(カチャリ)

(キィ〜〜……)

「「…………ただいまぁ……」」

 合い鍵を使い、衛と2人で邸に五つある裏口の内の一つを、恐る恐るくぐり

ながらそっと囁く。既にそれは、家人に帰宅を知らせるという本来の目的を果

たし得る物ではなかった。が、それも致し方ないと思う。だって、見つかる訳

にはいかないんだから。なにしろ僕達は――

「……お帰りなさいませ」

 ――僕達は……(汗)

「朝帰りとは良い度胸ですわね、兄君さま……(怒)」



☆ Sister Princess ☆
   2 years ago
<Short×2>

−breakfast special−



――都内某所・天河邸(裏口)――
    06:22 a.m.



 僕達の正面、式台の上に春歌が居た。ただし、いつものように三つ指付いて

ではなく――仁王立ちで(汗)。そう表現する外ない位の怒気をその身に纏って

いる……左手には彼女の愛刀“黒百合”。

(ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド・ド……)

 ……や、殺る気なの?(汗)

「兄君さまっ!! 衛さんっ!!」

「「ハ、ハイッ!!(汗)」」

 春歌の鋭い一喝に、思わず飛び上がってひしっと抱き合う僕と衛。それを見

て、春歌のこめかみの青筋が一つ増える。

「……確かに昨日は、衛さんの御誕生日でしたから兄君さまと2人っきりで外

出することを、ひっじょーーに不本意ながらも認めはしました。ですが……」

 ごくり、と喉を鳴らしたのは僕かそれとも衛だったのか。

「外泊まで許可した覚えはありませんっっ!!!!!」

「「ひぃっ!!」」

 再び飛び上がり、互いを抱き締める腕により一層の力を込める。それが春歌

の怒りを、更に煽る結果になるということにも気付かずに。

「そもそも、中学生と小学生が外泊とは常識外れにも程がありますっ!! 一

体何処で何をされていたんですかっ!!」

「う゛……(汗)」

 叱責紙一重の問い掛けに対し、返答に窮してしまう。まさか正直に本当のこ

とを話す訳にもいかない。僕もまだ命は惜しいし(汗)。

「それと、いつまで――」

「!?」

 更に何事か言い募ろうとしていたようだったけど、僕はそれに耳を傾けるこ

とは出来なかった。

(ひゅっ!)

 突如、背後で膨らんだ冷氣と風切り音に考えるより早く体が動く! とっさ

に衛の体を押しやり、弾けるように左右に分かれる。

(だんっ!)

 僕らの間を、そして春歌の横を通過して壁に突き立ったのは、1本の短剣だ

った。

「……いつまで……くっついているつもりだい……?(怒)」

「ち、千影……さん……(汗)」

 いつの間に背後に……? って言うか、今マジで狙いませんでしたか? 避

けなかったらホントに刺さってますけど……(汗)

「い、いつから其処に……?」

 僕の問い掛けに、中空を見つめて少し考える素振りを見せる。

「……『お帰りなさいませ』辺りから……かな……」

「最初っからーーっ!?(がびーーん!!)」

 そ、その割にナイフ投げる直前まで、全く気配を感じなかったんですが……(汗)

「それで……連絡も入れずに……何処で何をしていたんだい……?」

「そ、それは……(汗)」

 い、言えない……御休憩と御宿泊が出来る所で、御宿泊して来ましたなんて

口が裂けても……(汗)

「御休憩と御宿泊が出来る所で――」

「だあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!(汗)」

 血の雨降らせる気か衛ぅっ!!!(泣) 慌てて後ろから両手を回し、嬉々と

して話し出そうとしたその口を塞ぐ。

(ひゅっ!)

「ひぃっ!!」

 再び風切り音。突き飛ばすように衛の体を押しやって分かれる。

(だんっ!)

