1A. |
視床下部は、規則正しいリズム(パルス)で性腺刺激ホルモン分泌ホルモン(ゴナドトロピン)を分泌し、脳下垂体にホルモン産生の手配をするよう指令を送っています。
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1B. |
視床下部は、自分の分泌した性腺刺激ホルモン分泌ホルモンの量をチェックし、自らその分泌量の調節をしています。
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2A. |
脳下垂体は性腺刺激ホルモン分泌ホルモンを受け取ると、その量に応じて卵胞刺激ホルモン(排卵ホルモン)や、黄体形成ホルモン(妊娠維持ホルモン)を分泌します。
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2B. |
性腺刺激ホルモンの量は、視床下部でチェックをされ、その分泌量を、性腺刺激ホルモン分泌ホルモンを通じて調節されます。
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3A. |
性腺(卵巣)で作られた卵胞ホルモンは、血液中に分泌され全身に行き渡ります。
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3B. |
飲み薬や注射の形で男性ホルモンを投与しても、血液中に入り全身に行き渡ります。
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4A. |
血液中に分泌された卵胞ホルモンは、標的組織に作用し、その組織の働きを活発化させます。
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4B. |
飲み薬や注射の形で投与された男性ホルモンも、血液を通じて標的組織に作用し、その組織の働きを活発化させます。
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4C. |
血液中の性ホルモンの量は、視床下部と脳下垂体でチェックされ、性ホルモンを一定の量に保つように、性腺刺激ホルモン分泌ホルモンや、性腺刺激ホルモンの分泌を通じて調節されます。このことは、卵胞ホルモン、黄体ホルモン、男性ホルモンのいずれかが増えても、ホルモン産生臓器への指令を少なくすることを意味します。
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4D. |
健常な女性の場合は、排卵のために起こる卵胞ホルモンの急激な増加に対し、一過性に性腺刺激ホルモンを増加させ、妊娠の準備をします。
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(1) |
性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するため、月経が停止します。月経の停止は比較的すぐに見られるようです。長期にわたって男性ホルモンを使用し、内性器がかなり萎縮している人でも、体調を崩したり、不定期なホルモン投与により、しばしば、不正出血がおこるようです。
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(2) |
長期使用により、内性器の萎縮がおこります。
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(3) |
咽頭の軟骨(甲状軟骨)の肥大化による、声の低音化。いわゆる、声変わりがおこります。声変わりが落ちつくまでには、半年から2年くらいかかります。その間は声が出しづらかったり、歌が歌いづらくなります。
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(4) |
あごひげ、体毛の発生、陰毛の増加がおこります。これらの発生には、個人差が大きいようです。すね毛はけっこう生えやすいようです。しかし、髭の発生は、長期に男性ホルモンを使用している方でも、まばらにしか生えない人もいます。
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(5) |
陰核(クリトリス)、男性ホルモンの使用により大きくなってきます。クリトリスは、発生学的にペニスと同じものです。これを利用した、ペニスの再建手術も外国では行われています。人によっては、親指の半分ほどの大きさになり、極短小のペニスのようになります。クリトリスの増大に伴い、「パンツにあたって痛い」とか、「正面に突き出てきた」などという話もきかれます。
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(6) |
体格の男性化、筋肉量の増加がおこります。男性ホルモンには、骨格の成長作用があるため、手足が大きくなったり、わずかながら身長の増加も見られる場合もあります。年齢が若く、骨の成長が止まっていなければ、肩幅が広くなるなどの、骨格の男性化もおこるでしょう。筋肉量は、骨の成長に関わらず増加します。体を鍛えれば、ボディービルダーのような体つきになることも可能です。筋肉量が増加するので、痛風持ちの方は気を付けなければなりません。筋肉量の増加に伴い、基礎代謝も亢進するので、暑がりになるかもしれません。体脂肪は、皮下脂肪型から、内蔵脂肪型に変化します。太った場合には、女性のようにぽっちゃりするのではなく、男性のようにどっしりとした感じになるでしょう。
