ジェイク7

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13

 再びティエンルンのいる広間へ戻ったオレ達だけど、そこから先へはどうやって行けば良いのかが分からない。
 目の前には二つの通路がある。
 太陽の回廊と月の回廊だ。
 どちらの道に入っても、結局シャッターのところまで戻されてしまうのは分かっている。
 そしてシャッターのせいでそこから戻ることもできない。
 現状オレ達はこの限られたエリアに閉じ込められてしまったことになる。
 一生こんなところにいるのはゴメンだからな、早くここを突破する方法なり別の道なりを探さないとだぜ。
 オレは二つの通路の上に描かれている紋章をじっと睨み付けた。
「太陽と、月だよなぁ。うーん・・・」
「ジェイク、どうかした?」
「さっきからなんか引っ掛かってるんだよ。それが何かは分からないんだけど」
「ホント? ジェイク、早く思い出して!」
「うわっ、エイティそう急かすなよ」
 オレの身体をゆさゆさと揺するエイティ、だけどこれじゃあちっとも考えがまとまらない。
「どうだろう、ここでこうしていても始まらない。もう一度この辺りを丁寧に調べてみようじゃないか。ひょっとしたら何処かに隠し通路でもあるかもしれんぞ」
「そうね。この通路自体が侵入者の目を欺くためのトラップかもしれないし」
「よし。調べてみよう」
 ランバートにも特に異論は無いようだし、ここはベアの提案に乗ることにする。
 全員で広間の壁や床面などを調べて回った。
 コンコンと壁を叩いたり怪しい隙間が無いかあちこち覗き込んだりと、かなりの時間を費やした。
 しかし。
「何もなかったわね」
「うーん」
 一通り見て回ったんだけど、思ったような発見は無かったんだ。
「となると、やっぱりここか」
 結局例の通路の前に戻ることになる。
 頭の上では今もティエンルンが優雅に宙を舞っていた。
 こっちが焦っている時にその勝ち誇ったような優雅な態度が何となくカチンと来るんだよな。
「なあ、いっそのことあのティエンルンを倒しちまえば、ここの結界だかなんだかが解けるんじゃねえか?」
「ええー、まさかー?」
 全員でティエンルンを見上げる。
「ふっ止めておけ。あれは幽体のようなもので実体はここにはいないようだ。あれに攻撃したところでどうにもならん」
「へー、そうなんだ」
 ランバートの言葉に妙に感心しているエイティだった。
「しかしそうすると、だ・・・」
 いよいよ本格的にこの通路の謎解きをしなければならない。
 普通に行くんじゃダメなんだよな、何か工夫なり何なりしていかないと・・・
「ねえ、大勢で行ったらダメなんじゃないかな? 試しに一人ずつ入ってみない」
「一人ずつ、ねえ」
「分かった、俺が行ってみる」
 ランバートが一人、月の回廊へと入って行った。
 しばらくして・・・
「やはりダメだな。また戻されてしまった」
 シャッターの方から戻って来たんだ。
「ホントに? 何か変なことしたんじゃないの?」
 今度はエイティが一人で太陽の回廊へ。
 だけど結果はやっぱり同じだった。
「うーん、一人で行けば良いとかじゃないのかな」
「いや、ちょっと待った」
 その時オレの中でピーンと来るものがあったんだ。
 これはひょっして、ひょっとするんじゃねえか?
「エイティ、ランバートも。さっきと反対の通路に入ってくれないか」
「さっきと反対の通路?」
「何か思いついたらしいな」
「ああ。さあ、頼んだぜ」
 オレが二人の背中をグイと押してやる。
 今度はランバートが太陽の回廊に、そしてエイティが月の回廊へと入って行った。
 あとはじっと待つだけだ。
「あれー、どういうこと?」
 月の回廊の中からエイティの素っ頓狂な声がする、どうやらビンゴのようだ。
「ジェイクどうして? ティエンルンが出なかったわ」
「こっちもだ」
「よし、それじゃあ最後にもう一回だけ確認だ。今度はまたそれぞれ逆の通路に二人同時に入ってみてくれ」
 エイティとランバートは顔を見合わせて不思議そうに首を傾げながらもオレの言う通りにしてくれた。
 その結果も予想通り、二人ともシャッターのところまで戻されてしまったんだ。
「これでハッキリしたな」
