【突然ですが、これだったら俺にも書けるよ千影視点!!
          でもホントにこうだったら、かなりヤだなぁSP】

☆ Sister Princess ☆
<Short×2>

−a private talk (jealousy 2)−



 んもぉ〜〜〜〜〜っ!! 皆さん聞いてくれますぅ〜〜!? 酷いんですよ、

兄くんったらぁ!! 最近全然、私達の家に帰ってきてくれないんです!!

私はこんなに、兄くんのこと想って待ち焦がれてるっていうのに、ホント失礼

しちゃう!! もぅ、プンプンです!!

 だからぁ、今日は兄くんに内緒でこっそりお家にお邪魔しちゃってます!!

えへへ……兄くん驚くかなぁ。でもこのくらいのお仕置きは許されるよね?

私ホントに兄くんに逢いたくて逢いたくて、胸が張り裂けそうだったんだから

ぁ……(泣) 兄くんのいぢわるぅ……

 あ! 因みに私、さっきから待ち遠しくてずっと玄関にいるんです。電気代

が勿体ないから、暗くしたままなんですけど。でも、この方が兄くんがドアを

開けたとき、驚くよね? うふふ、私ったらお茶目さん(はぁと)。それにして

も、遅いなぁ兄くん。早く帰ってきてよぉ……

(ガチャリ)

 あ! か、帰ってきた! や、やだどうしようドキドキして来ちゃったよぉ

〜〜(汗)。お、落ち着いて! 落ち着くのよ千影!! 夢にまで見た兄くんの

お帰りじゃない!! そそうのないように。変な女だって思われたら、私もう

生きていけないもん!!

(ギィィ〜……)

 でも、私が早く帰ってこないかなって考えたら、タイミング良く帰ってきて

くれるなんて、矢っ張り私と兄くんは運命の赤い糸で結ばれてるのね(はぁと)。

……ん!? 誰? 今『だったら、お前の家にも直ぐ帰ってくる筈じゃないの

か?』なんて言ったのは!! いいの!! これぞ純情無敵の「乙女心」って

やつなんだからぁ!!

「ただい……ま……」

 きゃぁ〜〜!! きゃあきゃあ!! あ、兄くぅぅん(はぁと)。兄くんだよ

ぉ〜〜(はぁと)。はぅぅ〜〜ん……(恍惚) はっ!? い、いけない――って、

いうかイっちゃいそうでした(ぽっ)。ドアを開けた姿勢で固まってる兄くん。

やだもう、そんなに驚くなんて兄くんったら可愛いんだからぁ(はぁと)。

「…………お帰り……兄くん……」

 き、緊張して上手く喋れないよぉ〜〜(泣)。それに、笑顔も上手く作れない

し……もうホント私って口下手で、自分でもやんなっちゃう……(泣)

 ……それにしてもどうしたのかしら? 兄くんったら、さっきからずっと固

まったままで。……ちょっと、驚かせ過ぎたかしら?

 も、もしかして怒っちゃったとか? そ、そんなぁ!!(汗) ほんの茶目っ

気だったのに……私……私、兄くんに嫌われでもしたらもう生きていけないよ

ぅ……(泣) は、早く謝らなきゃ。……でも焦れば焦るほど、上手く言葉が出

てこない。そうこうしてる内に――

「……ギロ……チン……」

 な゛!? ちょ、ちょっとちょっと!! 皆さん聞きましたぁ〜〜!? な

んで、兄くんがその言葉を!? それって私が衛に言った言葉よね?

 確か――



『はぁ……ボク最近全然あにぃに会ってないんだぁ……千影ねぇはどお?』

『(わ、私だって全然会ってないわよ! 淋しいのは、衛だけじゃないんだか

らぁ! 「会いたい」っていうより、むしろ「逢いたい」って感じ? 判るか

しら、この単語のニュアンスから伝わってくるせつない乙女心! 電話しても

いっつも留守電だし、まさか彼女でも出来たんじゃ!? とかすっごい不安な

んだから! もちろん、そんな兄くんをたぶらかす害虫がホントにいるのなら、

即殲滅するけどね(はぁと)。でも、そんな心配は無用よね。兄くんは私にぞっ

こんだ・か・ら(はぁと)。あ、でもでも兄くんってすっごく優しいから(ぽっ)、

そこに付け込む泥棒猫が、現れないとも限らないわね……やだ……やだやだ、

そんなの困るわ!! 早速、対策を練らなきゃ……兄くん、もう少しだけ耐え

ていてね! 直ぐに私が助けてあげるから。私の兄くんは誰にも渡さないわよ!!

