原告第6準備書面

 以下は、2004年11月18日に提出した準備書面である。固有名詞は必要に応じてイニシャルとした。

目次


 本準備書面の内容は、裁判所の作成した主張対比表(改訂2版)に基づき、更に主張を追加し理解し易くするとともに、主張の裏付けを述べた。

(1) 「原告の主張」の項
 裁判所提示の内容を補筆すると共に次の三点を追加した。

(2) 「被告らの主張」の項
 被告らの主張に対する反論とその理由を述べた。


第1 肺高血圧、これに伴う右心不全を発見できなかった過失

1. 平成10年12月15日(循環器内科初診日)の診察について

(1) 原告らの主張 

 亡E子は労作時の息切れ、動悸、頻脈、疲労感を主訴として受診した。亡E子の訴えは、肺高血圧症の典型的な症状である。

 心電図では、明らかに肺性P波が認められた。肺性P波は右心負荷を示唆する所見である。

 胸部X線写真では、右肺動脈が太く、右肺動脈下行枝の幅は計測すると20ミリに拡大していた。心胸郭比は58.7%で、中等度の心拡大となっていた。

 以上の所見は、肺高血圧症、右心負荷を示唆する所見であり、この時点で精査する必要があった(原告啓子尋問調書・p.7)。

 しかし、被告Sは心電図の肺性P波を読めず、また胸部X線写真については、肺高血圧症の存在を示唆する所見を無視し、右肺動脈下行枝の幅を計測しなかった(共にカルテには記載なし)。

 その結果、被告Sは肺高血圧症を疑って精査を行わず、肺高血圧症の発見が出来なかった。

(2) 被告らの主張に対する反論

 @ 亡E子の訴えの動悸、頻脈について、被告らは、肺高血圧、右心不全を疑うべき症状、所見でないと主張しているが、誤りである。被告らこそ、医学的根拠に基づいて主張すべきである(甲B20)。

 A 胸部X線写真の右肺動脈下行枝の幅について、原告らは20ミリ、被告らは16ミリと違うのは、計測位置が違うからである。原告らが既に提出した医学文献(甲B6)に、右肺動脈下行枝幅の計測方法についての記述(甲B6・p.55)がある。以下の通りである。

「胸部X線所見の検討項目と計測の方法」
右肺動脈下行枝径:右肺動脈本幹より下方に十分屈曲した後の最大径を計測(甲B6・p.55)。

 原告らの計測位置は、上記の医学文献にそっている。

 被告らの計測位置は、プリントアウトした写真(乙A10の内、平成10年12月15日分)をみると、随分下方の細い所に矢印がついている。また被告らは、被告らの計測位置について根拠を証明できる文献を提出していない。

 従って、被告らの計測位置は誤りであり、16ミリは誤りである。

 B 被告らは、「心電図上の肺性P波は、かろうじて肺性P波に当たる」と主張しているが、これは、原告らの指摘している肺性P波の存在を認める内容である。但し、この存在をはっきり認めれば、被告らの主張は成り立たないので、否定的印象を与えるために「かろうじて」と述べてごまかそうとしているものであると考える。

 C 被告らは、平成11年6月29日の心電図で見られるような、右軸偏位等の右心負荷所見は、心電図上認められないと主張しているが、平成11年6月29日の心電図では、右心負荷所見の肺性P波は認められているので、「右軸偏位等」の「等」を肺性P波のことだとすると、被告らの主張は当然誤りである。このような表現はまやかしといってよい。


2. 平成10年12月26日(救急外来)の診察について

(1) 原告らの主張

 亡E子の救急外来受診の理由は、ろうさくじの息切れが強くなり、両下肢に脱力感が生じたためであった。
 循環器内科のT医師の診察を受けた。

 心電図の所見では、12月15日に比べて異常が急激に進み、急激な右心負荷を起こしていたことが分かった。肺性P波は相変わらず存在し、III、aVFの陰性T波、胸部誘導の陰性T波、V5の深いS波が認められた。これらはいずれも右心負荷所見である。しかし、T医師は、III、aVFの陰性T波以外読めなかった。

 簡易的に行われた心エコー検査は、観察不良(乙A1・334)であったにもかかわらず、その所見を心電図変化より重要視したことは、重大な誤りであった。

 亡E子の下肢には浮腫も見られ、T医師はカルテに「下肢浮腫↑」と記載していた(乙A1・333)。右心不全症状を認識させる所見である。

 また、12月15日に比べ、GOTが23から82、GPTが23から89と上昇していた。うっ血肝(右心不全による肝機能障害)によるものである。

 亡E子が以上のような状態にある以上、T医師は亡E子を精査し、入院させる必要があった(原告啓子尋問調書・p.7)。入院では右心不全の治療も必要だった。しかし、T医師は亡E子を帰宅させ、右心不全の増悪を生じさせた。