「ジェイク、もったいぶらずにそろそろ種明かしをしてよ」
「そう焦るなよエイティ、今説明するから。その前に思い出して欲しいんだ」
「思い出すって、何を?」
「エルフの森の神殿さ。あの時地下通路を進んで行っただろ。そして」
「えーと、あの時でしょ。確かフレアが突然怖くなっちゃって、私とジェイクだけ神殿の奥へ連れて行かれたのよね」
「そうだ。その時オレ達が連れて行かれた場所を覚えているか?」
「んーと、あそこは確か・・・あっ!」
「なるほど、そうか」
「思い出したみてえだな」
 エイティとベアの顔がパッと輝く、どうやらオレの言わんとしていることに気付いたらしい。
 しかし、一人蚊帳の外なのはランバートだ。
「何の話かさっぱり分からん。勿体つけずにさっさと説明しろ」
「慌てるなってランバート。エルフの神殿でオレとエイティが連れて行かれた場所だけどな、そこは『月の聖地』と呼ばれていた。女だけしか入れない場所だったんだ」
「月? 女だけだと・・・」
 ランバートが回廊の入り口にある紋章を見上げる。
 紋章に描かれているのはそう、太陽と月だ。
 そしてさっきも試したように、月の回廊にエイティが入った場合はティエンルンは現れなかった。
「みんな分かったな。エルフの神殿では月が女の象徴だったように、ここでも同じことが言えるんだ。そして残りの太陽は男の象徴なんだと思う」
「つまり、月の回廊には女だけ、そして太陽の回廊には男だけしか入れないってことかしら?」
「おそらくな」
 オレが示した回廊の謎解きにみんなが一様にうんうんと頷いている。
 どうやら反対意見は無さそうだ。
「そうすると、月の回廊に入れるのは女だけなんだから・・・」
「エイティとオレだけだよな」
 当然だろ? とばかりに答えたオレだったけど、そんなオレを見てエイティが目を丸くしていたんだ。
「ん? どうかしたか、エイティ」
「ううん、なんでもない。なんでもないわ。そうよね、そうそう。私とジェイクが月の回廊よね」
 なんだエイティのやつ? 何か気になることでもあったのかな。
「それなら太陽の回廊のほうは俺とベアで行けば良いんだな?」
「うむ」
 ランバートとベアが視線を交わして頷き合う。
 無駄な会話なんか無くても意思が通じるのが男同士ってものらしい。
「エイティさん、ボクは?」
「ボビーは男の子だからベア達と一緒よ」
「ハイ、ボク頑張ります!」
 エイティがボビーを抱き上げて頭を撫でてやってから「お願いね」とベアに手渡した。
「エイティ、これを持っていけ」
 ランバートが例の葉っぱにくるまれた包みをエイティに投げてよこした。
「これは?」
「ビスケットだ。この先まだどのくらい道が続くのか分からんからな」
「ありがとう。途中で食べさせてもらうわ」
 エイティが受け取った包みを懐にしまう。
「よーしみんな聞いてくれ。ワシらはこれから二手に分かれて行動する。だが、必ず合流できるはずだ。いや、合流するのはもう洞窟の外かもしれんがな。
 ワシらの行く手には凶悪なドラゴンが立ちはだかるやもしれぬ。しかし、必ずやそれらの苦難を突破して、生きて再会しようではないか。きっとこの洞窟から脱出できるはずだ。
 明日の朝日を共に見ようぞ」
「「「おー!」」」
 ベアの檄が飛んで気合が入った。
 あのランバートですらオレ達と一緒に声を上げて腕を高く掲げたくらいだからな。
 男と女で別々に行動することになった今だからこそ、オレ達の結束はより強いものになった。
 だから大丈夫、きっとこの回廊を突破してまた全員無事に再会できるさ。
「それじゃあジェイク、行きましょう」
「ああ。オッサン達も無事でいろよ」
「心配いらん」
「フン。人の心配より自分達の心配でもしてろ」
「もう、ランバートったら相変わらずなんだから」
 最後に言葉を交わしてそれぞれの回廊へと進んだ。
「ティエンルン、出て来ないみたいね」
「思った通りだぜ」
 自分の推測が正しかったことに満足する。
 けど、これで終わりじゃないぜ、全てはこれからなんだ。
「エイティ、覚悟は良いな?」
「平気よ。さあ、行きましょうか」
 エイティと二人、月の回廊を進む。

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