……い、いやぁ〜〜ん!! 言っちゃった言っちゃった(はぁと)。「私の兄く

ん」ですって!! もう、私ったらダ・イ・タ・ン(はぁと)。でもその調子よ

千影!! 兄くんったら、恋愛沙汰にちょっと鈍いとこあるから(くすん)もっ

ともっと、積極的にいかなきゃ!!……えっと何の話だったかしら……? あ、

そうそう泥棒猫対策だったわよね! もう、私ったらうっかり屋さん(てへ)。

兄くんのこととなると、途端に話が横道にそれちゃうんだからぁ〜〜。でも、

私をこんなに夢中にさせるなんて、兄くんてホント罪なヒ・ト(はぁと)。え〜

っと、確か不届きな害虫には、あれが有効だったわよね――)ギロチン。(さぁ、

早速準備しなきゃ! ごめんなさいね衛、また後でね。)』



 ――って、感じだったと思うけど……はっ!? ま、まさか……

「…………衛……来たんだ……」

 あぁぁぁっ!? 信じらんなぁ〜い!! 兄くんったら全身から冷や汗ダラ

ダラ流し始めたぁ〜〜!! 矢っ張りね!? 矢っ張り衛が来たのね!!(怒)

「ち、違うんだ千影!!……い、いや違わないんだけど……そ、そのま、衛は

……テストを見せに……そう!! 算数のテストで、100点取ったから、そ

れを僕に見せに……!!」

 んっもぉ〜〜、あったまきちゃう!!(怒) 私はこんなに兄くんのこと想っ

てたのにぃ〜〜!! そんな言い訳なんて、聞いてあげませんよぉ〜っだ!!

「…………よろしく……やってるんだね……」

「い、いや、別に……そんな……(汗)」

 衛も衛だけど、兄くんも兄くんよ!! この浮気者ぉ〜〜!!(怒)

「……私には……逢ってくれない……くせに……」

 そう、私には逢ってくれなかったのに……や、やだ……何だか

自分で言ってて悲しくなってきちゃった……くすん……(泣)

「……ごめん……」

 !? 今までとは違う、すごくトーンの低い声に私はハッとなって顔を上げ

る。

「……ごめんね千影。でも、逢いたくなかった訳じゃない」

「…………」

 私の視線の先には、すごく悲しそうな兄くんの瞳。そしてその瞳に映るのは、

兄くんと同じ表情をした私。兄くんと同じ想いの色を瞳に宿した私。……そっ

か……兄くんも――

「……逢いたかった。来てくれて嬉しいよ……千影」

 兄くんも、私と同じ気持ちでいてくれたのね? 私はそれを――兄くんの想

いを、ぬくもりで確かめたくてそっと近づく。

 そっと、唇を奪う。

「…………痛っ!」

 兄くんが小さく呻く。いっけない、またやっちゃった……昔から治らないな

ぁ、この癖。でも、お仕置きと思えばこれくらい……あ!? 血が滲んじゃっ

てる……矢っ張り、ちょっとやり過ぎたかも……(汗) ごめんなさい兄くん、

ちょっとじっとしててね……私はそっと兄くんの頬に手を添えると、その唇に

舌を這わせる。

 ――って、うっひゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!(赤〜っ) これってもしかして、

すんごいエッチぃ〜〜!? はふぅ〜〜……私、どうにかなっちゃいそう……

(はぁと) で、でもこれは血を止めるための処置だし、この傷は私の所為なん

だから矢っ張り私が責任持ってやんなきゃ。うん! そんな訳だからハイ、ぺ

ろぺろぺろぉ〜〜……はぁぁぁ〜〜……し・あ・わ・せ(はぁと)。……私って

エッチ……?(照れっ)

 で、でも、兄くんも全然嫌がらないし、こ、これはこのまま一気になだれ込

んでもオッケーってやつですかぁ〜?……ダ、ダメ……矢っ張りダメよ。他に

やりたいこともあるし、何より物事には順序ってものがあるわ。第一女の子の

方から、その……誘うなんて……(ぽっ) 兄くんに軽蔑されでもしたら、大変

だもの。矢っ張りここは、ぐっと我慢よ千影!……ものすっっっごく不本意だ

けど……(泣)

 じゃあ、仕切直しということで。

「…………お帰り……兄くん……」

「……ただいま、千影……」

 今度は、上手く笑えた――かな……?