(2) 被告らの主張に対する反論

@ 亡E子の救急外来受診は、徐々に両下肢に脱力感が増強したという主訴によるものだけではない。

A 心電図上、V3、V4における2相性T波の「2相性T波」は「陰性T波」の誤りであり、V4、V5のS波高の「S波高」は「深いS波」と同じ意味であると、被告Sは供述しているが(被告S尋問調書・p.22〜23)、これは原告らの主張と同じことを言っているもんであって、原告らの主張を裏付けている。

B そもそも、循環器内科のT医師と被告Sは子の所見を読めなかったのであり、このこと自体被告らの過失を裏付けている。上記の所見は病態の大きな変化を示しており、従って被告らの、病態の大きな変化はないとの主張は誤りである。

C 被告らの「胸部誘導の波形は電極位置によって大きく異なるものであり」との主張は、被告医院の心電図の信頼性を自ら否定し、ひいては医学上の心電図の診断上の価値を全く否定する暴言である。

D 心エコー検査については、12月26日の場合は記録が残っていないので、被告らの主張する「心エコー検査では、肺高血圧症、右心不全を疑わせる明らかな右心室拡大などは認められていない」ことは確かめることができない。


3. 平成11年1月5日の診察について

(1) 原告らの主張

 亡E子は、平成10年12月26日に救急外来を受診した後も、体調不良であった。朝起きた時気分が悪い、心臓がドキドキする、頭がフラフラすると訴えていた。また、肝機能障害もまだ続いていた。

 亡E子には、心エコーの再検査はもちろんのこと、その他の検査も必要としたが、被告Sは一切の検査をしなかった。下肢浮腫については、触診をして確かめることもしなかった。その結果、肺高血圧症、右心不全を確認出来なかった。

(2) 被告らの主張に対する反論

 被告Sは、尋問では検査は必要ないと述べたが(被告S尋問調書・p.16)、検査を行わなかったことはあってはならない過失であることは明らかである。


4. 平成11年4月20日の診察について

(1) 原告らの主張

 亡E子は、歩行することが少なくなってきたと訴えた。また、下肢浮腫は4ヶ月以上も続いていた。

 心尖部収縮期雑音(弱いものではなく、中等度である)も聴取していた。心尖部収縮期雑音は三尖弁逆流によって生じ、三尖弁逆流は右心不全のほぼ前例に認められる。

 胸部X線写真上の所見は、心胸郭比が60%と拡大しており、右第2弓の突出が軽度ながら存在していた。また、右肺動脈は相変わらず太かったが、被告Sがこの所見を無視しているので、カルテに記載はない。

 以上の所見は、肺高血圧症、右心不全を疑わせるものであり、被告Sは亡E子に心エコー・ドプラー検査をすべきであった。そうすれば、肺高血圧症、右心不全の診断は確実に出来た。

 しかし、被告Sは心エコー・ドプラー検査をしなかったので、、肺高血圧症、右心不全の診断は出来なかった。

(2) 被告らの主張に対する反論

 平成11年4月20日の診察についての被告らの主張は、全て誤りである。

 但し、原告らは4月20日のの胸部X線検査の原寸大の写真を取得しなかったので、右肺動脈下行枝の幅は計測していないが、仮に17ミリとしてもその数値は、原告らの提出した証拠(甲B16及び18)では正常範囲内ではない。被告らの提出した証拠(乙B2)にも、そのような記述はない。

 この時点でも、被告Sが右心不全に気がつかなったことについて、Y医師が医師の常識として考えられないことであると述べているように(甲B14)、この一言に尽きるのである。


5. まとめ

(1) 原告らの主張

 以上のように、亡E子には初診日から肺高血圧症を示唆する所見が認められたが、被告Sは診断できず、心電図の右心負荷所見を読めず、下肢浮腫から右心不全を疑わず、心エコー検査が必要であったにもかかわらず一度も行わず、肺高血圧症、右心不全がようやく発見されたのは、平成11年6月29日の心エコー検査によってであった。

 このように、肺高血圧症、右心不全の発見が遅れたため、亡E子の病状が悪化し、治療が手遅れとなったことは明らかである。

(2) 被告らの主張に対する反論

 被告らは、平成11年6月29日の心エコー検査まで、亡E子の浮腫が右心不全によるものであるとの診断がされなかったことが、不適切であるとはいえないと主張しているが、診断がされなかったことは、即過失といわれなければならない。

