杜甫詩選
杜甫詩選
黒川洋一編
角川文庫 P279
野人送朱桜 (野人(やじん)朱桜(しゅおう)を送る)
七言律詩。ある農夫がさくらんぽうを届けてくれたことをうたう。成都にあっての作。

西蜀桜桃也自紅     西蜀(せいしょく)桜桃(おうとう)()(みずから)から(くれない)なり
野人相贈満筠籠     
野人(やじん) 相い贈りて筠籠(いんろう)()
数廻細写愁仍破     
数廻(すうかい) 細写(さいしゃ)して()(やぶ)れんかと(うれ)
万顆匀円訝許同     
万顆ばんか) 匀円(いんえん)にして(かく)も同じきかと(いぶか)
憶昨賜霑門下省     
(おもう)(さく) 賜霑(してん)す 門下省(もんかしょう)
退朝擎出大明宮     
退朝(たいちょう) 擎出(けいしゅつ)す 大明宮(だいめいきゅう)
金盤玉筯無消息     
金盤 (きんばん)玉筯(ぎょくちょ) 消息無し
此日嘗新任転蓬    
 此の日 新しきを()めて転蓬(てんぽう)(まか)
大意
西四川のさくらんぼうも都のそれと変わりなくその持ち前の色としてまっ赤である、近所のお百姓が竹かごに溢れんぱかりにそれを贈り物にくれた。なんども注意深くあけうつすのだがそれでもなおもその薄い皮が破れはせぬかと気づかわれ、このおぴただしい粒々がどれもこれもまんまるなのでよくもこんなに同じくそろったものだと不思議に思う。わたしは思い出す、むかし門下省の一員としてこの果物の恩賜にうるおい恭しく捧げもって大明宮の朝賀から退出したことを。しかしその黄金の大皿と玉の箸の消息ももたえたままである。今日この日、わたしはこの初物を味わいながらまろぴゆく(よもぎ)のごとくに身をさすらいの旅にうち任せているのだ。


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