「……召し上がれ……」

 テーブルに並んだ、私の自信作の数々。メニューは、豚肉のソテーと横に添

えられたキャベツの千切り。キュウリのゴマ和えと、里芋とタコの煮っ転がし。

大根のおみそ汁にご飯。……そりゃあ、白雪の手料理に比べたら、見劣りする

かもしれないけど……(泣) でも、愛情っていう調味料では絶対負けてないん

だからぁ!!……そうそう、白雪っていえばさっき調理中に、ちょっとした事

件があったんだけど、それはまあ、後回しにするわ……

「……あ、あの……これ、全部千影が?」

「…………」

 兄くんの問いに、自信を持って頷き返す。兄くんったら、視線を料理と私の

間で何度も往復させてる。私が作ったことが、そんなに嬉しいのかしら?……

そうよね! 矢っ張り好きな娘の手料理は嬉しいものよね(はぁと)。きゃっ!

好きな娘だって(はぁと)。ホントは私自身をお皿に載せて「ハイ、兄くん召し

上がれ(はぁと)」とか、やりたいんだけど、そんな大きなお皿売ってなかった

の(くすん)。だから、この案は今回保留。そのうち実行するからちょっと待っ

ててね、兄くん(はぁと)。

「……もしかして、魔術で作った……?」

 ……へ? 魔術?……あぁぁっ!? んもぉ〜〜!! もしかして兄くんた

ら、そんなこと考えてたのぉ〜〜!? そ、そりゃあ幾つか魔術製の食べ物を

作ったことはあるけど……でも、どれも皆可愛い乙女心の副産物じゃない。兄

くんにだって、責任が全くないとは言えないと思うしぃ……私の気持ち知って

る癖に、それを弄ぶんだもん。

 それにチョコレートケーキのときは、その死ぬほど美味しそうな香りに危う

く私も食べちゃいそうになったし、一億味せんべいだってホントは一万味せん

べいにするつもりが、ちょっと調合を間違えただけなんだからぁ。

 ……ごめんなさい。ちゃんと反省してます(汗)。だから、そんな怯えた目で

見ないでよぅ……(泣)

「…………」

 私は一生懸命、左右に首を振って否定する。この料理は、私の兄くんへの想

いが詰まった、愛情手料理なんだって信じて貰う為に――

「……魔術では、出せない味が……あるから……」

 やっとの思いでそう説明する。嗚呼もう、どうしてもっと上手く説明できな

いのかしら……(泣)

「魔術では、出せない味?」

「…………」

 そう! そうなのよ、兄くん!

「それって……」

 お願い! 信じて、兄くん! その料理は、私の気持ちそのものなのよぅ……

兄くんへの想いが、一杯詰まってるんだからぁ……

「……いただきまぁす」

 やった!! 私の気持ちが伝わった!! だから兄くん大好きっ!! おも

むろに手を合わせてから、お箸を取る。その行く先は……煮物ね!!

(ぱくっ)

「…………」

 兄くんの一挙手一投足に、全神経を集中して注目する私。

(どきどき……)

「こ、これは……!?」

(ぱくっ)

 そう言った後、続けて和え物を口に運ぶ。そして兄くんはそのまま無言にな

り、お箸とお口を動かすスピードだけが増していく。

「…………」

 うぅぅ……感無量(泣)。よかったぁ〜〜……お口に合ったみたい。

 うふふ……しあわせ(はぁと)。さあ、これで私も安心して頂けるわ。










「ごちそうさまぁ」

「……お粗末様」

 えへへ……何だか新婚夫婦みたい(ぽっ)。3合炊いたご飯はぺろりと平らげ

られちゃった。ちょ、ちょっと感想聞いてみようかな……?