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(7) |
皮脂分泌の増加。いわゆる脂性(あぶらしょう)になります。このためニキビができやすくなり、ひどい場合には、背中からお尻までニキビができることがあります。あまりにひどい場合には、皮膚科に相談してください。
皮脂腺が活発になるため、肌のきめが粗くなり、毛穴が目立つようになります。肌自体は、以前よりも強くなります。
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(8) |
頭髪の脱毛、いわゆる、はげがおこります。はげの起こりやすさは、体質にもよるでしょう。男性ホルモンの過剰投与により、著しい脱毛が起こるともいわれています。このような場合は、投与量を減らすとある程度回復するともいわれています。
はげの原因の一つには、皮脂腺の活発化が関係しているといわれています。はげ予防のため、まめに洗髪して、皮脂をよく洗い流し、頭皮のマッサージを行いましょう。
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(9) |
性欲の亢進。男性ホルモンには、両性の性欲を亢進させる作用があります。しかし、性欲の亢進は、個人差が大きいようです。男性ホルモンを使う前から、性欲が強い人もいますし、男性ホルモンを使っても、性欲が亢進しない人もいます。これは人間の性欲が、動物的な本能以外に、精神的な欲求によって支配されているためだと考えられています。
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(10) |
多幸症や、他の精神症状。多幸症とは、何もかも幸せな感じがする状態です。男性ホルモンで見られる、他の精神症状としては、「ぼーっとして物忘れがはげしくなる」とか、「やる気が出てばりばり仕事したくなる」ということがいわれています。特に、持続性注射剤を使っている人では、注射してから2・3日の間に、精神症状が出やすいようです。また、投与量や間隔を変えたときにも、現れる場合があります。この場合は、過剰投与の可能性があるので、投与量を減らしてください。
ホルモンを規則正しく投与していない場合にも、精神症状や、身体症状が出ることがあります。この場合は、ホルモンが一時的に切れるためおこることで、男性ホルモンの副作用とは違います。
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(11) |
皮膚色調の変化。男性ホルモンを使うと、肌の色が黒っぽくなることがあります。これはメラニン色素の増加と、肌の表面があらっぽくなるためにおこると考えられます。
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(12) |
肝機能検査値の異常。男性ホルモンは、胆管を細くし血中ビリルビンなどの値を高くすることがあります。また、全ての性ホルモンは、肝臓で分解されるため、肝臓自体を痛めることがあります。この場合にはGOT、GPTなどの値が高くなります。どちらの場合でも、異常値が見られたら医師と相談してください。
#ビリルビン:胆汁色素のこと。黄疸や肝障害の指標に用いられる。
#GOT、GPT:細胞内酵素の一種。特に、肝細胞が壊れたときに血液中に放出されるので、肝障害の診断に用いられる。
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(13) |
血中コレステロール値や、中性脂肪の増加。いわゆる動脈硬化の原因です。男性ホルモンには、血中コレステロール値や、中性脂肪の増加作用があります。その反対に、卵胞ホルモンには、血中コレステロール値や、中性脂肪の減少作用があります。更年期移行の女性に、高脂血症が多いのも、卵胞ホルモンが出なくなるためです。
血液検査の結果。総コレステロールや、中性脂肪の値が高い場合には、高脂肪の食事を避け、適度な運動を行いましょう。
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(14) |
ナトリウム、カリウム、水、カルシウム、硫酸基、リン基などの体内貯留の増加。いわゆる、塩分や、それに伴う水分が増加します。男性ホルモンを投与すると、急速に体重が増加することがあります。この場合は、体の水分が増えたのだと考えてください。高血圧になりやすくなるので、血圧の高い人や、心臓に持病のある方は注意してください。もちろん、男性ホルモンの作用により、筋肉がつきやすくなるので、徐々に水分以外の体重も増加します。
参考までに、同じ体積の場合、筋肉の重さは、脂肪の約2倍です。体形があまり変わらなくても、脂肪が減り、筋肉が増えれば、体重は増加します。
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(15) |
膣の機能低下。男性ホルモンを、長期にわたって使用すると、膣が萎縮し、内膜が減少し、自己浄化作用が低下します。そのため、単純細菌による、膣感染症を起こしやすくなります。抗生物質の使用で簡単に治りますが、恥ずかしさのあまり、病院に行けないので、悪化させる可能性があります。粘りけがあり、白や黄色っぽいおりものが何日も続くようでしたら注意してください。
