HALF AND HALF JOURNAL
無意味な破片
HHJ
悪魔がとうとう怒ったというのがある。
☆ ☆ ☆ HHJ VOL.90 2003.2.16 特派員―オイル・タンカー〈プレスティージ〉がスペイン沖で沈没した事故について、12月28日付けのル・モンドによれば、ギリシア人船長アポストロス・マングラスは尋問でこんなことを証言した。パニックが短い時間起き、機関長が〈固定観念〉を持ちはじめて、国際救助船が船を攻撃しに来て乗組員を暗殺する、積荷を盗む、と神経的な叫びを上げた、と。 半分半分放送局長―初めてだな、事故で環境サインの犠牲者と思われる証言が報道されたのは。こういうノイローゼは真実の破片だよ、君。 編集長―〈無意味な破片〉はテアトルでの上演を狙ってる。対話形式はいつでもすぐステージに移せる。他の破片を適当に寄せ集めて再構成するという方法も可能だ。 放送局長―シナリオを読める人がいればいいんだが、なあ。 ナモネ氏―暗記させていくらかドラマの要素を加えると、退屈しないんじゃないか? 特派員―でも、ねえ、今の日本には集会の自由さえもないんですよ。石垣昇市議がスタジオでトーク・ショーをやる決意をしたのはこの春だけど、お喋りの相手が見つからない。そうこうしてるうちに彼は左目が動かなくなって入院、酒が祟って。酒というのは、目に見えない権力だ。 ナモネ氏―野呂田芳成の秘書の一人が北秋田で一番稼いでる酒屋の倅。札束に化ける酒だから、禁酒法を作りたいもんだよ。 編集長―石垣昇は大町花壇不正移送の住民監査に署名した市議だから、次のステップは議会で批判糾弾だと期待していたんだが、アンラッキーだよ。 放送局長―まあ、タイミングというか時の運も才能のうちさ。他のスペースでやれば、ゴー・サインが出るかな、どこからか?それとも、トーク・ショーのことだけど、地域住民が自発的に遠慮してるのかな? ナモネ氏―後が怖いということだよ。 編集長―しかし、こういう遠慮は犯罪的だな。 放送局長―後の祭りって、受けるかもしれないなあ。ニヒルなムードで。 放送局長―新しい戦争とはレトリックの戦いでもある。共同通信によると、ブッシュ大統領は去年11月21日プラハで北大西洋条約機構(NATO)首脳会議を前にして〈ロシアは敵ではない。敵は自由を憎む国際テロ組織だ〉と宣言した。自由を憎むと強調したわけだが、極東3国の政治権力と多数の国民には冷汗が出るメッセージだったな。 編集長―北方領土を欲張ってロシアとの平和を棄てたんだからなあ。日本人は、完全に孤立したとやっと悟ったね。それとなく脇役に聞かせるという手は、非常に効果的だね。目と目を合わせた対話を嫌う日本的な習慣の逆手を取った話し方だ。 特派員―それは要するに他者の人格を認めないことですからね。二人称の〈You〉があってこそ、私という実存の一人称が成立できるのに、そして、それは歴史的にも哲学的にも否定できない事実だけど、日本人特に権力者はその条件を取り払ってしまう。 アロマ―フィリピンのアロヨ大統領もわざわざ日本に来て自覚を促したわね。〈東アジアという「私たちの共通の家」では「対話が相違を解消するための最上の手段であり、対話だけが困難な過去に終焉(しゅうえん)をもたらし得る」〉と12月4日宮中晩餐会で語った。東南アジアの大部分の国が日本の経済支配下にある事実を思えば、非常に勇気がある発言よ。 ☆ 特派員―自由世界が国際テロ組織と戦ってる状況にその発言を置くと、無言の犯罪集団に対する説得工作のように聞こえるね。名前も顔も出さない闇の脅威に対して、人はどの方向を向けばいいのか分からない。 編集長―日本の政治家がとぼけた演技を続けて謀略機関が本質を貫こうとするかぎり、自爆戦争に落ちて行かざるをえないんじゃないか?つまり、北朝鮮が仮想敵国あるいは悪の枢軸という役割に硬直した論理的な結論を付けようとすれば、韓国と日本を侵略するしかないということだ。これは自民党が原爆投下を盾にとって〈被害者〉のゆすりたかりをやって大きくなった卑劣な自己正当化の論理の行き着くところだね。 特派員―ちょうどル・モンド特派員のフィリップ・ポン(Philippe Pons)が北朝鮮の政治についてHHJと同じ分析をしていますよ。〈この政治体制はジョージ・オーウェル(George Orwell)の想像力に負けまいと挑戦している(défier)〉と〔1〕。寓話小説《動物農場》では全体主義国家が国民の意思を統一するために子分に命令して国境侵略活動をやらせる。 放送局長―問題なのは、そのレポーターが北朝鮮がそんな芝居を打った事実を全然語らないことだ。中年のジャーナリストなら、民主化以前の韓国が動物農場の国だったと胡散臭い事件をいくらでも想い出せる。恐怖で国民を隷属させるのが極東に共通した政治手法なんだ。 編集長―そう。これもやはり別の所に行ってメッセージを送ってる。東京特派員が暗示しているのはむしろ日本海周縁の状況だが、狂言の〈被害者〉は無罪であり正義であるという屈折した論法が国家権力ばかりかマス・メディアの隠れ蓑になってる。HHJも誤解されかねないよ。 特派員―ひねくれてしまったんですね。アメリカが安全保障条約どおりに日本のために戦うとは思えませんね。議会が嫌がるはずです。日本人は、それじゃ約束違反だ、と抗議できるでしょうか? 放送局長―前に言ったが、自分の利益のためにだけ生きてる人間は他人の善意を期待する権利がない。アメリカが日本と韓国の防衛のために戦うとしても合衆国の政治や経済のバランスを崩さない範囲でだろう。 ナモネ氏―中国文化の影響で日本でも〈横〉という言葉は悪い意味を与えられてる。しかし、行政機関の文書はコンピューター時代に即応して感心なことに横書きに変わった。進歩的なはずの新聞雑誌は対照的に伝統的な縦書きにこだわってる。思想的な根拠があるのか? 特派員―さあ、生き方と精神を映しているのでなければ、縦書きを止めない理由についての記事を出してほしいですね。権威ある大新聞の編集委員がしたり顔で書けば、日本語の教育にも役立つでしょうから、ねえ。 ナモネ氏―〈仮面について〉は縦書きの起源に光を当てたように思える。縦は、T字型の垂直線から来てる。富と幸運と輝かしい未来を象徴するものだ。そして、中国の三星堆遺跡で発見された青銅面の望遠鏡のような両目が縦目と呼ばれたのは、レヴィ=ストロースと編集長が見抜いたとおり〈何事にも眩まされない〉〈知性の勝利〉を象徴しているが、それも呪術的な欲求に混じって文字を縦に連ねたのだと考えたいね。 特派員―たぶんそうでしょう。マス・メディアの偉い人たちには90才の長老の意見を尊重してもらいたいと思いますよ。 ナモネ氏―年齢や身分・地位の序列を真実よりも優先する、それも呪術的意識だよ! 特派員―日本のマス・メディアの呪術的操作好みと深層的な繋がりがありますね。広告の配置の仕方も、同じですよ。 ☆ ☆ ☆ 1 20世紀前半のイギリスの小説家・批評家。スペイン戦争に参加した。 |