(どきどき……)

「…………どう……だった……?」

「美味しかった! すっごく!」

 はうぅぅぅ!!(赤〜〜っ) そ、その笑顔は反則ですぅ〜〜(はぁと)。や、

やだ、顔が火照ってきちゃう……で、でも……し・あ・わ・せ(はぁと)。

「千影の心がこもってたからね」

 はうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!(赤〜〜っ) 矢っ張り、兄くんには私の想

いがちゃんと伝わったのね!……嗚呼……生きててよかったぁ……(はぁと)

……あっ!? で、でもここであのことを言わなきゃ!! ごめんなさい、兄

くん。私だってホントは言いたくないのよ(ホントよホント!!)。でも、この

後の主導権を握るためにもここは心を鬼にして……

「……白雪と、どっちが美味しい?」

「え゛」

 あ、動揺した。何かちょっとムカッ。よぉ〜〜し、間髪入れずに――

「……白雪特製絶対元気の出るすっぽんトルテと比べて……どう?」

「ぶっ!?」

「……白雪特製目玉焼き苺ソースがけと比べて……どう?」

「…………(汗)」

 う〜〜ん。兄くんにお料理誉められて、頬が緩んでたからいまいち迫力に欠

けてたかもしれないけど、一応兄くんの良心に訴えることは出来た――かな?

「……ど、どうして……」

 兄くんが、冷や汗を流しながらそう聞いてくる。よしよし、少しは悪いと思

ってるみたいね。衛だけじゃなくて、白雪まで抜け駆けしてるなんて……ホン

ト油断も隙もないわ(私も抜け駆けしてるっていう意見は、例によって乙女心

により却下よ(はぁと))。

「……残留……思念」

 兄くんの疑問に、そう答える。さっき言ってた、調理中のちょっとした事件

っていうのはこのこと。そう、私は「視て」しまったのだ――

「……白雪は――あの娘だけじゃなく、他の皆も兄くんの為に何かをするとき

は、その意識や氣が強くなるから……覗くつもりはなかったんだけど……包丁

を握ったときに……」

 ――白雪の思念が、伝わってきちゃったの。しかも、相当強い念が残ってた

みたいで、かなり鮮明に「視えて」しまった。まあ、抜け駆けは100歩、い

え1000歩譲ってよしとしても、その内容は到底無視出来そうもなかった。

だって、その……滅茶苦茶「おピンク妄想」全開だったんだもんっ!!(怒)

ぬぅあ〜〜にが――



『毎日こうして、にいさまの朝食を用意してさしあげる、新妻白雪――』



 ――よっ!!(怒) まったく図々しい!! 大体ねぇ……私の方が上手よ!!

お口っ!! 胸も使えるしっ!!……コホン……ま、まあ、とにかく許せない

のよ。でもね……それだけじゃないの。いい? ここからが重要よ。さっきま

でのは図々しいとはいえ、ただの妄想だったから、若気の至りと思うことも可

能よ。でもその後、私が「視て」しまったものは――



『ふふふ……にいさまに、ぎゅってされるとそれだけで幸せな気分になれます

わ』



 ――ヤってやがる!!!(怒) 何なの、その「自分で立てない」っていうの

は!? どういう状況!? 私だってそんな激しいのは、ここのところとんと

ご無沙汰だっていうのにぃぃっ!! ここは兄くんにガツンと言ってやって、

反省して貰わないと!!

「……それで……どうなの……?」

 そんでもって、悔い改めた兄くんは、私に白雪以上の攻めを……(ぽぽっ)

でへへ……私、体持つかしらん?(はぁと)

「…………比べられないよ」

 えっ!?