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(1) |
性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するため、睾丸での、男性ホルモンや、精子の産生の抑制をします。卵胞ホルモンの投与量によって異なりますが、男性ホルモンや、精子の産生が停止するまでには、3ヶ月位はかかるでしょう。精子形成はダメージを受けやすく、半年から1年の女性ホルモン投与で、永久不妊になるといわれています。このため、一過性の女性化願望の方や、性別違和感の伴なうが、他の方法で精神のバランスをとれる方、男性の生殖機能を失いたくない方には、女性ホルモンの使用は絶対に勧められません。長期にわたって卵胞ホルモンを使用すると、睾丸は萎縮してしまい、かなり小さくなってしまいます。睾丸の機能が低下するにつれ、精液の量が減少したり、色や質が変わってきたりします。
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(2) |
男性ホルモンへの拮抗作用。卵胞ホルモンや黄体ホルモンには、大量に使用した場合、男性ホルモンが活性型に変わるのを直接妨げます。この作用を応用して、前立腺癌などの、男性ホルモンに反応して大きくなる癌の治療薬として、卵胞ホルモンや黄体ホルモンが使われることがあります。
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(3) |
体格の女性化、体脂肪の増加、筋肉量の減少。第二次性徴前に、卵胞ホルモンを使用すると、骨の成長が止まり低身長になります。これは、卵胞ホルモンの骨の成長点を止めてしまう作用のためです。
骨の成長が止まる前での、卵胞ホルモンの使用は、骨盤を広くするなどの骨格の変化も考えられます。しかし、第二次性徴を終え、骨の成長が止まったあとでは、卵胞ホルモンによる骨格の女性化はおこりません。
卵胞ホルモンの使用でおこる、主立った変化は体脂肪の増加でしょう。卵胞ホルモンの使用により、皮下脂肪が増え、痩せた人であっても、腕や腿の脂肪が摘めるようになるでしょう。下腹や大腿も皮下脂肪のつきやすい部分です。かがんだときに、お腹の肉がたわむようになるでしょう。普段、使用している筋肉は、それ程落ちることはありません。でも、普段、使わない筋肉は、かなり落ちてしまうようです。
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(4) |
乳房、乳首の発達。卵胞ホルモンは、乳腺の発達を促します。乳腺の発達は、卵胞ホルモンを初めてすぐに、乳腺の痛みや、緊迫感として自覚することができます。乳腺は、卵胞ホルモン以外に、黄体ホルモンや、副腎皮質ホルモン、成長ホルモンなどの影響を受けて発達します。したがって、男性から女性に移行を望む人が、卵胞ホルモンや、黄体ホルモンの投与で、立派な乳房になることは希のようです。
卵胞ホルモンを大量に投与した場合には、偽妊娠状態となり、ある程度、乳腺の発育がみられます。けれども、これは一過性の状態であり、投与量を減らせば、大抵は元通りになってしまいます。
乳腺が発達することで、人によっては乳汁がでることがあります。特に、大量に卵胞ホルモンを投与したのち、突然ホルモンの投与を止めると、かなりの量の乳汁がでることがあります。また、卵胞ホルモンと、ある種の薬を服用している場合でも、乳汁がでることがあります。
乳腺が発達することで、特に気を付けなければいけないのは、乳ガンです。卵胞ホルモンの使用により、乳ガンの発生の危険性も、生まれついての女性並になるのです。親族に乳ガンになった人がいる場合には、特に注意すべきです。
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(5) |
赤血球の比重の減少。女性ホルモンは、赤血球の比重を減少させる作用があるようです。月経があるわけではないので、鉄分が不足しているわけではありません。この原因は、蛋白質量の減少が関係しているようです。貧血気味になったり、検査時に異常値がでたら、蛋白質の多い食事をとるように心がけましょう。
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(6) |
血液凝固因子の増加。卵胞ホルモンは、血液を固まらせるための物質を増加させます。この性質を使い、一部の卵胞ホルモンは血液凝固剤としても使われています。この性質ため、健常人に卵胞ホルモンを使った場合、血栓症の危険性が増加します。血栓症は、あまりみられない病気なので、それ程気にする必要性はありません。しかし、タバコとの因果関係も指摘されているので、禁煙をした方がいいでしょう。また、手術などを受ける場合には、3週間前から使用を止めるように勧められています。
血液凝固系は、とても複雑です。卵胞ホルモンが増加させる血液凝固因子は複数あり、それらだけを適切に下げるのは困難です。もし、血栓症の予防を考えるなら、アスピリンの服用が効果を表わすかもしれません。
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(7) |