 Y医師が、被告Sについて、大学病院専門外来としてはあまりにもお粗末といわざるを得ないと述べているように(甲B14)、被告Sは、大学病院専門外来に要求される医療水準に応じた注意義務に従って、診断を全くしてこなかったことは明白である。


第2 β遮断薬を投与した過失

1.原告らの主張

(1)β遮断薬の添付文書(能書)の「禁忌(この患者には投与しないこと)」の項において、次の事項が記載されている(甲B8及びB9)。

 平成10年12月15日、被告Sは、亡E子の主訴である動悸や頻脈は、カルシウム拮抗薬(エマベリンL)が原因であると判断し、β遮断薬(アーチスト)に変更した。しかし、この被告Sの判断は誤りであり、更にβ遮断薬に変更したことも誤りであった。被告Sも「心不全による頻脈の可能性を考えなかったことに関しては不注意をわびる」と述べ(甲A5)、又「β遮断薬は適切な選択ではなかった」と述べている(甲A3)。

 被告Sが添付文書の内容を理解しておれば、動悸や頻脈について心臓に関係したものかどうかを疑い、確認するのが必要となるが、被告Sは動悸や頻脈の原因を確認することをせず、従ってβ遮断薬を投与したこと自体が過失を構成することは明白である。

 更に、被告Sはβ遮断薬について一切説明を行わなかった。亡E子は「心臓の病気は見つけにくいから、循環器内科に行った方がよい」と助言を受けていた。従って、被告Sからβ遮断薬が心臓には禁忌の薬だと説明があれば、亡E子は心臓は大丈夫なのですかと尋ねているし、β遮断薬を服用しなかった可能性が十分ある(原告啓子尋問調書・p.2)。被告Sがβ遮断薬の説明を怠ったことは、あってはならない過失である。

 β遮断薬の投与によって、亡E子には急激な右心負荷が起こり、平成10年12月26日救急外来を受診した。

 心電図では12月15日に比べて以上が急激に進み、右心不全の症状である下肢浮腫が生じた。血液検査のGOT、GPTの上昇はうっ血肝(右心不全による肝機能障害)によるものであり、β遮断薬によって右室への負荷が増強されてうっ血肝を生じさせたものであると推察された(甲B14)。

 従って、亡E子は12月26日に精査する必要があり、入院する必要があった(原告啓子尋問調書・p.7)。入院では右心不全に対する治療も必要だった。しかし、T医師によって引き続きβ遮断薬(テノーミン)が投与され、帰宅させられたため、右心不全はさらに悪化した。

 平成11年1月5日の外来で、被告Sはカルシウム拮抗薬に戻したが、1月19日にはβ遮断薬を投与すると症状が悪化することが予見できるのにもかかわらず、被告Sは「薬に慣れてほしい」と言い、再びβ遮断薬(テノーミン)に変更した。亡E子は具合が悪くなった。1月26日、亡E子のこの薬(β遮断薬)に慣れるまで体がもたないとの訴えで、被告Sはようやく投与を中止した。

(2) 亡E子の右心不全症状が顕在化したのは、平成10年12月26日であり、被告Sがβ遮断薬の投与を開始したのは、平成10年12月15日である。従って、 亡E子の右心不全と、β遮断薬の投与との因果関係は明らかである。

 また、β遮断薬は右心不全の増悪因子であり、右心不全は肺高血圧症の進行した病態であり、肺高血圧症の予後規定因子である。従って、肺高血圧症の予後は右心不全の程度に依存しており、β遮断薬の投与によって、亡E子の右心不全状態は悪化し、亡E子は死亡に至った。

2. 被告らの主張に対する反論

(1) 被告らは、「1月26日の時点で、亡E子に浮腫等の右心不全症状は見られない」とか、「亡E子の右心不全症状が顕在化したのは平成11年3月中旬以降であって、β遮断薬投与中止後約2ヶ月がけいかしている。従って、亡E子の右心不全とβ遮断薬に因果関係を認めることはできない。」と主張しているが、被告Sが尋問で、平成10年12月26日のカルテの下肢浮腫増強の記載をやっと認めたことにより(被告S尋問調書・p.14)、平成10年12月26日には右心不全症状である下肢浮腫が顕在化していたのであるから、上記の被告らの主張は誤りであることは明らかである。

