帰園田居(園田の居に帰る)其一よ

方宅(ほうたく)十余畝(じゅうよほ)
草屋(そうおく)八九間(はちくけん)
楡柳(ゆりゅう) 後簷(こうえん)(おお)
桃季(とうり) 堂前(どうぜん)(つら)なる。
曖曖(あいあい)たり 遠人の村
依依(いい)たり 墟里(きょり)の煙。
(いぬ)()ゆ 深巷(しんこう)の中
(とり)は鳴く 桑樹(そうじゅ)(いただき)
戸庭(こてい)塵雑無(じんざつな)
虚室(きょしつ)余閑(よかん)有り。
久しく樊籠(はんろう)(うち)に在りしも
()た自然に(かえ)るを得たり。



大意

宅地は十畝(せ)あまり、草ぶきの家は間取り八、九室はある。
楡や柳が裏手の軒下をおおい、桃や李(すもも)が座敷の庭先に並んでいる。
はるか遠くにかすんでいる村里には、ゆらゆらと炊(かし)ぎの煙が立ち昇っている。
村の奥まった路地裏では犬が吠え、桑の木の梢では鶏が鳴いている。
わが家の門や庭にはつまらぬ俗客の出入りはなく、ガランとした部屋は
十分に余裕がある。
長い間、かごの鳥の生活をつづけてきたが、これでまた本来の自然の姿に
もどることができる。

42歳の時の作品とされています。
私の好きな作品のひとつです。
田園(田舎)に帰り、自然のなかで一生懸命、朝日が昇る前に野良仕事を
はじめ夕方暗くなるなで月のひかりを浴びながら、鋤をかついで帰路に
着くそんな情景をうたった詩です。

さて、「柳」「楡」 「桃」と「李」の字があります。
 小学館の辞典でおさらいです。

やなぎ【柳】
(「矢の木」の意とも「楊(や)の木」の意ともいう)
 ヤナギ科ヤナギ属の落葉高木または低木の総称。葉は披針(ひしん)形または円状心臓形。雌雄異株。早春、葉に先だって尾状の花穂をつける。果実は成熟後二裂して冠毛のある種子を散らす。シダレヤナギ・アカメヤナギ・カワヤナギ・コリヤナギ・ネコヤナギ・シバヤナギなどがある。漢名、柳。《季・春》

「楡」
ニレ科ニレ属の植物の総称。
北半球の温帯中心に分布。
日本にハルニレ、アキニレ、オヒヨウの3種が自生する。

「桃」
 バラ科の落葉小高木。中国黄河上流地域原産で、古くから日本に渡来していたらしく、弥生時代の遺跡からも核が出土する。食品の記録は正倉院文書、延喜式などにみられる。現在広く栽培される品種は明治以降ヨーロッパ・中国からの導入品種からあらたに作出されたもの。

「李」
すもも【酸桃・李】
バラ科の落葉小高木。中国原産で、日本には古くから渡来し「万葉集」や「日本書紀」に「李」として登場している。

現在のイメージで十分絵になるんじゃないでしょうか。
この「園田の居に帰る」の中には、いろいろな樹木や木が出てきます。
以下、参考までにあげておきます。
「桑」、「麻」、「豆」、「榛(はしばみ)」、などです。



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