皮膚、毛髪の女性化。卵胞ホルモンは、皮膚や毛髪を女性的なものにします。皮膚は皮脂腺の分泌が低下し、水分量が増え、きめが細かくなります。しかし、男性の皮膚に比べ、薄く弱いものになります。皮脂の分泌が低下するので、乾燥肌になりやすくなるでしょう。皮膚が薄くなる分、皮膚感覚は鋭敏になるでしょう。
毛髪は細くしなやかなものになります。毛髪の寿命も延びるため長髪にしやすくなるでしょう。
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(8) |
性欲の低下。男性ホルモンにより支配されていた、本能的な性欲は低下します。起床時の自発勃起はおこらなくなることもあります。射精も起こり難くなり、人によってはオルガスムス感覚にも変化が起こり、頂点に到達し難くなるでしょう。
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(9) |
精神症状。卵胞ホルモンを使用すると、人によっては感傷的になったりすることがあるようです。うつ状態にも関係しており、卵胞ホルモンの量が増えるとうつ病の発病率が高くなるともいわれています。イライラ感もおこりやすくなりますが、これは卵胞ホルモンの、ナトリウムと水分の貯留作用のためだと考えられています。
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(10) |
ナトリウムと水分の貯留。卵胞ホルモンは、塩分と水分の貯留を増加させます。このためむくみやすくなったり、下肢に静脈瘤ができやすくなったりします。水分量の変化に伴い眼圧も変化するので、ハードコンタクトレンズを使用している方は、レンズがあわなくなることがあります。偏頭痛も、水分量の増加のためおこりやすくなるといわれています。鼻粘膜も充血し、鼻づまりになりやすくなる人もいるようです。腸の水分も増加させるため、腹部膨満感もあらわれるでしょう。
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(11) |
糖尿病の悪化。卵胞ホルモンは、糖尿病を悪化させることがあります。糖尿病の方は、医師と十分に相談してください。このような方は、決められた以上の量の卵胞ホルモンの服用は絶対に行ってはいけません。
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(12) |
吐き気、つわり様症状。卵胞ホルモンは、朝の吐き気や、食欲不振をもたらすことがあります。特に、内服薬の方がこの副作用を起こしやすいです。
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(13) |
卵胞ホルモンには、肝斑といった、しみを顔に作ることがあります。日焼けが好きな方は、特に注意した方がいいでしょう。
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(1) |
卵胞ホルモンと同じく、性腺刺激ホルモンの分泌を抑制するため、睾丸での、男性ホルモンや精子の産生の抑制をします。女性化作用が少ないため、黄体ホルモンは、現在でも、男性の前立腺肥大症や前立腺癌の治療に用いられています。
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(2) |
乳腺分泌腺の発育促進作用。卵胞ホルモンの使用により、ある程度乳腺が発達したならば、黄体ホルモンは、それを更に発達させるように働きます。しかし、卵胞ホルモンの項でも説明したように、乳腺の発達には他の因子も多く関係しています。ですから、黄体ホルモンを併用したからといって、乳房がより大きくなるとは限りません。
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(3) |
体温上昇作用。これは排卵時に、基礎体温が上がる原因です。体温が上昇するといっても、せいぜい0.5℃程度です。敏感な人なら、熱っぽいと感じることができるでしょう。
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(4) |
麻酔作用。黄体ホルモンには、非常に弱い麻酔作用があります。過去には、黄体ホルモンの誘導体から、麻酔薬が作られたこともありました。この作用のため、黄体ホルモンの使用により、眠気を感じる人もいるでしょう。
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(5) |
抗アルドステロン作用。黄体ホルモンは、アルドステロン(アンドロゲンではない!!)という、水分や塩分を貯留させるホルモンの働きを阻害します。
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(6) |
タンパク異化作用。タンパク質を分解し、エネルギーなどへの変換を増加させます。この作用は、筋肉などを減少させ、体格を女性的なものに変えやすくするかも知れません。
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(7) |
精神症状。黄体ホルモンは、倦怠感や易疲労感をおこりやすくします。
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1. |
どの様な、望み得る変化・望み得ない変化が起きるのですか?
