☆ Sister Princess ☆
<Short×2>

−HINAKO STRIKES!−



「ふぁ〜〜あっと……」

 下校途中、駅へと向かっていると思わず大きな欠伸が出てしまう。今日もお

務めご苦労さん。もう一つのお勤めも今日はないし家に帰ってのんびりしよう

っと。

「ん?……あれは……」

 道の向こうから駆けてくるのは、もしかして……

「おにいぃぃたまぁぁぁっ!!」

(とてとてとて……)

「ひ、雛子!?」

 間違いない、雛子だ! 僕も慌てて駆け出す。

「お〜にいったまっ!!」

(とてとてとて……)

「雛子!!」

(抱きっ)

 腕の中に飛び込んでくる雛子を、しっかり抱き止める。

「えへへぇ〜、おにいたまぁ〜(はぁと)」

 僕の首筋に腕を回して、頬と頬をすりあわせてくる。ちょっと、くすぐった

い。……と、それはいいとして。

「どうしたの雛子? 何でこんな所にいるの?」

 当然の疑問だ。1人でここまで来られるとも思えないし……

「あのねあのね、ヒナどうしてもおにいたまに会いたかったのぉ! だからね、

おかあたまにお願いして、おにいたまのお家にいっしょいっしょしてもらった

のぉ!」

 つまり、僕のマンションまで義母さんと一緒に来たのか。でも……

「それなのに、どうしてここに?」

 すると、雛子は恥ずかしそうにちょっと俯いて、服――クリーム色のワンピ

ース――の裾を両手で弄り出す。

「あのね……おにいたまが来るの、まちきれなかったのぉ……」

 ……可愛い(ぽっ)。フリルの付いたクリーム色のワンピ−スに、白いハイソ

ックスと白いスニーカー。背負った赤いリュックの左右では、デフォルメされ

た白い翼が雛子の動きに会わせてぴょこぴょこ揺れる。これぞ正に天使のよう

な愛らしさ!

「……どうしたのぉ、おにいたまぁ〜?」

「はっ!?」

 い、いけない、つい天に向かって力説しちゃった(汗)。

「な、何でもないよ。それで、1人で来ちゃったの?」

「うん! あいがおか駅まで、おかあたまにいっしょいっしょしてもらってぇ、

すみそら駅でおりて大きいどうろをまぁ〜〜すぐ行きなさいって言われたのぉ!」

 なるほど。藍ヶ丘駅は僕の住んでるマンション前の駅。澄空駅は僕の通う高

校と、一本道で繋がってる通学電車の乗降駅だ。しかし判りやすいとはいえ、

義母さんも思い切ったことさせるなぁ。可愛い娘には旅をさせろってやつかな?

「でも、僕と行き違いになっちゃったらどうするつもりだったの?」

「ん〜〜とね、おにいたまのがっこの入り口まで行って、おにいたまがいなか

ったら、もどって来るっておやくそくしたのぉ!」

 なるほど、なるほど。だけど、こんなミッションをクリア出来るようになる

とは、お兄ちゃん感動……

「すごいなぁ、雛子は。1人でこんな所まで来られるなんて」

「えっへん! ヒナは今年で8才になるもの。もうりっぱなレディーよ!」

 腕を組んで得意げに話す雛子。その仕種も可愛過ぎて、ちょっと意地悪した

くなる。

「そうかぁ〜。じゃあ今ご褒美に、なでなでしてあげようと思ったけど大人の

雛子にはそんなことするの失礼だよね……?」

「えっ!? え、えっと……あの……ふにゅぅ……(汗)」

 僕がさも残念そうに嘆くと、途端に困り果てたように、オロオロしだす。

「……でも、僕はどうしても雛子になでなでしたいんだけど……ダメ?」

 膝を突いて視線を合わせてから笑顔でそう言うと、ホッとした表情を見せた。

僕がその顔を覗き込んでいるのに気付くと、頬を染めながら照れ隠しにぷいっ

とそっぽを向く。

「も、もぅ〜、しょうがないおにいたまですねぇ。そんなにおねがいするなら、

してもいいですよぉ〜(照れっ)」

 耳まで朱く染めて言っても説得力ないよ(笑)。

「ありがとう、雛子」

 そう言ってなでてあげると、直ぐに目尻を下げてふにゃ〜っとした表情にな

る。さらさらの髪の手触りが心地よい。

(なでなでなで……)