「……だから……くっつかない……(怒)」

 い、一体何処から短剣を……?(汗) って言うか、マジに狙わないで(泣)。

「……で、御休憩と御宿泊が出来る所とは?」

 背後の春歌から、先程迄とは一転して静かな問い掛け。ただし、肌に感じる

その怒気は倍する物になっている。背中を冷たい汗が伝う……

 ギギギギとでも音が出そうな感じで、ぎこちなく振り返ると――

「…………」

 ――般若。

「れ、連絡入れなかったことに就いては謝るよ。心配掛けちゃってごめんなさ

い」

 腰が抜けそうになるのを必死に堪えて、ペコリと頭を下げる。若干、早口に

なってしまったが致し方ない。むしろこれほどの怒気を前に、この程度で済ん

だことを褒めるべきだと思う。

「……で、御休憩と御宿泊とは……?」

 膨れ上がる冷氣と共に、千影が春歌の問い掛けを繰り返す。その声音は更に

冷たさを増している。ともすれば、短剣など使わなくても斬り付けられそうな

位。この狭い空間で、怒気と冷氣の板挟み……に、逃げ場なし?(汗)

「え、えっと……2人で色々見て回ったり、食事したりしてたらいつの間にか

終電がなくなっちゃって、それで仕方なくビジネスホテルに……」

「ビジネス……」

「……ホテル?」

 疑わしげな視線を送ってくる春歌と千影。

「そ、そうそう! 帰りの電車賃とか考えると、所持金ギリギリで電話も出来

なかったんだけど……あ! も、もちろん部屋は別々で取ったからね!」

 後ろめたい気持ちはあったけど、矢っ張り命は惜しい。人間って浅ましい生

き物なんだね……僕が節操なしなだけか……(泣)

「…………」

 や、止めてくれ衛、その恨めしそうな視線は! こ、この状況で僕に一体何

を期待してるのさ!?(汗)

「嘘吐いても無駄デス!!」

「えっ!?」

 突然頭上から降ってきた声に驚いて、反射的に天井を仰ぐ。

「ぶっ!?」

 思わず噴いてしまった。

「兄チャマの浮気現場、四葉がバッチリチェキしたんデスっ!!(怒)」

 ……四葉が神出鬼没なのは、もう慣れっこだけど――何で、何の取っ掛かり

もない天井に“貼り付いて”居られるの!? ヤモリじゃないんだから……(汗)

「い、いつから其処に……?」

 僕の問い掛けに、数瞬視線を泳がせる。

「……『お帰りなさいませ』辺りからデス」

「最初っからーーっ!?(がびーーん!!)」

 ずっと、出るタイミングを計ってたの?(汗)

「だから……ちょっと疲れてきた……きゃっ!?」

「危ないっ!」

 唐突に落下して来ないでよ!(汗) 咄嗟に落下地点に滑り込んで、抱き留め

てあげた四葉の身体は、その体型に見合って凄く軽かった……まあそれが、天

井に貼り付くことが出来る理由にはならないと思うけど(汗)。

「ナイスキャッチデス、兄チャマ(はぁと)」

「あ、あのね……」

 お姫様抱っこの体勢のまま、嬉しそうに両腕を僕の首に回して来る。

(ひゅっ!)

「ひぃっ!!」

三度風切り音。四葉を放り上げて、自分は身を屈める。

(だんっ!)

その間を通って、壁に突き立つ短剣。だから狙わないでってば(泣)。

「……直ぐ離れる……(怒)」

 再び自由落下してくる四葉を受け止めると、直ぐに下ろして離れる。

「よ、四葉を殺す気ですか!? 千影姉チャマっ!!」

「うん」

 ……即答(汗)。

「…………(汗)」

 両腕を振り上げたまま、固まる四葉。後頭部にはたりっと一筋の汗。

「と、兎に角四葉は、兄チャマの浮気現場をチェキしたんデスっ!!」

 どうやら、今の千影には逆らわない方が賢明と判断したのか、ぐるりと反転

すると“びっ☆”っと人差し指を僕に突き付けて来る。それにしても相変わら

ず立ち直りが早いね……

「それで、どの様な証拠を掴んだんです?」

「よくぞ聞いてくれましたっ!」

 今度は、春歌の方にぐるりと反転すると1枚の写真を取り出す……って、今

何処から取り出したの!? どう見ても、手ぶらなんですけど……(汗)