性ホルモンは変身の魔法ではありません。そのため、「性ホルモンを使うと、この人がどう変わるか」という、予想はなかなか立てられません。
女性から男性へ移行を望む人ならばならば、女性・中性・男性、男性から女性へ移行を望む人ならば、男性・中性・女性というような経路でゆっくりと変化していきます。
変化の速度は、女性から男性へ移行を望む人の変化の方が、男性から女性へ移行を望む人のそれに比べて、早くあらわれます。
女性から男性へ移行を望む人のホルモン療法は、不可逆的な要素が多く、人によっては性別再判定手術よりも、性別移行のプロセスに占めるウエイトが高いでしょう。
中性的になりたい、汚い男になりたくないと考えている方は、ニキビ顔の男性、ビア樽の様なおやじになる可能性もあることは覚悟してください。もちろん生活しだいでは、筋肉隆々になったり、美少年になれる可能性もあります。
男性から女性へ移行を望む人の場合は、女性から男性へ移行を望む人のような、劇的な変化はみられないかもしれません。女性としての適応を望む場合には、美容外科的な治療が必要になるかも知れません。ひげやすね毛などは、毛根がしっかりしているため、女性ホルモンの使用により、それらが生えなくなるなることはありません。それらをなくすには、永久脱毛が必要になるでしょう。
女性ホルモンの使用により、男性ホルモンが支配している性欲が低下するため、フェティシズム的な欲求から異性装をしたり、性を変えたいと望む人は、その欲求が低下してしまうでしょう。外国において、この作用を利用して、性犯罪者の更生に、抗男性ホルモンが使われることがあります。
詳しくは、前章5、6、7を参照してください。
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2. |
ホルモン剤別の、使用によって起こり得る危険性と副作用を教えて下さい。
前章5、6、7を参照してください。
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3. |
ホルモン剤別の種類と使用法(注射、内服、貼、塗布)とその効能の違い・特長を教えて下さい。
前章5、6、7を参照してください。
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4. |
ホルモン剤別の適量(投与間隔・量)を、教えて下さい。
前章5、6、7を参照してください。
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5. |
新しいタイプの新薬が開発されないのでしょうか。
※海外で乳牛等に長期効果のあるホルモン剤(カプセル剤)を
※使う文献を読んだ事があるそうです。
このような製剤については、私は聞いたことがありません。あるとしても海外でも治験段階であり、日本で臨床にでるまで10年ほどかかるでしょう。また、海外で発売されたからといって全ての薬が日本に入ってくるとは限りません。欧米では肝毒性の低い経口男性ホルモン剤が発売されていますが、日本での採算が見込まれないので発売の予定はないそうです。
現在、日本で開発が進んでいるものは、男性ホルモンのパッチ剤とアルコールが含まれていないかぶれにくい卵胞ホルモンのパッチ剤(貼り薬)です。後者については数年内に発売が予定されているようです。どちらも欧米ですでに発売されている製剤です。
過去には、ペレットという、人間用の性ホルモンの、埋め込み剤がありました。しかし、現在は、動物用のものしか発売されていません。この薬は、現在では、雄牛を去勢して、雌牛のように育てるために使われます。なぜならば、雌牛の肉の方が美味しいためです。乳牛に使われる製剤も、この一種だと思われます。
最近では、犬や猫の避妊用の埋め込み剤も発売されています。同様のものが、南米などで、人間にも実験されましたが、実用にはいたっておりません。
特殊なものでは、マイクロカプセル製剤や、リポソーム製剤というものの開発が進んでいます。これらは、注射以外の方法で、投与することが難しい薬を、ものすごく微細な粒子にして、それをマイクロカプセルなどで包み、経口投与できるように工夫したものです。この製剤は、薬の吸収効率は悪いのですが、インシュリンや成長ホルモンなどの、注射以外に投与方法のない薬に応用されつつあります。また、外国では、天然型の性ホルモンへの応用も研究されています。
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6. |
ホルモン剤の中で、使用してはいけない薬はありますか。
前章5、6、7を参照してください。
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7. |
ホルモン剤と併用で、相乗効果を表す物ってありますか?
また、危険性を増す物もあるのですか?
(ビタミン・食品・運動・美容法・etc...。)
ビタミン剤の併用は、性ホルモン剤に対し、特別な影響はありません。
性ホルモンを使用したからといって、特に、食事に気を付ける必要もありません。
筋肉を付けたい、痩せたいというなら話は別でしょうが、この場合は運動や美容法を心がける方が効果的です。
美容の問題でいえば、男性ホルモンを使用すると、肌が脂ぎってきます。女の子にもてたいなら、こまめな洗顔と鼻パックくらいはした方がいいかも知れません。
女性ホルモンを使用すると、肌が弱くなるので日焼けには注意した方がいいようです。
どちらにしても常識の範囲で行ってください。
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8. |
性腺除去をしてから投与を受けた方がよいのですか?