(ふにゃ〜……)

(なでなでなでなでなでなで……)

(ふにゃにゃ〜……)

(なでなでなでなでなでなでなでなでなで……)

(ふにゃにゃにゃ〜……)

 ……切りがない(汗)。このままだと、お互い永久になでなでふにゃ〜になっ

てしまう(謎)。

「さ、さてっと……そろそろ行こうか?」

 断腸の思いで(笑)、なでなでを中断して立ち上がろうとする。

「あ……!」

 すると、雛子がとっさに僕のブレザーの袖を掴む。その所為で、僕は再び膝

を突いた体勢に引き戻されてしまう。

「ど、どうしたの?」

 まだ、なでられ足りないのだろうか?

「……あ、あのね……えっとぉ……」

 また、ワンピースの裾を掴んでモジモジし出す。何か言いたいことでもある

のかな?

「なあに? なんでも言ってごらん」

 微笑みながら、瞳をじっと見つめてそう促すと決意を固めたのか真剣な瞳で、

見つめ返してくる。

「あの……ね……おねがいが、あるのぉ……」

「お願い?」

 こくりと頷いて先を続ける。

「おにいたまにね、いっしょいっしょして欲しいところがぁ……あるのぉ……」

 一緒に行って欲しいところ……? どこだろ? う〜ん……その時、以前雛

子の家に行った際の会話を思い出す。

「はっは〜ん……判ったぞ!」

「え!? ホ、ホント? おにいたま!」

「この間話した、おはぎの美味しい和菓子屋さんに、行きたいんでしょう!」

 自信満々に言った僕の言葉に、がくっと肩を落とす雛子。と、直ぐにその肩

を怒らせて突進してくる。

「も〜〜! おにいたまのばかばかぁ〜〜!」

(ポカポカポカ)

 腕をぐるぐる回して僕の頭を叩く、必殺の雛子アタックだ!

「え、ちょっ、痛、痛い痛い! ご、ごめん雛子! 違うの!?」

「ぜぇ〜〜んぜん、ちっがぁ〜〜う!! ヒナはもう大人のレディーなのよ、

おにいたま!」

 頬をぷくぅっと膨らませて大人のレディーらしからぬ愛らしさを見せる雛子。

だぁ〜かぁ〜らぁ〜、そういう仕種見せられるとぉ〜……

「そうかぁ〜。じゃあ、いらないんだね、おはぎ。美味しいのになぁ……」

 膨らませた頬をつんつん突っつきながら、さも残念そうに嘆く。

「はにゅ……(汗)」

 途端に雛子アタックが、ぴたりと止まる。

「い〜ら〜な〜い〜の〜?」

(つんつんつん)

「ふにゅぅ……(汗)」

 う〜ん、困ってる困ってる(←性格悪い?)。

「僕は、ぜひ雛子に食べて欲しいんだけどなぁ。おはぎ通の雛子の評価はすっ

ごく気になるし……ダメ?」

 そう言うと困っていた表情が、ぱぁっと明るくなる。でも直ぐにその表情を

見せまいとして、照れ隠しにそっぽを向く。

「も、もぅ〜、しょうがないおにいたまですねぇ。そんなにおねがいするなら、

食べてみてもいいですよぉ〜(照れっ)」

「よかった。それじゃあ、後で一緒に行こうね」

「うん!」

「それで、本当はどこに行きたいの?」

「あ、そうだぁ……えっとね、ヒナじゅえりーしょっぷに行きたいのぉ!」

「ジュ、ジュエリーショップ!?」

 飛び出した意外な単語に驚いてしまう。まさか、雛子とジュエリーショップ

なんて、鞠絵とフィットネスクラブぐらい意外な組み合わせだ(失礼)。

「そうなのぉ! ヒナ、おにいたまが咲耶おねえたまにプレゼントしたのと、

おんなじゆびわがほしいのぉ!」

 ……なるほど、咲耶が原因ね……

「咲耶おねえたまったらねぇ、ヒナにそのゆびわ見せてすっごくじまんするの

ぉ!『おにいたまからのこんやくゆびわよ』ってぇ!」

「い、いや、あれは別にそういうんじゃなく……」

 買わないと、今回のデート皆にばらして自慢しちゃうって言われて仕方なく

……でも、指輪自慢されちゃったら一緒だよ! 僕ってバカ……?(泣)