「こ、これは……!?」

 一瞥するなり、驚愕の表情を見せる春歌。空いた右手で、もぎ取るように写

真を引っ手繰ると、今度は穴が空きそうな位じっと凝視する。すると程なくし

て両肩が、全身がブルブルと震えだした。もちろん、寒さ等ではなく――怒り

で(汗)。

「……兄君さま」

 写真に落としていた視線を、ゆっくりと上げる。その表情は――

「説明して頂きましょうか」

 ――般若(汗)。

「あ、あれは!?」

 僕に代わって、驚きの声を上げる衛。春歌がこちらに突き付けているその写

真には、今正に中へ入らんとラブホテルの入り口で僕の手を引く衛の姿が鮮明

に写っていた。

「どうです兄チャマ! もう、言い逃れは出来ませんよ!!」

「ぐ……(汗)」

「……あにぃ、もう観念しよう。ここまではっきりとした証拠を出されちゃ、

言い逃れは出来ないよ♪」

 ……何か凄く嬉しそうに見えるのは、僕の気のせいですか?

「ささ、ホテルに入ってから何があったのか!? ボクとあにぃがどれ程愛し

合ったのか!? この哀れな負け犬共に、微に入り細にわたって余すことなく

話して上げてよ♪」

「話すかぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!!!!(泣)」

 ま、拙いっ!! 何やら春歌の周りの空間が、揺らいで来たように見えるし、

千影が発する冷氣で足下もドライアイスを使った特殊効果のように煙って来て

いる。成る程、道理で足下が涼しい筈だよ、はっはっはっ……って、笑い事じ

ゃないっっ!!! 現実逃避している場合じゃないぞ! 何とかしないと、お

仕置き決定――と、言うかむしろ死刑確定(汗)……はっ!? ま、待てよ!