(2) 被告らは、β遮断薬は右心不全の増悪因子であり、右心不全は肺高血圧症の予後規定因子であることを、被告準備書面(4)及び(5)で認めている。従って、β遮断薬は右心不全と、したがって肺高血圧症の予後に悪影響を及ぼすことになる。

 肺高血圧症が進展し、右心室の機能が障害されてくると、右心不全と呼ばれる状態になるが(甲B1・p.78)、被告らにはこのような認識が欠如していた。

 従って、被告らのいう、β遮断薬と肺高血圧症の進展との間には因果関係はないとの主張は誤りである。


第3 説明義務違反、転院勧告義務違反

1. 原告らの主張

(1) 平成11年6月29日に行われた、心エコー・ドプラー検査の放射線科医師の所見によって、亡E子の肺高血圧症、右心不全が判明した。

 しかし、被告Sは、この重大な検査結果を、亡E子と原告らに一切説明しなかった。また、β遮断薬は肺高血圧による右心不全に禁忌であったことも説明しなかった。被告Sは、6月29日以後の外来通院時にも一切説明しなかった(甲A4及び甲A13)。

 本件において、肺高血圧症、右心不全が判明した場合に、具体的に被告Sに求められるインフォームド・コンセンオに関する注意義務の内容は、訴状42頁〜43頁のとおりである。

 被告Sから説明があれば、亡E子と原告らは、被告Sの診断と治療が初診日よりことごとく誤りであったと判断することが出来、更に必要な検査や治療が行われていなかったと判断することにより、被告Sを即座に替え専門施設に即座に転院することを要求することが出来た。

(2) さらに、亡E子の入院中に、治療に加わった呼吸器内科医師より、肺高血圧症の治療方法として、被告医院では経験のないプロスタサイクリン持続静注法を実施するばあいは、国立循環器病センターに行きますとの説明を受けた(甲A6)。

 本来、被告Sとしては、肺高血圧症の治療方法として、被告医院では経験のないプロスタサイクリン持続静注法があり、その療法に熟練した施設での治療が必要であることを説明すべきであった。

 そのうえで、被告Sには、亡E子に治療に適した施設への転院を勧告する義務があったが、被告Sは行わなかった。

2. 被告らの主張に対する反論

(1) 被告らは、「原告らの主張する説明義務違反により、亡E子がどのような自己決定権を侵害されたのか不明である。また、被告Sを替える権利を誰が持っているのか、転院先が具体的にどのような施設であって、その施設が受け入れてくれるのかも明らかでない。」と主張している。

 上記の被告らの主張については、既に原告準備書面(第四)の14項で反論したが、念のため述べる。

 @ 亡E子が侵害された自己決定権は、被告Sを即座に替える権利及び専門施設へ即座に転院する権利、極めて明快である。

 A 「被告Sを即座に替える権利」とは、患者の訴えにもとづき、被告医院側の然るべき責任者が精査のうえ決定すべきもので、然るべき人物は、被告医院側の医療システムによってあらかじめ決定していることである。

 B 「転院先」については、基本的に医師側より患者側に伝えられるべきものであって、患者はそれによって病院を選択する権利があり、被告らのいうどのような施設かとか、また受入れをしてくれるかは、第一義的に医院側の責任であって、患者側の責任ではない。ちなみに本件の場合、カルテに千葉大学医学部との国立循環器病センター名前を見る事ができる。

(2) 被告らはプロスタサイクリンに関連して種々主張しているが、

 @ 被告らは亡E子の死後、被告医院での病理診断の結果わかった所見(末梢肺小動脈の多発性血栓性閉塞)を持ち出しているが、これは生前の説明義務違反、転院勧告義務違反に対応するものとしては誤りである。

 A また、被告らはプロスタサイクリンの効果が期待出来ないとの証拠も提出せずに、効果について主張するのはおかしい。

 B 更に、プロスタサイクリン持続静注法の臨床経験もないのに臨床効果について主張しているのはおかしい。

 などのおかしい点や誤りがあるにもかかわらず、説明義務違反、転院勧告義務違反はないと強弁しているのは誤りである。


第4 プロスタサイクリン(PGI2)について

1. 本件における重要な事実の確認

(1) プロスタサイクリン経口薬は、亡E子が被告医院で投与された経口薬である(乙A3・p.38)。

(2) プロスタサイクリン持続静注法は、被告医院では実施出来ない治療法であった。これは入院中に加わった呼吸器内科医師が明らかにしているが、その内容は以下のとおりである(甲A6)。
 すなわち、「CCU入院時、当時、PGI2の使用経験はないため、国立循環器病センターへ血栓性肺高血圧症や肺高血圧にたいしてPGI2をつかって治療されている先生へお電話いたしました。そのときも使用にあったての問題となったのが全身状態が厳しい状況にあったこと、特に胸水貯留と血圧が低いということでした」。