ホルモン療法に際して、性腺除去を行う必要はありません。また、長期にわたって性ホルモンを使用すれば、性腺は萎縮してしまい、性腺の除去を行ったのと同じ状態になります。
女性から男性へ移行を望む人の場合、アメリカでは、男性ホルモンの投与を開始したら、2年以内に性腺を除去するように勧められるようです。しかし、卵巣や子宮には、男性ホルモンの直接の作用点が少ないので、あまり気にすることはないでしょう。
多嚢胞性卵胞と男性ホルモンの因果関係もうたわれていますが、多嚢胞性卵胞は、卵巣が男性ホルモンを盛んに出す病気であって、外来性の男性ホルモンが、多嚢胞性卵胞を引き起こすことはないでしょう。
男性から女性へ移行を望む人の場合、性腺除去は容易に行えます。性腺除去は、もう後戻りしたくないと、自分に踏ん切りをつけることには役立つでしょう。しかし、長期にわたって性ホルモンを使用しているのなら、男性ホルモンの産生もかなり低下しているので、急いで性腺を除去する必要はないでしょう。
性腺除去をしたあと、性ホルモンの使用がなされていないと、更年期障害様の症状を引き起こすことが多いでしょう。また、性腺除去をしてから性ホルモンの投与をした場合でも、急激にホルモン環境が変わるため、色々な症状がでると予想されます。このことからも、性ホルモンの使用前に性腺除去をしない方がいいと考えられます。
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9. |
ホルモン剤を使用するにあたって、心得ておかなければならない事はありますか?
女性から男性へ移行を望む人でも、男性から女性へ移行を望む人でも、ホルモン療法を行ったら、何らかの後戻りできない変化があることを、知っておかなければなりません。
女性から男性へ移行を望む人の、ホルモン療法での不可逆的な変化は、ヒゲやすね毛のなどの発毛、声の低音化です。
男性から女性へ移行を望む人の、ホルモン療法の不可逆的な変化は、永久不妊です。乳房が十分に発達した場合には、元のような平らな胸には戻らないかも知れません。
ホルモン療法により、外観が変化していくので、周囲対応の変化や、自分の意識の変化がおこることも考えられます。保守的な場で働いている人や、社会的地位の高い人であれば、仕事を失う可能性もあります。パートナーや家族であっても、ホルモン治療による変化を受けいれてくれるとは限りません。
ホルモン療法により、外観が変化することと、望みの性別の行動様式が身に付くこととは違います。つまり、外観が変わったからといって、望みの性別のように振る舞えるようになるわけではありません。
性同一性障害は、Gender Identity Disorderという名前の通り、自己の性別認識において、何らかの違和感や不快感を感じることをいいます。しかし、自分が心地よいと感じる性別、望みの性別に移行するには、その性別としてのアイデンティティーを、新たに形成しなければならないのです。
アイデンティティーというものは、自分一人では形成することができません。他者から、自分がどのように扱われているかを、自分にフィードバックして、初めてアイデンティティーが形成されるのです。
精神科で性同一性障害と認められたから、ホルモン療法を開始したから、性別再判定手術を終えたから、といって、突然、自分が望む性別のアイデンティティーを獲得することはできないのです。
ホルモン療法は、自己の否定したい性別の特徴を消し去り、望む性別の適応をしやすくさせるためにおこなわれます。このことは、望みの性別としての実生活経験を進めやすくし、望みの性別としてのアイデンティティーや振る舞いを、獲得することにつながります。
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25. |
適正な料金ってあるのですか? 弱みに付け込まれてボッタクリされるって聞いたのですが。
前項、9を参照にしてください。
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26. |
何故、公式に行ってくれないのですか? 過去にホルモン治療に係わる、裁判判決などがあるのですか?