「ね、ねえ四葉」

「何デスか? はっ!? もしかして、やっと四葉だけを愛する決心が付いた

んデスか!?」

「「「付くかっっ!!!(怒)」」」

「な、何で姉チャマ達が突っ込むんデスかっ!!」

「い、いやそうじゃなくて……証拠って言うのは、その写真だけなの?」

「そ、そうデス」

 僕の唐突な質問に、一瞬鼻白む四葉。恐らく、自分でも気付いているんだろ

う。この写真が決定打たり得ないことを。

「……その写真だけじゃ、本当に僕と衛がそのホテルに入ったかどうか判らな

いと思うけど……」

「う゛(汗)」

「その写真で確認できるのは、ただラブホテルの前に居るってことだけだと思

うけどなぁ」

「ううぅ……」

 我ながら、見苦しいというか卑怯だと思うけど背に腹は替えられない。

 ……だから、その目は止めて衛(汗)。これは君の為でもあるのだよ。怒りに

我を失った彼女達が、君に危害を加える可能性は非常に高い。それを回避する

為、僕は断腸の思いで敢えてあの真実を否定する物でありますっ!!……いや、

ホント(汗)。

「……そもそも……その場に居たなら、何故止めなかったんだい……?」

「そうですっ! 指を咥えて見ていたんですか!?」

 千影と春歌の攻めるような口調(って言うか、攻めてるんだけど)にたじろぐ

四葉。が、直ぐにキッと目を吊り上げると逆に2人に食って掛かる。

「止めようとしたに決まってマスっ!! でも……」

 そこで一旦言葉を切り、一転して力なく肩を落とすと左右の人差し指を、胸

の前でツンツン突っつき合わす。

「お巡りさんに家出娘と勘違いされて、追いかけられたんデス……」

「……何をやってるんですか……」

 眉間に指を当てて、呆れた声を出す春歌に再びキッと視線を上げる。

「四葉だって朝方迄、必死に逃げたんデス! でも、気が付いたら数十人のお

巡りさんに追われてて……結局掴まって、交番でお説教されたんデス」

「……逃げずとも……普通に事情を話せば済んだのでは……?」

「それにしても、こちらには何の連絡もありませんでしたけれど?」

 眉間に当てていた指を口元に移して、春歌が不思議そうに小首を傾げる。

「ああそれは、お説教がネチネチと長引きそうだったから、手近に居たお巡り

さんの拳銃を掏って2、3発発砲して逃げて来たからデス☆」

「犯罪だよそれぇーーーーーっ!!!(がびーーん!!)」

「足下に威嚇射撃しただけだから、OKデス(はぁと)」

「いや、そういう問題じゃ……(汗)」

 可愛らしくウインクしながら言うセリフじゃないよ……

「大丈夫デス! 身元を特定されるような物を残して来るなんてヘマはしてま

せんし、勿論拳銃にも指紋なんて残してないモン! ノープロブレムデス☆」

「いや、だからそういう問題じゃ……(汗)」

 ……今朝のニュースは見ないようにしよう……これも、そういう問題じゃな

いか……

「……それにしても……中学生と小学生が良く……受付を通り抜けられた物だ

ね……」

「ああ、最近は全部自動でボタン押すだけだから…………あ゛(汗)」

「……矢っ張り……」

「入ったんですわね……」

「兄チャマっ!!」

 アホか自分ーーーーーっっっ!!!(泣) 折角、このまま有耶無耶に出来る

と思ったのに、自分から白状してどうするのっっ!?(泣) 僕を囲む3人の包

囲網が、じりっと狭まる。

「最早、これ迄だねあにぃ。男らしく認めなよ」

 死刑宣告に等しい宣言をする衛。

「さぁ、洗いざらい話して頂きましょうか」

「……辞世の句に……なるかもしれないから、悔いを残さないようにした方が

……良いよ……」

「ズバリ、ヤったんデスかっ!?」

 こらこらこらっ!!(汗)

「女の子がそんなこと言っちゃいけませんっ!!」

 取り敢えず、四葉の発言にだけツッコミを入れておく。

「何言ってるんだい。あにぃだって、ベッドの上でボクにもっとHぃこと言わ

せた、ク・セ・に(はぁと)」



 しーーーーーーーん……



 静寂が……耳に痛い。

「ボクが止めてって言ってるのに、何度も何度も……(はぁと)あんなに何度も

されちゃったら、ボク……ボクもぅ……(はぁと)」



 ぶちっ



 何かが切れる音がした。それは、彼女達の最後の理性かもしれなかったし、

僕の最後の望みの綱かもしれなかった。

「兄君さま……」

 微笑みながら、春歌がまた一歩僕に近づく。その笑顔は、彼女の名に相応し

くとても穏やかで、僕の心を暖かく包み込んだ……であろう――目が笑ってい

れば(汗)。そうか……これが所謂“コロス笑み”((C)秋田○信)と、言うヤツ

なのか……

「本日が何の日か、ご存じですか?」

「へ? きょ、今日?」

 な、何だろう唐突に……10月19日って、何かの記念日だったっけ?

「え〜〜っと……」

「本日は“親切の日”なんですのよ」

「え!? そ、そうなんだ」

「と、言う訳で……」

 流れるように抜刀。

「兄君さまをぶった切ります(はぁと)」

「な、何でぇぇーーーっ!?(がびーーん!!)」

「親切とは“親を切る”と、書くのですよ兄君さま……」

 そ、それなら父さんでも切って来てよ……(汗)

「……兄くんと言えば……親も同然……」

 相変わらず、何処から取り出したのやら1本の短剣を捧げ持って千影もジリ

ジリと間合いを詰めて来る。

(ガラッ)

「そう言うことでしたら、姫も微力ながらお手伝い致しますわ!!(怒)」

 なっ!?