「白雪の料理には、白雪の心が、気持ちがいっぱい詰まってるから。そして千

影の料理にも、千影の心と気持ちがいっぱい詰まってた。2人の心を比べるこ

となんて、出来るはずがないよ……」

 …………はぁ〜……ホントにもう、どうしてそんなに優しいのよ……優柔不

断もここまで徹底してると、ある意味男らしいかも。

 それにしても――

「……兄くんらしいね……」

 ――今の私、自然に微笑めてると思う。

「自分でも、呆れるけどね……」

 そんな悲しい顔しないで。私もちょっと、いぢわるしすぎたわ。

「……それで、いいんだよ……」

「え!?」

「……それが、兄くんなんだから、しょうがないよ。……皆の大好きな――私

の……大好きな、兄くんなんだから……(ぽっ)」

「千影……」

「……え、えと……しょ、食器……片付けるよ……」

 うひゃぁぁぁぁぁ!!(赤〜〜っ) わ、私ってばダイタ〜〜ン(はぁと)。は、

恥ずかしいよぅ〜〜!!

「……ありがとう、千影……」

 私の背中に向かって投げかけられたその言葉に、胸の中が暖かく満たされて

いくのを感じる。それはきっと、私の言葉で兄くんの心の中を少しでも満たす

ことができたから――だから、私の心も満ちていく、と……そう思いたいな……










「……ホントに、帰るの?」

 そんなこんなで、作戦最終段階ぃぃぃっ!!(ガカァッッ ※SE)

「…………うん……」

 私はなるべく、声のトーンを落として悲痛な雰囲気を出すよう努めた。いや、

ここで「そう、それじゃあ」とか言われちゃったらもう、兄くん殺して私も死

ぬっ!! って感じだから、背水の陣なのは確かだ。自然、雰囲気も悲壮なも

のになってくる。でも、衛や白雪のことで散々突っついといたから、私に負い

目がある兄くんは、きっと引き留めてくれる筈。……信じてるわよ、兄くん!!

(乙女心乙女心) ゆっくり、ドアノブに手を伸ばして……は、早くしてぇ兄く

ん!!(汗)

「……そ、それじゃあ……また……兄く!?」

 いよっしゃぁぁぁっ!! 思わずガッツポーズを作りそうになるのを懸命に

堪える。まあ、後ろから抱きすくめられてたから、どっちみち出来なかっただ

ろうけど。んもぉ〜〜〜っ!! 焦らし上手なんだからぁ〜(はぁと)。

「……行かないで……」

 私を抱く腕に、力が込められる。心地いい締め付け。もう、このまま壊され

ちゃっても構わない……でも、私もお返しにちょっと焦らしちゃおうかなぁ(はぁと)。

「……痛いよ……離して、兄くん……」

「……いやだ……」

 はぅ!! あぁ……兄くんの顔が、私のうなじを貪る。全身の力が抜けてい

っちゃう……で、でももう少し……軽い女と思われて軽蔑されちゃったら困る

もん。

「……電車、間に合わなくなる……」

「……泊まっていって……」

 んあぁぁ……首筋に兄くんの吐息がぁ〜〜……もっと、して欲しい……はう

ぅぅ…………私、何してるんだっけ……?