自費診療も、公式な診療の一つです。保険診療ではないだけです。さらには、性同一性障害のホルモン療法は、現時点では保険適応がなされていません。
ここで言われている「公式」というのは、性同一性障害の治療としてのホルモン療法のことですね。なぜ公式に行われないかには、いくつかの理由が考えれます。
医療者側の問題としては、「性同一性障害が、日本の医療で認められて日が浅いこと」、「医療者が、まだ、性同一性障害に関する知識を持っていないこと」、そして「性同一性障害に対する偏見があること」などが考えられます。
当事者側の問題としては、「偏見や差別を乗り越え、大きな病院などで、性同一性障害の治療ためのホルモン療法を受ける努力をしている人が少ないこと」、「名前や戸籍の変更や、性別再判定手術を望まない人の場合、すでにホルモン投与だけを行ってくれる病院で、満足できること」などが考えられます。
患者としては、すぐにホルモン投与を行ってくれる病院に行ってしまう気持ちも、わからないでもありません。しかし、公の治療を望むのであれば、一人ひとりが大きな病院に出向かなければ、性同一性障害の患者はいない、見たことない、といっていつまでも治療の範囲は広がらないでしょう。
やむを得ず、信用のおけない医療機関で仕方がなく治療を受ける場合には、トラブルを回避するために、診察のたびに記録をつけておくことをお勧めいたします。万が一、事故にあった場合でも、記録があればたとえ自費診療であっても相手側の医療ミスを訴えることができます。
たとえば、あやしげな病院の医師に、大量のホルモン投与を無理に進められて、体調を崩した場合などには、記録さえ残しておけば、訴えることもできるでしょう。この時には、医師に何もいわず、まず弁護士と相談してください。でないと、カルテを改ざんされる恐れがあります。また、医師がまともにカルテを取っていないこともあるので、自分で明確な記録を残すことが重要になります。一番良い方法は、診察時の会話を録音しておくことです。
ただ、自由診療の場合は、治療を受けた人の自己責任も問われます。良心的な判断をしている医師に、医師の言いつけを守らず、トラブルに陥った場合には、「こんなはずじゃなかった」と訴えても無駄なことです。
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27. |
どこで、どうすればホルモン治療の処方をしてもらえるのですか?
ホルモン療法を行っていることを、明らかにしている病院は非常に少ないです。もし、あなたが精神科に行かれているのならば、その病院から紹介してもらうか、診断書や紹介状を書いてもらい、良心的な病院を探すのがよいでしょう。
性の問題を特集した雑誌や、本の後ろに性の問題を扱っている病院のリストが載っていることがあります。その中の病院を尋ねるのもいいでしょう。電話や受付で断られる可能性もありますが、本気でホルモン療法を望むのならば、その気持ちを医者に伝えてください。
大きい病院では、担当医に権限がないところもあります。一概には言えませんが、年配の医師より、若い人の方が理解があるようです。
やむを得ず、良心的な病院を選ぶことが難しければ、電話帳で美容外科、産婦人科、泌尿器科の病院に片っ端から電話をかけて探してください。この場合、あなたの受けている医療行為には自己責任が伴います。そして、そのことは性同一性障害の治療を受けているという評価にはならないかも知れません。
参考までに、
通常、女性ホルモンは婦人科、男性ホルモンは泌尿器科の病院にしかおいてありません。
精神療法を受けず、ホルモン療法のみを受けている場合には、医療ではあなたを性同一性障害と認めていません。今後、性別再判定手術を受けたり、名前や戸籍の変更望むのであれば、必ず精神科にかかってください。たとえ、精神療法とホルモン療法の順序が逆になっても、現段階では仕方がないこともあるでしょう。しかし、精神科の診断なしにホルモン療法を受けることは、趣味でホルモン療法を受けていると考えられても仕方がありません。あなたが性同一性障害を医療にもっと認めて欲しいと願うならば、多少嫌な思いがあっても精神科に行くことをお進めします。精神科医は、ホルモン療法で起こる様々な不安を解消することに手を貸してくれるでしょう。
自分が性同一性障害であるかどうかは、自己決定するものと、医師が必要により判断するものとがあります。現時点では、医師の作った診断と治療の指針にあわない人も大勢いると思います。それらの人は、自己決定で自分を判断し、治療を進めてください。そのことが、今後の医療にとって利益にも、不利益にもなるかも知れません。しかし、治療を望む人は、今苦しんでいるのですから、それを回避する権利はあるでしょう。
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28. |
「性同一性障害」を知らない専門医が多いのは何故ですか?
性、そのものが医療の対象とされていなかったこと、性同一性障害が、何万人に1人という希な病気であるため、取り上げられることがなかったことが原因です。
実際、性科学を勉強している医療関係者達でさえ、埼玉医科大学の答申の後に、性同一性障害を知ったわけです。それまで、性同一性障害は、日本の医学書にはほとんど載っていませんでした。
精神科医なら、性同一性障害の患者が来たら、そのことを勉強をするでしょう。しかし、初めから性同一性障害のことを、詳しく理解している精神科医は、ほとんどいないでしょう。
精神科以外の医者は、精神的問題を抱えている患者と聞いただけで、嫌がる傾向にあります。そのため、これらの医師に、性同一性障害を理解してもらうのはかなり難しいです。
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29. |
ホルモン治療についてのアドバイスや、精神面でのカウンセリングをしてくださる人はおられるのですか?