「ヒナもこんやくゆびわほしぃ〜! ねぇ、おにいたまぁ〜!!」

 僕のブレザーの袖を持って、左右にぶんぶか振りながら言ってくる。必殺の

雛子おねだり(ガード不能技)だ!

「わ、判った! 判ったよ! これから一緒に行こう、ね?」

 合うサイズあるのかな?(汗) 僕がそんなことを考えていると……

「うわぁ〜〜い!! おにいたま、ダイダイダ〜イ好きぃ!!」

「ん゛!?」

 しがみついてきたかと思うと、いきなりキスされてしまった。しかも……そ

の……子供相手にするようなライトなやつじゃなく、恋人同士でも滅多にやら

ないような、ディープなやつ。ましてや往来で――

「ん゛ぅ!?」

 ――し、舌!? 僕の口唇を雛子の舌が割り開く。

「んふぅ……」

 そのまま鼻を鳴らた雛子が、僕の口腔を妖しく蹂躙する。頭の芯が痺れたよ

うに真っ白になっていき、引き離そうとした僕の両手は力無く雛子の両肩に添

えられるに留まった。

「………………ふぁ……」

「………………ふぅ……」

 たっぷり数十秒、互いを絡め合った後ゆっくりと顔を離す。その間をつうと

一筋、銀の橋が架かった。

「……はぁ……ふぅ……ヒナ、おじょうず……に、出来た? ……おに……た

まぁ……?」

 荒い息の下で、喘ぐように言ってくる。雛子の興奮具合を表すように、その

頬が紅潮していた。潤んだ瞳が僕の背中をゾクゾクと刺激する。

「う……あ……なん……」

 何か言おうとするんだけれど、口がうまく言葉を紡がない。今のキスで痺れ

でもしたかのようだ。

「……はぁ……咲耶……ふぅ……おねえたまが……教えてくれたの……恋人へ

のご褒美は、キスが1番って。ヒナ、一生懸命サクランボで練習したのぉ……

(はぁと)」

 僕の疑問を察したのか、雛子が呼吸を整えつつ教えてくれる。……咲耶……

君達は僕のいない間、どんな会話をしてるのさ……(汗)

(ドサッ!)

 と、突然僕の背後で何かが地面に落ちる音が……一瞬びくりと硬直した後、

恐る恐る振り返るとそこには――

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、輝……ちゃん……」

 鞄を取り落とした、クラスメイトで隣の席の星野さん……(汗)

「あ、あの星野さ……」

「そ、そんな……輝ちゃんが、そんなまさか……ロリコンだったなんて……!!」

 顔面蒼白でよろめきつつ、呻く星野さん。その表情を支配するのは――絶望。

「ちょ、ちょっと待って……!」

 立ち上がり必死に言い繕おうとするが、僕の声など既に耳に入っていないよ

うだった。

「私……私、輝ちゃんのこと……そ、それなのに……それなのに輝ちゃんが、

犯罪者級のロリーだったなんて……酷い、酷すぎるよ!!」

 その瞳に涙すら湛えて、絶望の淵に沈む星野さん。悲劇のヒロインここにあ

り。ってちょっと! マズい! マズすぎるぅ! 彼女は自称情報通で某ゲー

ムのタマネギ頭並みに歩く拡声器なんだ! ここで変な誤解(?)されたままだ

と、明日――いや、今日の夜には各クラスの緊急連絡網先頭の生徒に情報が伝

わり、ニュートリノよりも速く「輝ロリー説」が学校中に伝播してしまうぅ!!(泣)

「ち、違う! 違うんだ! 星野さん!!」

「そうだよぅ!! ヒナ知ってるもん!! ロリコンって、少女しゅみってこ

とでしょ? ヒナ子供じゃないもん!! りっぱなレディーだもん!!」

 お約束の如く、すんごくズレた反論をぶち上げる雛子。

「どっからどう見ても、完全無欠にお子さま全開じゃない!!」

 その雛子に食ってかかる星野さん。しかし、雛子は余裕すら窺える笑みを口

の端にのぼらせる。

「……少なくとも、キスはおばちゃんよりずっとじょーずだと思うよ(ニヤリ)」

(ぴきっ!!)