「……兄くん……」

「……お願い……」

 …………あ、そうだ。兄くんを焦らしてたんだ。危うく、訳判んなくなると

こだったわ……ホント、兄くんには敵わない……

「……甘えん坊だな……兄くんは……(はぁと)」

 どうして、私って兄くんが見てないと上手く笑えるのかしら(泣笑)。










 仰向けに寝ている兄くんの上にもたれて、そのたくましい胸板に頬を寄せる。

こうやって、兄くんの鼓動を聞いていると、無条件に心が落ち着く。この世界

で、私が安らげる場所ベスト10の中でもかなり上位にランキングされること

間違いなしね。他には、湯船の中で兄くんの上に乗っかって(向かい合わせで

も、私が後ろ向きでもOK)、ぎゅっと抱き締められるとか、私が兄くんに膝

枕をするとか(あ、その逆もいいかも! 今度、やって貰おっ!)、俯せに寝っ

転がって本を読んでる兄くんの上に、覆い被さってぎゅっと抱き付くとか……

要するに兄くんと密着してればいいんだけど(汗)。

「……兄くんの鼓動を聞いていると、心が落ち着く……」

 私は、自分のしあわせな気持ちを兄くんにも伝えようと、微睡みにも似た心

持ちの中そっと囁く。すると、直ぐに私のほどけた髪を優しく撫でてくれる。

 よかった。私の気持ち、兄くんはちゃんと判ってくれてる。優しく優しく私

の髪を梳いていく兄くんの指が、より一層の微睡みへと私を誘う。

「……それにしても、兄くんはあの頃から……変わらない……な……」

 ぼんやりとした頭で、そんなことを言ってみる。兄くんの優しさは、きっと

永遠。

「あの頃……?」

「……ねぇ、兄くん。兄くんは、私との約束……覚えているかい……?」

 永遠を手に入れるための、約束。

「…………干し首の首輪を買ってって痛っ!」

 んもぉ〜〜〜っ!! どうしてそこで、雰囲気壊すかなぁ!? いぢわるな

兄くんにお仕置きするべく、覆い被さって軽くその肩を噛んじゃう。拗ねた視

線で兄くんを軽く睨むと、苦笑混じりに言い直してきた。

「……冗談だよ……確か――」

 そう、それは永遠を手に入れたがった私の、幼い日の約束。今も続いている、

私の願い――



『……ねぇ、兄くん。お願いが……あるの……』

『お願い? なぁに?』

『……ちかのものに……なってくれる……?』

『千影のものに?』

『……そう。ちかだけの兄くんに……なって欲しいの……』

『う〜〜ん……それは……矢っ張り出来ないよ』

『どーしてぇ!? ちかのことが……キライ……だから……?』

『そうじゃないよ』

『……じゃあ、どうして……?』

『だって、僕は千影のお兄さんだけど、咲耶や春歌、鈴凛や衛に鞠絵そして今

度産まれてくる赤ちゃん達の、お兄さんでもあるもの』

『…………』

『だから、千影だけのものになることは、出来ないよ』

『……判った。……それなら、ちかのことを1番好きに……させてみせる……!』

『千影のことを? 僕が?』

『……そしたら、ちかだけの兄くんに……なってね……』

『…………判ったよ。そうしたら、千影だけのものになるよ……』

『……本当……?』

『うん』

『それじゃあ――』

『『……約束……』』


「――っていうやつでしょ。ちゃんと覚えてるよ。……それにしても3歳児の

発言とは思えな痛っ!」

 だぁかぁらぁ〜!! どうして、雰囲気壊すのよぉ〜!!(泣) 今度は首筋

にお仕置き!!

「…………いぢわる……」

 もしかして兄くん、私のこと嫌い?(泣)

「……嫌いになった……?」

 私の思ったことと、同じセリフを囁きながら再び優しく私の髪を撫でてくれ

る。たったそれだけで、たちまち私の頭の中は霞が掛かったようにぼんやりと

してくる。……私が、兄くんのこと嫌いになるわけないじゃない……たとえ、

兄くんが私のこと嫌いになっても――そんなことになったら、生きていけない

けど(泣)――私が兄くんのこと嫌いになるなんて、ありえないわよ……

「……ううん。……もっと、いぢめて……欲しい……私の心を……兄くんの心

で、縛って欲しい……」

 首筋の噛んだ痕から肩へと、ちろちろと舌を這わせる。そうしていると私自

身も何だかゾクゾクして、体の芯が熱くなってくる。兄くんも私のこと、噛ん

でくれないかな……? そう考えただけで、興奮した私は恍惚としてくる。体

中に、兄くんのモノだという証を刻んで欲しいの。心の奥底まで、深く深く――

「……そうすれば、兄くんの心も……私の心で……縛れるから……」

「……千影……」

「……何時か、ゆくんだ……2人だけの……世界に……光に満ちた……あの世

界に……」

「……2人だけの、世界――か……」

 そう言った兄くんの瞳はとても穏やかで、優しげで……。私は何時になく饒

舌に、その想いの丈を打ち明ける。

「……そこには、永遠が……あるんだ。……永遠に、私と兄くんの2人きり……」

 そう言って、兄くんの胸板に両手を付いて、上体を起こす。兄くんの梳いて

くれた髪が、私の肩を流れていく。

 自然と笑みがこぼれたのは兄くんの瞳が優しい光りを湛えていたから?

 自分の想いを吐露できたから?

 ……判らない。自分のことも。未来のことも。

 だから私は、呪文を唱える。

 永遠を手に入れるための、呪文を。

「……約束だよ……兄くん……」


 永遠を願う微笑みと共に――






−That's all.−






(1st edition : 2000/06/04)

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