療法などの保存的治療をいろいろ試した結果、
それでも日常生活が非常に困難な場合に、手術という外科的治療を行うことになります。
手術の方法には、いくつか種類がありますが、患者さんの年齢、職業、そして患者さんの意志などが考慮されます。
手術法は何種類かあります。
関節の不適合性や荷重面の拡大などを目的とする骨きり術。
内視鏡を使って、骨のギザギザを除去し平らにし、関節洗浄などを行う関節鏡下。
そして、高度に変形して痛みが強い場合に行われる、人口関節を埋め込むなどの関節形成術があります。
金属とプラスティック、セラミックとプラスティックなどを組み合わせた人口関節もかなりの成績もあげており、
術後は動きもよく、痛みが劇的にとれます。関節のゆるみが無く、
ポリエチレンの摩耗が大きく進まなければ、人工関節は、15年から20年は持つと言われています。

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6.おわりに
変形性関節症の治療では、原則として日常生活指導などリスクファクターを軽減することを目的にした保存的治療を行い、
最終的に外科的治療(手術)が行なわれます。
加齢などと共に、誰でも患者になる可能性のあるこの「変形性関節症」ですが、変薬物治療で痛みを軽減するのと並行して、
体重コントロールや、杖の使用、筋力強化など保存療法を行うことで、十分症状が改善し、良くなることも多く、
治療には希望を持って取り組むことが必要です。医師と患者さんとの二人三脚で治療を進めていくことが何よりも大切でが、
専門医による診断のもと早期に適切な治療を受けることのできる医療機関側の体制整備も重要になってきます。
これから、本格的な高齢化社会を迎えることになり、寝たきり老人を無くすことが非常に重要な課題のひとつとなります。
OAなどにより、膝や股関節が悪くなり歩くことが難しくなってくると、簡単に寝たきりの状態になってしまいます。
そのような状況にならないためにも、OAについて、よく理解し、適切な治療を行っていくことが大変重要で、
患者さんのQOLを高めることにつながっていくといえます。






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