「――な、何故……靴箱の中から……?」

「細かいことは、気にしないで欲しいですわ」

 いや、むっちゃ気になるんですが……(汗)

「さあさ、にいさま。姫が三枚に下ろして差し上げますわ」

 しかも、既に出刃包丁装備……(汗)

「成る程。白雪チャマに、兄チャマを調理して貰うのも良いデスね!」

 ちょっ、よ、四葉さん!?

「……私は……あれが良いな。前に……白雪が言っていた……」

 あ、あのぅ……

「“にいさまのポワレ”ですわね! お任せあれ! ですわ(はぁと)」

「ちょっと待ってぇぇーーーっっ!!!(泣)」

「ワタクシもお手伝い致しますわ、白雪さん」

「あ、ボクも食べたいなぁ……」

 ま、衛の裏切り者ぉぉーーーっっ!!!(泣)

「う〜〜ん……本来でしたら抜け駆けした衛ねえさまは、ペナルティとしてお

裾分けはなしなんですけど“にいさまのポワレ”は、一生に一度しか食べるこ

とが出来ない幻の一品ですから、特別に許可しますわ」

「わ〜〜い」

 『わ〜〜い』じゃないぃぃっ!!(泣)

「皆さんのお部屋にも、姫のスペシャルモーニングサービスとして、デリバリ

ーして差し上げなきゃ(はぁと)」

「ちょっ、ちょっと……ほ、本気?」

「ふ、ふふふふふ……にいさまがいけないんですのよ。素直に姫の物にならな

いから……」

 め、目がイってる……(汗) こ、ここまでなの……? まあ、外道な僕には、

相応しい最後かもね……

(ひょこっ)

「皆、もう止めて下さい……」

「えっ!?」

 やたらと透き通った心境で、僕が審判の刻を待っていると、遠慮がちに響く

仲裁の声。驚いて、その声の元へと視線をやると――

「皆もうこれ以上、兄やをいぢめないで……」

 なっ!?

「――な、何故……大瓶の中から……?」

 裏口の直ぐ脇に置かれた、今は使われておらず放置されたままになっている

大瓶の中からひょっこり顔を出している亞里亞。

「兄やが帰って来るのを待っていたら、ついウトウトしてそのまま寝ちゃった

んです……くすん」

 いや……何で瓶の中で……?(汗)

「あの……もう兄やも充分反省してると思います……」

(ぴょこっ! ぴょこっ!)

 話しながら、瓶の縁に手を付いて飛び上がっている。どうやら、中から抜け

出ようとしているみたいだけど、何分大きさが亞里亞の胸元位迄あるので、全

く出られそうもない。

「だから……もうこの辺で……」

(ぴょこっ! ぴょこっ! ゴロンッ!)

 あ、瓶ごと倒れた(汗)。

「兄やぁ〜〜、助けてぇ〜〜(泣)」

「ハイハイ」

 じたばたしている亞里亞に慌てて駆け寄って、瓶の中から引っぱり出す。

「くすんくすん。兄やぁ〜(泣)」

「お〜よしよし。もう大丈夫だよぉ〜」

(ひゅっ!)

 縋り付いて来る亞里亞の頭を、膝立ちになって優しく撫でながら、片手で素

早く倒れた大瓶を自分たちの前に立てる。

(ガスッ!)