2. 原告らの主張

(1) プロスタサイクリンが肺高血圧症に有効である作用機序として、次の点がある(甲B18)。

(2) プロスタサイクリンの作用は、血管拡張作用のみでは説明出来ない。なぜなら、プロスタサイクリンでは、慢性期の肺血管抵抗抑制効果が、急性効果の乏しい症例においても認められるからである。(甲B18・p.2194)。

(3) プロスタサイクリン経口薬(甲B19のBPSとはプロスタサイクリン経口薬の一般名)は、本件のように血栓が末梢に存在する末梢CTEPH(慢性肺血栓性肺高血圧症)についても有効であることが示唆されており、生命予後を改善させている(甲B19・p.2196-8及び甲B19・p.2196の図1-右)。

(4) プロスタサイクリン経口薬に効果がない場合、速やかにプロスタサイクリン持続静注法を行う必要がある(甲B19・2197-8)。

3. 被告らの主張に対する反論

(1) 上述2原告らの主張(1)及び(2)より、被告らのようにプロスタサイクリンを肺血管拡張療法と決めつけるのは認識不足である。

(2) 上述2原告らの主張(3)より、本件においては効果が期待出来ないと主張するのは誤りである。

(3) 上述2原告らの主張(4)より、被告らは本件においてはプロスタサイクリン経口薬に効果がみられないからプロスタサイクリン持続静注法でも効果が期待できないと主張しているが、これは誤りであり、プロスタサイクリンの使い方を全く知らないのである。

4. 原告らの主張は国立循環器病センターの医師の執筆による甲B18号証及び甲B19号証を根拠としているが、それに対して被告らは原告らの主張を否定するのみである。そして被告ら自身が主張する根拠を証明できる文献を提出していない。経験もなく、医学的裏付けのない主張は信憑性がなく失当である。

5. 亡E子は血圧の低下が問題となり、プロスタサイクリン持続静注法が実施出来なかった(乙A3・p.107及び甲A6)。

 亡E子は外来時は高血圧症と診断されており、血圧が低下したのは入院してからのことである。

 従って、プロスタサイクリン持続静注法が実施出来なかったのは、外来時における被告Sの診断の遅れによって、貴重な時間を無駄に過ごしてしまったからであり、被告Sの過失であることは明らかである。


第5 因果関係について

1. 本件についてはすでに詳述したように、平成10年12月15日(初診日)に肺高血圧症を疑い精査が必要であった。この時点で、肺高血圧症の的確な診断と適切な治療のために専門施設に転院しておれば、本件結果が回避できたことは明白である。

2. 平成10年12月15日(初診日)からのβ遮断薬の投与がなければ、平成10年12月26日に救急外来を受診することはなく、うっ血肝を生じさせることもなく、右心不全の症状である下肢浮腫が生じることもなく、而後の病状に影響を及ぼすことはなかった。

3. 専門施設に転院していれば、被告Sのように必要な検査をせず、β遮断薬に固執し、平成11年6月29日まで肺高血圧症、右心不全の発見ができない状況が続くことはなかった。更に右心不全状態が放置されることはなく悪化することもなかった。

4. また治療については、転院後は平成11年8月の入院時とは異なり亡E子の状況が全く違っていることが明らかである以上、プロスタサイクリン経口薬については、本件においても有効であることが示唆されていることから(甲B19)、その効果が期待出来、また血圧の問題がなくプロスタサイクリン持続静注法が実施出来るというように、適切な治療を受けられたことは明らかである。

5. 以上から、亡E子は平成11年8月31日に死亡することもなくなお生存していたであろうことを是認し得る高度の蓋然性があることは明らかである。

6. 次に、亡E子が平成10年12月15日からのβ遮断薬の投与の故で平成10年12月26日に救急外来を受診した場合について述べる。
 12月15日(初診日)からのβ遮断薬の投与によって急激な右心負荷が起こり、右心不全症状が顕在化し、精査、入院を必要とした。従ってこの時点おいて専門施設に転院していれば、β遮断薬の投与はなく、それにより右心不全が悪化することもなく、この場合でも結論は上記3から5に述べた内容と変わらない。

7.以上により、本件においては被告らの過失と本件結果との間に因果関係があることは明白である。

以上


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