 空気が、そして星野さんの動きが凍り付く。全体のデッサンも少し崩れたよ

うな……(汗)

「あ……あ、あ、あ、輝ちゃんの……ぶぅわかぁぁぁぁぁっ!!」

(ずどむっ!!)

「僕かぁぁぁっ!?」

 見事なステップインで僕の懐に潜り込み、捻り込むような右ストレートを左

胸――心臓に向かって打ち込んでくる。ハ、ハートブレイク・ショットとは、

洒落てやがる……(笑)

「この、変態!! 変質者!! キ○ガイのフニャチ○チ○カス野郎!! 覚

えてやがれぇぇぇぇぇえっ!!!」

(ドドドドドドドドドドド……)

 地面に吸い込まれるように崩折れる僕に、悪役じみた捨てゼリフを残しつつ、

星野さんは土煙を上げて走り去った。

「ダ、ダイジョウブ!? おにいたまぁ!!」

 その僕に、慌てて駆け寄る雛子。

「なんてヒドイおばさんなのぉ!!」

 いや、半分以上雛子さんの所為じゃないかと……(汗)

「ダイジョウブ? 痛い? 痛い? おにいたまぁ! 今、ヒナがさすってあ

げるね!」

(ジィィィ〜……)

「だぁぁぁぁぁあっ!! 何でズボンのチャック下ろすのっ!?(汗)」

「こまかいこと気にしちゃメッですよ、おにいたまぁ(はぁと)」

「気にするよっ!!……ってどこに手ぇ入れてるの!?(汗)」

(もぞもぞ……)

「ダイジョウブだよ、おにいたま!! ヒナ、亞里亞おねえたまといっしょに

アイスキャンディーで、たっくさんれんしゅうしたんだからぁ〜(はぁと)」

「だぁぁぁっ!! だから、皆普段どんな会話してんのさ――はぅ!?」

(むんずっ)

「あ…………りっぱ(ぽっ)」

(ドサッ!)

 と、握りしめられた(何を?)直後、再び僕の背後で何かが地面に落ちる音が

……(汗) 恐る恐る振り返るとそこには――

「あ、あ、あ、あ、あ、あ、輝……ちゃん……」

 鞄を取り落とした、星野さん……(汗)

「な、何で……」

 走り去った筈じゃあ……

「わ、私……私、矢っ張りもう一度輝ちゃんのこと、信じてみようって……そ、

それなのに……それなのに酷い、酷すぎるよっ!!」

「信じるなぁぁぁぁぁぁぁあっ!!(泣)」

「輝ちゃんの、ぶぅわかぁぁぁぁぁっ!!」

(どっごぉぉぉぉぉぉむっ!!)

 再び華麗なステップインからの鳩尾への一撃で、地面とキスする僕。薄れゆ

く意識の中で、走り去る星野さんが奏でる地響きと泣き声、そして雛子の囁き

声が、いつまでもいつまでも耳に残った……



「つづきはお家にかえったら――ね、おにいたま(はぁと)」






☆ Sister Princess ☆
<Short×2>

−ASUKA STRIKES!−



−That's all.−



 ――って、タイトル違っとるやん!!



 追伸:

 翌日、広まった“輝ロリー説”を撤回させるべく雛子との関係を釈明して回

った輝だったが、新たに“輝シスコン説”及び“輝鬼畜説”を追加され、挙げ

句彼に想いを寄せる12人の同級生から折檻されたことをここに記す。



 いとあはれ。



 もしくはバカ。






(1st edition : 2000/06/02)

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