ホルモン治療のアドバイスについては、大変少ないのが現状です。最近では、性同一性障害のピア(当事者)カウンセリングが各地で行われています。その中には、カウンセリングの勉強をなさった方や、医療関係者もおり、医療のアドバイスや精神面でのケアを行っています。また、ジェンダークリニックの精神科医の治療経験も増えてきましたので、ホルモン治療の際におこる、精神面のケアも行われています。
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30. |
ホルモン剤を使用していると、生命保険等の加入を断られるって本当ですか?
保険の種類にもよるでしょう。
障害保険なら問題ないと思いますが、疾病保険の場合、各社の規約を読まない限りにはわかりません。性同一性障害は致死性の病ではないので、ホルモン療法を受けたところで問題ないと思います。いざというときに下りないのが保険ですから契約書をよく読んでみてください。
考えられる問題として。
ホルモン療法を受けている、男性から女性へ移行を望む人が乳がんにかかった場合は、ホルモン療法と発病の因果関係から、保険適応がなされるかの判断が難しいでしょう。(乳がん患者の3%は男性患者です)
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31. |
ホルモン治療に、健康保険等の適用ができるのですか?
診察には保険適応は可能です。注射の手技料と薬代は自費になります。同じ診察のときに、何らかの薬を保険で筋肉注射していれば、注射の手技料も保険扱いになります。
血液検査は、ホルモン療法により「肝障害の疑い」があれば、肝機能検査項目についても保険請求は可能です。
大きな書店や図書館に行けば「保険診療請求点数表」というものがおいてあります。それを参考にすれば、行われる手技が、大体わかっている場合、性別再判定手術の値段さえ推察することができるでしょう。
自費診療であっても、診療請求明細の発行を求めることはできます。大きな病院であれば、必ず明細を発行しています。どのような治療が幾らかかっているのか、尋ねてみるのもいいでしょう。
詳しくは前章9を参照してください。
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32. |
埼玉医大のジェンダークリニックに産婦人科の先生は、おられるのですか?
埼玉医科大学のジェンダークリニックでは、精神科医、形成外科医、泌尿器科医、産婦人科医が協力して活動しています。
産婦人科医は、女性から男性へ移行を望む人の内性器の問題、男性から女性へ移行を望む人のホルモン療法に深く関与しています。
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33. |
性別再判定手術(性転換手術)に関して、どの様な法的制限があるのですか?
性腺を除去することが、母体保護法の「正当な理由なく生殖を不能とする処置を行ってはいけない」という、条文に抵触します。
性同一性障害が疾患として認められ、治療のガイドラインが作られたので、精神科医の診断に基づき、性別再判定手術が行われた場合には、正当な理由があると見なされます。
もちろん、ガイドラインはあくまでも指針であり、これに外れるからといっても、違法になるかは検察の判断次第です。
例えば、電話1本で手術を行った場合には、正当な理由がないとされ、カウンセラーや精神科の紹介があったり、充分な面接が行われた上で手術が行われた場合には、正当な理由を見いだしたとも考えられるわけです。
ただ、過去に違法とされた手術ですし、社会倫理にも触れる恐れのある手術ですから誰もやりたがらないのです。
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手術までも見据えた場合の手順はどうなっているのでしょうか?
受付ているのは、埼玉医大だけなのですか?
海外と同じ様に日本でも、カウンセリング・ホルモン剤投与・手術の段階を経るのですか?
埼玉医科大学では、精神科医の面接、他の疾患(半陰陽、精神分裂病など)の除外診断、リアルライフテスト、確定診断、ホルモン療法、手術の必要性の判断、性別再判定手術という順序で行うようです。
ただこれは、今まで何の治療もしてこなかった人のための治療基準であり、何らかの治療を受けてきた人は、これに柔軟に組み込むようにしているようです。
公式に手術を受け付けているのは、日本では埼玉医科大学だけですが、幾つかの大学病院も、「患者が来たら検討したい」と言っているようです。地方の方は、ぜひ地元の大学病院の精神科を尋ねてみてください。
海外でも、性同一性障害の診断と治療基準は作られております。ハリー・ベンジャミン・スタンダードなどが有名です。
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