 間髪入れず、大瓶に突き立つ短剣。4度目ともなると、良い加減慣れてきた

ね……

「…………チッ……」

 舌打ちは止めなさい千影さん。端たない。

「くすん……衛姉や……」

 縋るような、潤んだ瞳をじっと衛に向ける。

「……ふぅ〜〜……仕様がないなぁ。冗談言ってあにぃを困らせるのも、この

辺にしとこうかな」

「「「「冗談!?」」」」

「そ。ホテルには入ったけど、別に何もなかったよ。精々腕枕して貰った位か

な」

「で、でもさっき『止めてって言ってるのに、何度も何度も……(はぁと)』っ

て……」

 口を尖らせて、不審気に言い募る四葉。

「うん。あにぃったら止めてって言ってるのに、何度も何度もボクのほっぺを

うにうにするんだよ」

「ほっぺを……」

「うにうに……」

 春歌と千影が、呆けたようにおうむ返しに呟く。

「あんなにうにうにされちゃったら、ボクのほっぺおたふくみたいになっちゃ

うよ」

「ほっぺを……」

「うにうに……」

 同じく呆ける四葉と白雪。

「……あ、あのう……」

 恐る恐る、声を掛けてみる。途端、弾けるように一転して安堵の笑顔になる

4人。

「い、嫌ですわワタクシったら。てっきり……」

「……ま、まあ私は……最初から兄くんのことを、信じていたがね……」

「よ、四葉も最初っからチェキしてました」

「さ、さあ、朝食の準備をしなくっちゃ! ですわ」

 も、もしかして助かった……のかな……? それにしても衛の奴どうして――

「う゛」

 こっそり視線を衛の方に向けると、ジト目でこちらを睨んでいる。

 その目は――

『貸し一だよあにぃ。それと……後でお仕置き(怒)』

 ――と、言っていた。一瞬のアイコンタクトで、此処まで判るのも善し悪し

だね……(汗)

「兎に角、これからは朝帰りなんていけませんよ。兄君さま、衛さん。皆さん

心配していたんですから」

「う、うん……ごめんなさい。皆もごめんね」

 念を押してくる春歌に、そして皆に謝罪する。既に興味を失ったのか、千影

の姿はなかった。

「判ってくれれば良いんデス。ねぇねぇ白雪チャマ! 安心したら四葉、お腹

が減って来ちゃいました」

「あ、ボクもボクも〜」

「はいはい。直ぐ用意しますから、ちょっと待っていて下さいね」

 皆ぞろぞろと奥に入って行く。その場には、僕と亞里亞の2人だけが残され

た。

「あ、あの亞里亞……ありがとう。助かったよ」

 大げさでなく、命の恩人である亞里亞の頭をしゃがみ込んで優しく撫でつつ、

目線を合わせてお礼を言う。

「ううん。良いの」

 嬉しそうに目を細める亞里亞。その表情には、一片の邪気もなく――だから

この時、亞里亞の胸の内を見抜けなかった僕を誰が責められようか……






 来月は、亞里亞の番だから……(ニヤリ)










【10月18日は衛の誕生日&19日は親切の日だったのさSP】



−That's all.−






−An extra story−



「はぁ〜〜……………………疲れた」

 ようやく自分の部屋に戻ってきた僕は、おぼつかない足取りでよろよろとベ

ッド脇まで歩み寄る。

「まあ、命が助かっただけでも良しとしよう。それにしても、ホテルでも衛っ

たら何度もせがむもんだから、一体抜かずに何回ヤったことか……もうヘトヘ

トだよ……」

 そのまま、どさりとベッドに倒れ込む。

(むにょん)

 ……どさりと……

(ふにょふにょ)

 ……な、何この感触は? 何でこんなにふよふよしてるの?(汗)

(もぞもぞ……)

 硬直し、冷や汗だらだら流していると掛け布団がもぞもぞと動き出す。って、

よく見ると人型に膨らんでるじゃないですか。はっはっはっ……

(ひょこっ)

「そのお話、是非詳しくお聞かせ願いたいですわ。お・に・い・さ・ま(はぁと)」


 コロス笑み


 はっはっはっ……(泣)






−続きません−






(1st edition : 2000/11/05)

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